2013 年 2 月 23 日 のアーカイブ

三國菜恵 13年2月23日放送


登場人物たち ユミ(岡崎京子『pink』)

家に帰って、
家族に「ただいま」を言う人もいれば、
犬に「ただいま」を言う人もいて、
ワニに「ただいま」を言う人もいる。

岡崎京子の漫画『pink』に登場する主人公、ユミは、
ワニと暮らしている。

ワニは食いしんぼうだからかなりエサ代がかさむ。
だから彼女は昼はOLをしつつ、
夜の仕事もやめられない。

けれどそんなこと気にならないわというふうに、
ばくばくと肉をたいらげるワニに向かって
笑顔でこうつぶやくのだ。

いいって、いいって、気にしなくて
オマエは私のスリルとサスペンスなんだから

日々の暮らしにほんのすこしの秘密をもつことで、
人はおだやかに、たくましく、
生きていけるのかもしれない。




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三國菜恵 13年2月23日放送

Clint Koehler
登場人物たち チャコ(渡辺ペコ『9時から5時までのチャコ』)

漫画家、渡辺ペコの作品『9時から5時までのチャコ』。
そこに登場する主人公の女の子、チャコは、
午後10時、新宿の居酒屋である男性と出会った。

若そうな見た目のサラリーマン。
話をきけば、つい3日前に、奥さんが出て行ってしまったのだという。

チャコもつい1時間前に、好きだった彼にフラれたばかり。
それは、ゆきずりの恋にでも発展しそうなシチュエーションだった。

けれども2人は、ホテルなんかには向かわず、なぜか卓球場へ。
カコッ、カコッ、と無心に球を打っては、ラリーをくり返す。
汗だくになりながら沈黙をシェアし合うのだった。

朝、ふたりは定食屋で
ふわふわな卵焼き定食を長い長い一日のしめくくりに食べ、
電車が動きはじめた駅へ向かう。
ふたりの別れ際のお礼はこんな言葉。
ひとりだったらきっと
ごはん食べる気になんてならなかったと思う

どんな関係であれ、
いっしょにおいしいごはんを食べてくれる人の存在が
人生をすこし、あたためる。


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三國菜恵 13年2月23日放送

chao
登場人物たち 森進一『襟裳岬』

森進一の代表曲『襟裳岬』。

この曲の、名もなき主人公の心情に、
当時25歳の森は、自分の姿を重ね、はげまされていたという。
それは、この一節。

日々の暮らしはいやでも
やってくるけど
静かに笑ってしまおう

つらい時期をむかえていた森にとって、
襟裳岬の主人公はまさに自分だった。


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三國菜恵 13年2月23日放送


登場人物たち 王様とこども(谷川俊太郎『黒い王様』)

谷川俊太郎作『黒い王様』。
そこには境遇の異なる2人の人物が登場する。

ひとりは、裕福な王様。
もうひとりは、貧しいこども。

谷川は、彼らの異なるかなしみを
こんなふうに描いてみせた。

おなかをすかせたこどもは
おなかがすいているのでかなしかった
おなかがいっぱいのおうさまは
おなかがいっぱいなのでかなしかった

 ふたりともめになみだをうかべて
 おなじひとつのほしのうえで

かなしみの理由は人それぞれで、
何が不幸かなんて、くらべられないのだろう。


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三島邦彦 13年2月23日放送

Susan NYC
登場人物たち 断食芸人(カフカ『断食芸人』)

カフカの名作、『断食芸人』の主人公は、
その名の通り断食をすることを生業にしている。
檻の中で、断食何日目という札をかかげて、
ただひたすらに時間の経過を待つ日々。

飲み食いをせずに生きる。
そのシンプルなエンターテイメントに、人々は驚く。
時間が経つほどに、誰かが陰で食事を与えているのではと疑う人が増える。
議論が高まるほど注目は集まり、見に来るお客の数が増える。

しかし、人は飽きる。残酷なほど突然に。
そしてみんなに飽きられ、忘れられた後も、断食芸人は食事をしなかった。

ある日、サーカスの団員が、檻の中にいる断食芸人を発見した。
彼はまだ生きていた。何も食べず、何も飲まずに。
発見した男は、なぜ断食をし続けるのかを聞いた。
断食芸人はこう答えた。

美味いと思う食べ物が見つからなかったからなんだ。
見つかってさえいればな、世間の注目なんぞ浴びることなく、
あんたやみんなみたいに、腹いっぱい食べて暮らしていただと思うけどね

みんなに飽きられて死んだ男、断食芸人。
彼もまた、世界に飽きていたのかもしれない。


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三島邦彦 13年2月23日放送


登場人物たち ウィリアム(ティム・オブライエン『ニュークリア・エイジ』)

男が穴を掘る。
自宅の庭に核シェルターを作るため。
家族からどんなに止められても、男は穴を掘りつづける。

男の名前はウィリアム。
アメリカの作家ティム・オブライエンが書いた小説
『ニュークリア・エイジ』の主人公。
幼い日に見たキューバ危機のニュースがきっかけで、
生涯核戦争を恐れて生きることになった。
ウィリアムは語る、

もし何かを想像することができるなら、それは存在しうるのだ。僕はあらためてそう思う。
でもこういうのを想像してみてほしい――核戦争を。

イメージは人生を支配する。
核兵器のない世界だって、想像できたはずなのに。

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三島邦彦 13年2月23日放送


登場人物たち コペルくん(吉野源三郎『君たちはどう生きるか』)

吉野源三郎の本、『君たちはどう生きるか』。
友だちを裏切ってしまい、心を痛める主人公のコペル君に、
仲良しのおじさんはこう伝えます。

僕たちは、その苦痛のおかげで、人間が本来どういうものであるべきかということを、
しっかりと心に捕えることができる。

心が痛む時。それは、大事なことを学ぶチャンスの時かもしれません。


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三島邦彦 13年2月23日放送


登場人物たち 女房(古今亭志ん生『厩火事』)

昭和の名人、古今亭志ん生。
彼の落語に出て来る夫婦は、いつもケンカをしてばかり。
ある時、働きもせず家で寝てばかりの旦那に業を煮やした女房が、
大家さんに旦那の悪口を言いつける。
あきれた大家さんは、そんな旦那とは別れてしまえとすすめる。
すると急にもじもじし、歯切れが悪くなる女房。
なんで別れないんだ、と聞く大家さん。
すると一言、

だって、寒いもん。

落語の世界の人々は、ケンカするほど仲がいい。

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