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小山佳奈

小山佳奈 09年5月9日放送

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ちあきなおみ




 いつものように幕が開き
 恋の歌うたう私に 届いた報せは
 黒いふちどりがありました


ちあきなおみは「喝采」という曲で、
恋人を亡くしてもなお、
ステージに立ち続ける女の悲しみを歌い、
文字通り喝采を浴びた。

しかし20年後。
最愛の夫を亡くした時、彼女は歌うことをやめた。
現実は歌よりもはるかに悲しいものだったから。

歌は残酷だ。

それでも世界は、
歌を必要としている。





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内田百閒




 さわら刺身 生姜醤油
 たい刺身
 かじき刺身
 まぐろ 霜降りとろノぶつ切
 ふな刺身 芥子味噌


内田百閒の随筆の中に、
料理の名前だけを延々78品、
書き連ねたものがある。

戦時中食べるものが少なくなり、
せめて名前だけでもうまいものを、と百閒。

言葉は、
ごちそう。

ついでにビールも、
もらいますか。




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土方歳三




新撰組、土方歳三。

鬼の副長と呼ばれた、
彼の趣味は俳句だった。

昨日敵を斬り、今日味方を斬る。
明日生きているのかさえもわからない極限の毎日の中で、
人としての均衡を保つ、
たった一つの糸。

それが俳句だった。

 公用に 出て行く道や 春の月

5月生まれの土方は、
春の句が好きだったという。








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フランシス・コッポラ




 仕事と家族、どっちが大事なの

そう妻に言われて困ったら、
フランシス・コッポラを思い出そう。

映画「ゴッドファーザー」で彼は、
父を音楽監督にし、妹に大役を与え、
娘にヒロインの座をプレゼントした。

仕事と家族、
ではなく、
仕事が家族。

公私混同、
おおいに結構。

コッポラは、よくわかっている。





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小林一茶




小林一茶が初めて結婚したのは、
52歳のとき。

相手は24歳年下。
若い妻、新婚。
それはそれは、毎夜、
せっせと営みを重ねます。

しかしさすがの一茶も、寄る年波には勝てず。
自分を奮い立たせるためにひねり出したのが、
かの有名な一句。

 やせがえる 負けるな一茶 これにあり

200年後の小学生が
無邪気にそらんじる様子を見たら、
一茶はひっくり返るに違いない。





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志賀直哉




原節子を小津安二郎に薦めたのは、
作家、志賀直哉であった。

尊敬する志賀の一言で、小津は、
次回作「晩春」のヒロインに彼女を迎え、
そこから、
日本映画史上最も重要なコンビが生まれる。

これもまた、
作家、志賀直哉の
ひとつの作品である。








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友部正人




誰かにたとえられるということは、
時として名誉であり、
時として重荷でもある。

日本のボブディランと言われた、
友部正人。

彼はそんな肩書きを
むしろ楽しむかのように
軽やかに歌い続ける。

 ボブディランなんて知らない。
 知っているのは音楽好きの若いアメリカ人
 ぼくはその若さだけ信じてた


名誉か重荷かは、
本人が決めること。

 答えは風に吹かれている

ディランもそう言っている。





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小山佳奈 09年4月11日放送



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中原中也 十六歳


 おもしろいじゃないの。


長谷川泰子が中原中也に言った、そのひと言で
中也は恋に落ちる。


田舎から身ひとつで出てきて、
文学という魔物と対峙しようとしている少年にとっては、
誰かひとりでも
「おもしろい」と認めてくれる人がいれば、
人生は確かな輪郭を持つ。


 あゝ 恋が形とならない前、
 その時失恋をしとけばよかつたのです。



気づいたときには、もう遅い。
それが、恋。


中原中也、16歳の春。










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中原中也 十七歳


桜の咲く御所を横目に今出川通りを東へ進み、
河原町にぶつかるその角、
古びた木造アパートの二階に、
中原中也とその恋人、長谷川泰子は、
小さな居を構えていた。


 春風です。
 よろこびやがれ凡俗!
 アスフアルトの上は凡人がゆく。
  顔 顔 顔。



下宿の窓から春を見おろしていた
中原中也17歳。


恋人と初めて迎える春でした。





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中原中也 十八歳




その日は夕方から雨になった。
中原中也と長谷川泰子が暮らす高円寺の家に、
中也の親友、小林秀雄がやってきた。


 その人は傘を持たずぬれながら軒下に駆け込んでき ました。
 私はハッとしました。
 その人は雨の中から現れ出たようで、
 雨にぬれたその人は、とても新鮮に思えたのです。



すぐに二人は恋に落ち、
長谷川泰子は中原中也の元を去る。


その日に、雨さえ降っていなければ。
その日が、4月でなかったならば。


4月は案外と雨が多い。


中原中也、18歳の春。










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中原中也 十九歳




デビュー作というものすべてが、
一瞬の初期衝動で生み出されるものと思ったら、
ちょっとちがう。
どんな天才であっても、
デビュー作には特別な想いがあり、特別に骨を折る。


中原中也が、初めて文壇に発表した詩、「朝の歌」は
わずか14行に3ヶ月以上の月日をかけている。


 ひろごりて たいらかの空
 土手づたい きえてゆくかな
 うつくしき さまざまの夢



恋人は去った。
友人も去った。
故郷も去った。


それでも気がつけば、たったひとつ
詩、という名の夢が残った。


中原中也、19歳の春。





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中原中也 二十三歳




 僕が死んだらあいつに見せて欲しい


そう言って、中原中也が友人に渡した分厚い原稿用紙の束は
別れた恋人長谷川泰子への愛の詩だった。


 女よ、美しいものよ、私の許にやっておいで。
 どんなに私がおまえを愛するか、
 それはおまえにわかりはしない。



未練のある男は、女々しいが
未練のない女は、男らしく
気づいても気づかないふりをする。


中原中也、23歳の春。










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中原中也 二十八歳




今この瞬間を生きることしか考えてこなかった中原中也が、
未来というものの存在に気づいたのは
はじめての子供を持ってからだった。


 自分の未來と子供の未來を合わせれば
 何か大きな仕事ができそうだ



その子がたった2歳で急逝することを知らず….


喜びに満ちていた
中原中也28歳の春。





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中原中也の声




4月生まれの詩人、中原中也は、
亡くなる直前、こう言った。


 今に分かるときが来ますよ


喧嘩っ早くて、
酒を飲むとすぐ大声で、議論をふっかける。


中也は激しい気性ばかり注目されて
魂の底にある悲しみに気づいてもらえなかったことが
多かったけれど。


それでも死の翌年には
たった一人の理解者だった小林秀雄の手で
最後の詩集「在りし日の歌」が
出版されている。


 今にわかるときが来ますよ


中原中也の声が聞こえますか。





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