2014 年 7 月 19 日 のアーカイブ

古居利康 14年7月19日放送

140719-01
trollhare
ヘムレンさんのはなし ①

トーベ・ヤンソンが書いた
ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムレンさん。

ヘムレンさんは、なんにんもいる。
ムーミン谷の外にある、ヘムルの世界、
というところにおおぜい住んでいるという。

切手集めにむちゅうのヘムレンさん。
蝶々や虫ばかり追いかけているヘムレンさん。
整理整とんが得意なヘムレンさん。
警察署長のヘムレンさんもいれば、
孤児院をやっているヘムレンおばさんもいる。

ヘムレンさんは、みんながみんな、
スカートのような服を着ている。
ヘムレンさんは、ヘムル族という生きものの
一員で、スカートはヘムル族の
民族衣装みたいなもの。

ヘムレンさんというのは、つまり個人の名前ではない。
ムーミンが、ムーミン族のムーミントロールであり、
ミムラ姉さんが、ミムラ族のミムラであるように、
ヘムレンさんは、ヘムル族のヘムレンさんなのだ。

だからヘムレンさんはなんにんもいる。

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古居利康 14年7月19日放送

140719-02
SimonQ錫濛譙
ヘムレンさんのはなし ②

ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムル族のヘムレンさん。

ヘムル族は、だいたい、おおむね、
陽気でおしゃべりなのだが、
なかには静かなのが好きなヘムレンさんもいる。

『ムーミン谷の仲間たち』に登場する
ヘムレンさんがそうだ。

そのヘムレンさんは、
川べりにある遊園地の切符係をやっている。

まいにち切符にパチンと穴をあけるだけの
この仕事に、うんざりしているヘムレンさん。
はやく年をとりたいと思っている。
年をとって年金暮らしになれば、どこか
静かなところに引っこんでひっそり暮らせる。

「自分でおもちゃの家をたてようと思うんです。
 世界一きれいなおもちゃの家なんです。
 いくつもいくつもへやがあって、
 それがみんなからっぽで、しいんとしていて、
 おごそかなんです」

静かなのが好きなヘムレンさんの、
それがちょっと風変わりな夢だった。

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古居利康 14年7月19日放送

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readysubjects
ヘムレンさんのはなし ③

ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムレンさん。

『ムーミン谷の仲間たち』に登場する
静かなのが好きなヘムレンさんは、
とにかく音のでるものがきらいで、
遊園地につとめているのに、
笛や太鼓やオルガン、それに、
こどものことがあまり好きではない。

いや、こどもがきらいなわけではない。
わけもなくわらい、泣き、大声をだす。
あたりかまわず歌をうたい、ところかまわず
駆けまわって、いっときも静かにしていない。
こどもたちのだす、そんな音がきらいなのだ。

「あの気の毒な甥は、
 もともとすこし変わりものだったよ」

と、ヘムル族の叔父にも理解されない。

あるとき、大雨が8週間ふりつづき、
川があふれて洪水になって、
観覧車も、メリーゴーランドも、
ぜんぶ流されてしまう。

遊園地はあとかたもなくなって、
ヘムレンさんは仕事をなくしてしまう。

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古居利康 14年7月19日放送

140719-04
[bastian.]
ヘムレンさんのはなし ④

ムーミントロールのおはなしにでてくる
ヘムレンさん。

遊園地が洪水で流されて、
切符係の仕事をなくしたヘムレンさんは、
ヘムル族のおばあさんが残してくれた公園に移り住む。

長いあいだ、だれも訪れることのなかった公園は、
草や花や樹木が生いしげり、荒れはてていた。
けれど、そこにはヘムレンさんの好きな沈黙があった。

ある日、こどもたちがやってきて、
洪水で流された遊具をあつめてきました、
ここに新しい遊園地をつくってください、と頼みこむ。

さいしょはしぶしぶ遊具をなおしたり、
組み立てたりしていたヘムレンさん。
この新しい仕事がだんだん好きになっていく。

新しい遊園地ができあがって、こどもたちが
あつまってきた。うれしそうに遊んでいる。
でも、ようすが変だ。音をたてずにそーっと遊んでいる。
静かなのが好きなヘムレンさんの遊園地だから。

ヘムレンさんは、こう思う。
「あすはみんなにいうとしよう。きみたち、
 わらってもいいし、気がむいたらすこしは
 歌をうたってもいいよって。
 だけど、それ以上はだめだな、ぜったいに」

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