藤本宗将 2011年11月20日

リセット

         ストーリー 藤本宗将
            出演 大川泰樹

気がつくと5人は後ろ手に縛り上げられ、
膝をついて座らされていた。
暗いために彼らの表情までは読み取れないが、
長く伸びた頭髪はひどく乱れており
激しく抵抗したことを示していた。
しかし今はみな声を発することもできず、
ただ恨めしそうに襲撃者たちを見上げている。
自分たちがなにをしたというのだ。
深くくぼんだ眼窩の奥で、眼がそう訴えていた。
森の中から眩しい光とともに
突如現れた異形の集団は
見たこともない銀色の服を身にまとい、
見たこともない武器を肩からさげていた。
どうやって捕えられたのか、まさに一瞬の出来事だった。
「悪く思わないでくれ。
君たちに罪はないが仕方ないんだ」
銀色の連中のうち、
リーダー格とおぼしき1人がそう話しかけた。
しかしあくまでもその口調は、
相手との会話を望んでいるようには思えない
きわめて一方的なものだった。
判決理由を言い渡す裁判官のように、男は淡々と続ける。
「それのせいさ」
男は傍らの焚火のほうに視線を向けた。
表情は冷ややかなままだが、
瞳に映ったオレンジ色の炎がぎらりと光った。
「君たちが火を手に入れたことで、
人類は文明を飛躍的に発達させた。
しかしそれは人類自身を狂わせもした。
われわれとしては、
破滅を回避する必要があったんだ。
そのために、この時代へと送り込まれたんだよ。
もういちど進化をやり直せば、
違う道を歩むことができるかもしれないからね」
いったいなんなのだ?こいつはなにを言っている?
5人に理解することはできなかったが、
動物的本能が身の危険を告げていた。
縛られたまま必死で叫んだものの、
それは言葉にならない。
やがて5発の銃声がひびきわたると、
森はふたたび深い闇と静寂に包まれた。
そのままにされた焚火の残り火が、
あたりを弱々しく照らしていた。
1929 年に北京市房山区
ぼうさんく
周口店
しゅうこうてん
で発掘された
約78 万年前の人類は、考古学者によって
「ホモ・エレクトス・ペキネンシス」と名付けられ、
その周辺からは、ほぼ完全な頭蓋骨5個と
彼らが火を利用していたことを示す跡が発見された。
しかしその化石骨のすべては、
第二次世界大戦の混乱の中で忽然と消えてしまう。
まるで、もとより存在しなかったかのように。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP


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