
遠藤守哉のご挨拶
秋になりました。
というか、秋を通り過ぎ冬に突っ込みそうな勢いです。
秋ってこんなに駿足で勢いよかったでしたっけ。
枯れ葉に涙する、とか
赤く色づいた木の実を掌に乗せてじっと眺める、とか
肌寒い夜に一匹だけ鳴くコオロギに寂寥を感じながら
燗酒を飲む、とか。
そういう季節はどこへ行ったのでしょう。
あれもこれも吹っ飛ばして
半袖をしまう暇もなくセーターを引っ張り出しています。
秋って忙しい。
オリオン座流星群も見損ないました。
それではまた。
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遠藤守哉のご挨拶
秋になりました。
というか、秋を通り過ぎ冬に突っ込みそうな勢いです。
秋ってこんなに駿足で勢いよかったでしたっけ。
枯れ葉に涙する、とか
赤く色づいた木の実を掌に乗せてじっと眺める、とか
肌寒い夜に一匹だけ鳴くコオロギに寂寥を感じながら
燗酒を飲む、とか。
そういう季節はどこへ行ったのでしょう。
あれもこれも吹っ飛ばして
半袖をしまう暇もなくセーターを引っ張り出しています。
秋って忙しい。
オリオン座流星群も見損ないました。
それではまた。
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夕刻
ストーリー:蛭田瑞穂
出演:遠藤守哉
「ワインをお注ぎしましょうか」
ミシマは頷き、グラスを差し出した。
カフェ・ド・フロールのテラスで、
冷えたシャブリが注がれる。
その透明な液体は、夕陽を受けて黄金の輝きを宿した。
パリの空は燃えていた。
沈みゆく太陽が空一面に敷き詰められた無数の鱗雲を、
朱から紅へ、紅から茜へと染め上げ、
巨大な龍が天を覆うかの如き壮観を呈していた。
夕陽は何故かくも美しいのか。
朝陽は希望という名の幻想に彩られているが、
夕陽は何も約束しない。
ただ終焉を、漆黒の闇をもって宣告する。
美とは喪失であり、喪失こそが美の源泉である。
薔薇が永遠に咲き誇るならば、誰がその花弁に陶酔しようか。
恋も青春も、終焉という名の断崖を前にしてこそ、
最も激しく燃え上がる。
この夕陽と共に、すべてが幕を閉じるならば、
—— ミシマはシャブリを一口含んだ。
それは完璧な終幕ではないか。
世界が最も美しく輝く瞬間に、最も美しい形で完結する。
夕陽という巨大な幕が降りて、その幕は永遠に上がらない。
コクトーは言った。
「詩人は永遠の眠りについてから生き始める」
何という逆説。
何という真実。
生きている詩人は、詩人の仮面を被った俗人に過ぎぬ。
詩人の真の誕生を告げるのは、
墓石にその名が刻まれた時である。
喪失の刹那にこそ、美は絶頂に至る。
散る桜も、流星の煌めきも、沈みゆく夕陽も、
すべては失われる瞬間に、
その存在の極致を最も純粋な輝きとして顕現させる。
故に、私は死を恐れぬ。
死とは、美の究極の完成、否、その唯一の実在である。
私はそれを、生まれる前から知っていた。
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出演者情報:遠藤守哉
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明暗
ストーリーと絵 ポンヌフ関
出演 遠藤守哉
私は舟をこいでいた
「舟を漕ぐ」にはふたつの意味がある。
一つは、文字通り、船を漕ぎ進めること、
もう一つは、比喩的な意味で、座ったまま身体を前後に揺らして
居眠りをする様子を表す
そのように居眠りをしていた私だが
気がつくと 霧深い池に舟をこぎ出していた
このまま教師を続けながら小説も書いてゆくか
それとも教師を辞めて小説一本で食っていくか
私は決めかねていた
その時 突然 若い娘が私の目の前に降ってきた
「漱石先生 はじめまして
ここは1907年 明治四十年ですね
わたし、先生の大ファンで作品全部読み進めてきたんですけど
困ります「明暗」途中で絶筆なんて」
「明暗」? 絶筆?
何のことやらさっぱり
一体あなたは誰なんですか
「「時をかける少女」
なんて呼ばれてます。
明治の4コ先の令和からきました」
ならば 私の未来を知っておるというのか?
「あなたは100年以上読み継がれる文豪として文学史に
君臨します そこから先もずっと たぶん永久不滅」
はっはっは
またまたぁ
「ただぁ
このままいくと五十を前にして胃病で亡くなってしまうんです」
なんと!
聞かねばよかった
「大丈夫、未来では胃病はピロリ菌除去で予防できるんです
お願いですからこの薬を一週間飲み続けてください」
少女は未来の薬を私に渡すために来たのだという
(一行先に「娘は」が来るのでここは「少女は」にしました)
「とにかく約束ね パシャッ」
娘はスマホという未来の写真機で私の写真を撮った
「あ、そろそろ行かないと
さよなら 先生」
待ってくれ!
森鴎外はどうなる? あいつも文豪か?
「あと「こころ」の先生、自殺させるのやめませんか?」
娘はわけのわからぬことを言い残して消えてしまった
文豪かぁ 悪くないのう
して、この薬は?
パシッ こら! ちゃぽん
猫が叩き落してしもうた
まあ、よし。どうせ夢の中よ
霧は晴れて水面(みなも)は一面、
蓮の花が咲いていた
やってみるか、、、
ほのぼのと
舟押し出すや
蓮の中
夏目漱石は一大決心の上 教師を辞めて作家となり文豪となった.
彼がこの時が押したのは自分の背中だったのかもしれない。
ただぁ 作家としての活動期間は十年、享年は四十九歳であった。
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出演者情報:遠藤守哉(フリー)
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動画制作:庄司輝秋

遠藤守哉のご挨拶
出演;遠藤守哉
本日2025年7月26日は、凶暴な暑さです。
気温34℃。
1時間前は35℃でした。
一日の暑さのピークは何とか過ぎたようです。
が、暑いです。
しかも、テーブルの上にはカセットコンロがあり
大きな鍋が乗っています。
およそ1時間半煮込まれたその鍋の中は
アイスバインという豚の脛肉の塩漬けと野菜。
肉を食べ終えたらソーセージ。
こんな日の煮込み料理って命知らずですよね。はっはっは。
しかも、その熱を放つ鍋の横で
僕たちは原稿を読みます。
いえ、エアコンはありますがノイズになるので
スイッチがオフになっています。
暑いです。
そんなわけで、来月の収録はお休みです。
9月のTokyo Copywriters’ Streetはお休み、です。
ごめんなさい。暑いです…。
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あとの祭り
ストーリー 関陽子
出演 遠藤守哉
ようこそ、あとの祭り回収所へ。
本日はどんなあとの祭りを回収いたしますか?
そうですね、3大祭りは、
恋の告白。政治家様の失言。夏休みの宿題。となっておりますね。
ああ、あの時思い切って好きだ、と言っておけば!
ああ、ついついオフレコだと思い込んでポロリと本音を!
ああ、なんでうちの子、絵日記が7月から白紙なの?!
・・ほんっと、あとの祭り、でしょ。
はい、回収しますと、皆さん晴れ晴れとお帰りになります。
お客様の前は、お身体のことが続きましたね。
お酒を嗜みすぎて、階段から落ちて大事な顔を擦りむいた、とか。
引越しで、本の詰まった段ボールを持ち上げてしまって腰を!、とか。
実のところ、カラダの後悔は、ココロのそれより切実でして、
その分、こちらの回収は、少しお値段が張るんですが。
で、お客様はどんなあとの祭りを?
・・ベッドサイドに置き忘れたスマホを妻に・・。
あ〜それもあるあるですよ、ふふふ。
では注意事項を。
回収した世界線で、お客様がお幸せになるかどうかは、
保証しかねます。
むしろ一度回収してしまうと、
大抵の方が次はあれ、その次はこれ、となりましてね。
そのうち、幸せになりたいはずなのに、なぜか不幸を探し回るようになってしまう。
回収中毒・・というんでしょうか。
ま、こちらは商売大繁盛の万々歳でございますがね。
・・おっと、口が滑りました。
これこそあとの祭りですよねぇ、ふふふ。
では、どうされますか?
お顔が少しお曇りのようですが、
あまり時間はありません。
この、あとの祭囃子が終わるまでに、
どうぞ、ご決断を。
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出演者情報:遠藤守哉 https://www.nicovideo.jp/watch/sm21477221
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手のひらに太陽を
朝起きたら透明人間だった。
ラッキーだと思った。
透明ならいろんなことができる。
誰にも気づかれずにいろんなところにも行ける。
悪いことだってできそうだ。
考えてみれば、いいことのない人生だった。
いつもオドオド、こっそりと生きてきた。
それでもなぜか、
偉そうな奴らに見つけられてはやたらと絡まれた。
いくら自分は目立たないつもりでいても、
問題はいつも向こうからやってくる。
だから日頃は人と目を合わさないように
いつも下を向いて歩いていた。
だけど今は他人を気にする必要はない。
やっと前を向いて歩くことができる。
そうだ。いつも嫌がらせをしてきた
アイツに仕返しをしよう。
気づかれずに後ろから忍び寄って
頭を殴って逃げよう。
そう思ってはみたものの、
いざやろうと思うと問題はある。
まず武器が持てない。
手に持つものは透明にはならないからだ。
そっと近づいて、
その辺の石でも拾って殴るしかないか。
服を着ることもできないが、
どうせ見えないんだから関係ない。
そう思ったらちょっと気が楽になった。
家を出た。
雨上がりで道は濡れている。
水たまりに気をつけながら歩く。
なんだ結局、また下を向いてるじゃないかと思う。
いきなり車に轢かれそうになった。
相手から自分が見えないとはこういうことか。
下を向いている場合ではない。
気を取り直し、360度、
周りに注意を払いながら慎重に歩いてゆく。
いた。
まだ誰かに絡んでいる。本当に嫌なヤツだ。
後ろからゆっくりと近づく。
濡れた路面が小さな音を立てるが
気づかれている気配はない。
まだ届かない。あと一歩。気が早る。
今だ。思いっきり手を振り下ろした瞬間、
水たまりで足が滑って大きく空振りした。
勢い余ってすっ転ぶ。
バシャンと大きな音がして水が跳ねた。
これだけ派手な音がしたのに
ヤツは全く気づく様子もなく、
何事もなかったように誰かに絡み続け、
そのまま歩き去ってしまった。
なんだ、こんなに自己主張をしても
気づかせることもできないのか。
俺って本当に透明なんだな。と
思ったら急に可笑しくなって、
声を出して笑ってしまった。
驚いたカラスがバタバタと飛び立った。
誰にも気づかれずしばらくそのまま
地面に這いつくばっている。
目の前に水たまりがあった。
いつの間にか雨は上がっていて、
水たまりに青空が映っていた。
ゆっくりと起き上がり、
一度前を向いてそれから上を見上げた。
眩しい。
手をかざしたが透明な手のひらは
光を遮ってはくれなかった。
その先には青空があった。
透明な手のひらの先にある太陽は
いつもより眩しかった。
出演者情報:遠藤守哉
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