リンゴと彼女と

「リンゴと彼女と」 

        ストーリー 細田佳宏
           出演 小川弦

次の駅までの話になりますが、いいですか?

僕がはじめて彼女を見たのは
社会学原論というちょっと退屈な授業でした。
彼女は緊張しているのかきゅっと固く口を結んで、
大講堂の隅でひとり、講義を聞いていました。
雪のような白い肌と、リンゴみたいな赤いほっぺたの女の子でした。

うちの大学には青森というか東北出身の子はたぶん彼女しかいなくて、
おっとりしている上に、
訛りを気にして聞き役に回ることの多い彼女は、
機関銃みたいに喋る関西の女の子しか知らなかった僕にとって、
はじめてつきあうタイプでした。

僕の冗談を一生懸命頷きながら聞く彼女はいわゆる「ボケ殺し」で、
僕がそう言うと彼女はきょとんとしていたんですが、
意味がわかると顔を赤くして、
しばらくは口を固く結んでむくれていました。
「じょっぱり」って言うんでしょうか、
そういうところは意地っ張りな子でした。

夏が終わる頃、実家からたくさんのリンゴが届くと、
彼女は重いりんごを抱えて僕のアパートに来てくれました。

切れない包丁で器用にリンゴをむく彼女に地元のことを聞くと、
五能線というリンゴ畑の中を走る列車のことを話してくれました。
その列車の窓からは、春には花盛りのりんご畑の向こうに
まだ雪を残した岩木山が見え、
秋にはたわわに赤い実をつけたりんごの木が
手の届きそうな距離に枝をさしのべていて
そして、そのリンゴ畑に囲まれた小さな無人駅のそばに
彼女の家があるのだそうです。

そうして就活の時期になって、
僕がようやく彼女と将来のことを考えだした頃、
彼女は青森で就職すると言い出しました。
「東北のために、私も何かしたい」って。
僕は彼女の固く結んだ口を見ると何も言えませんでした。

僕はそのまま関西で就職して、
仕事の忙しさもあって、連絡もしなくなり、
このまま疎遠になっていくのかなって思っていた頃、荷物が届きました。

箱を開けるといい匂いがしました。
真っ赤なりんごがぎっしり入っていました。

箱に貼ってある送り状を見ると
見慣れた字で僕のアパートの住所と、
はじめて見る青森の住所が書いてありました。

はい、その林崎という駅のそばです。
きっと真っ赤なリンゴに囲まれているその駅が、僕が降りる駅です。

僕は、東北へ来ました。

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