湖をみっつ越えて
湖をみっつ越えて、虹の息の根を止めに行った。
ひとつめの湖は腕組みをして座る人の形をしていた。
ただし、肩から上がなかった。
肩から上は何キロも先にあった。
頭の形をした小さな湖だ。
胴体とは、血管のような細い川でかろうじてつながっていた。
頭の湖の先には心臓の形の大きな湖があった。
三つの湖は、首を切られ、内臓を突き出された水の死体だった。
しかし一本の川が最後の血管のようにそれぞれをつないでいる。
湖の息は、まだ止まっていないのかもしれなかった。
三つの湖は、この島国のふたつの陸地が繫がった
縫い目の部分にあった。
巨大な水が東と西の山脈に押しつぶされたのだ。
東と西の大陸の縫い目にはいつも虹がかかっていた。
虹は蝶番(ちょうつがい)のように、或いはホッチキスの針のように
ふたつの陸をつなぎ止めていた。
その虹の根は、湖の北の山にあった。
三つの湖を越えて虹の根元にたどりついた。
虹の根を断ち切れば
この陸は再び東と西に別れるだろう。
三つの湖はつながって、
巨大な水の王国があらわれるだろう。
山は地滑りを起こし、
いくつもの町と村が水底に沈むかわりに
さがしていた男の死体が浮かんでくるだろう。
100万人の命とその営みを沈めても
ひと目会いたい男のために
私はいま刀を振り上げる。
出演者情報:高田聖子 株式会社ヴィレッヂ所属 http://village-artist.jp/index.html