坂本和加 2019年12月21日「クリスマス」

クリスマス

     ストーリー 坂本和加
        出演 清水理沙

アカリは、みんなと同じが好きじゃない。
なぜ同じことをしなくちゃいけないの?
違うのは、だめなの?
転んだとき「痛かったねえ」とか。
どうしてわかったように言うの?
あなたは私じゃないのに。
どのくらい痛かったかなんて、わかるはずがない。
「いいね、わたしもそう思う!」なんて簡単に言わないで。
みんな共感しているフリをしてるだけだよね?
アカリは、ずっとそう思ってきた。

だけど、普通はそんなふうに思わない。
というか普通の子は、そうらしいとわかった。
変わってるねって、褒め言葉じゃないんだってことも。
だからアカリは変わった子。
きょうも普通の子のふりをしながら
いつもと同じことを考えている。

なぜみんな同じが好きなのか。なぜ私は同じが苦手なのか。
こないだは、大人になったら同じが好きになるのかを想像した。
気持ち悪くなった。自分が何かに組み込まれるようで、
それが大人になることなら、私は私のままでいたい。
できるだけ目立たぬように普通の子のふりをして、アカリは大人になった。

ハロウィンとクリスマスは、ずっと苦手なままだ。
仮装してバカ騒ぎするハロウィンに何の意味があるのか。
クリスマスに恋人がいないひとはかわいそうで、
何千万というカップルがイブの夜にセックス。
それって頭がおかしすぎる。
アカリは、ブランドものももってない。
欲しいような気もするけれど。高いし。みんなもっているから。
そんなわけで、ひとと合わせないから、友達も少ない。
でも特に気にしていない。
彼氏はいる。つきあってみれば案外、普通のひとだ。

ある日、聞いたことがある。わりと勇気を出して。
「トウくんは、きっと変わってるよね」
とりたて美人というほどでもない、私とつきあうくらいだから。
なぜそんなことを聞くのかと問われて、
自分が昔から変わっていると言われつづけてきたことを伝えると、
返ってきた答えは意外だった。
「アカリは、オレから見たらちゃんとした、普通の女の人にみえる。
ちゃんと働いて。納税してる」
「なにそれ」
「だってそうだろ」
それからトウ君が言ったのは、
「なにが普通でなにがヘンか、なんて。そんなモノサシどこにもないだろ」。



出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

 


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