ポンヌフ関 2025年8月24日「明暗」

明暗

  ストーリーと絵 ポンヌフ関
     出演 遠藤守哉

私は舟をこいでいた

「舟を漕ぐ」にはふたつの意味がある。
一つは、文字通り、船を漕ぎ進めること、
もう一つは、比喩的な意味で、座ったまま身体を前後に揺らして
居眠りをする様子を表す

そのように居眠りをしていた私だが
気がつくと 霧深い池に舟をこぎ出していた

このまま教師を続けながら小説も書いてゆくか
それとも教師を辞めて小説一本で食っていくか
私は決めかねていた

その時 突然 若い娘が私の目の前に降ってきた

「漱石先生 はじめまして
ここは1907年 明治四十年ですね
わたし、先生の大ファンで作品全部読み進めてきたんですけど
困ります「明暗」途中で絶筆なんて」

「明暗」? 絶筆?
何のことやらさっぱり
一体あなたは誰なんですか

「「時をかける少女」
なんて呼ばれてます。
明治の4コ先の令和からきました」

ならば 私の未来を知っておるというのか?

「あなたは100年以上読み継がれる文豪として文学史に
君臨します そこから先もずっと たぶん永久不滅」

はっはっは
またまたぁ

「ただぁ
このままいくと五十を前にして胃病で亡くなってしまうんです」

なんと!
聞かねばよかった

「大丈夫、未来では胃病はピロリ菌除去で予防できるんです
お願いですからこの薬を一週間飲み続けてください」

少女は未来の薬を私に渡すために来たのだという  
(一行先に「娘は」が来るのでここは「少女は」にしました)

「とにかく約束ね パシャッ」

娘はスマホという未来の写真機で私の写真を撮った

「あ、そろそろ行かないと
さよなら 先生」

待ってくれ! 
森鴎外はどうなる? あいつも文豪か?

「あと「こころ」の先生、自殺させるのやめませんか?」

娘はわけのわからぬことを言い残して消えてしまった

文豪かぁ 悪くないのう
して、この薬は?

パシッ こら! ちゃぽん
猫が叩き落してしもうた
まあ、よし。どうせ夢の中よ

霧は晴れて水面(みなも)は一面、
蓮の花が咲いていた

やってみるか、、、

ほのぼのと
舟押し出すや
蓮の中

夏目漱石は一大決心の上 教師を辞めて作家となり文豪となった.
彼がこの時が押したのは自分の背中だったのかもしれない。
ただぁ 作家としての活動期間は十年、享年は四十九歳であった。

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出演者情報:遠藤守哉(フリー)


shoji.jpg  動画制作:庄司輝秋


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