一倉宏 2007年3月23日



国語の先生がしてくれた「桜」の話

                      
ストーリー  一倉 宏
出演     山下容莉枝

もうすぐ卒業するみなさん おめでとう
もうすぐ この学校とも先生たちとも
さよならをする日が来ます

そしてその日 校門を出れば あのバス通りの交差点が
みなさんの 最初の別れ道になるでしょう
信号を渡るひと 待つひと 駅へと曲がるひと
どんなに名残惜しくても そこはもう別れの道です

3年前 新入生のみなさんを迎えたのは 
校庭の桜の 花吹雪でしたね
あの桜は 今年みなさんを見送るために
咲き急いでいるかもしれません

最後に贈る言葉として
「桜」の話をしようと考えました

国語の授業のあるときに
日本の古典文学で ただ「花」とあることばは
「桜」のことを指していると 
お話したのを憶えていますか
「花」といえば「桜」 は 暗黙の了解でした

それほど 
日本人は「桜の花を愛してきた」といえます
しかし この「愛する」ということばを
ただの「大好きな気持ち」とは考えないでください

きょうは その話をしたかったのです

日本の昔のひとのつくった詩 歌を読むと
「桜」という花を 単純に「好きだ」ということはなく
むしろ「悔しい」とか「悲しい」「切ない」
という気持ちで 表現しています
「桜の花」は美しいけれど あまりに短い時間で散ってゆく
そのことに「胸を痛める」歌ばかりなのです

先生は これが「愛する」ということばの
ほんとうの意味ではないかと思います

桜の花は 咲いて散るまで わずか数週間
けれど 私たちのいのちだって やはり
限りあるものです

日本人が 桜の花からもらったものは
そんないのちの いま生きている時間の
かけがえのなさ 愛おしさ 
だったのではないでしょうか

もうすぐ卒業式 別れの時
ちいさな翼のはえはじめたその肩を 
桜色のまぶしい風が押すでしょう

そのいのちを 大切に
卒業 おめでとう

出演者情報:山下容莉枝 03-5423-5904 シスカンパニー


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