一倉宏 2007年10月5日



世界水切り選手権

                    
ストーリー 一倉宏
出演  西尾まり

私たちは「水切り」と呼んでいた。
あの、男の子たちがよくしていた遊び。
石を投げて、水面をはねる回数を競う、
あの遊びは世界共通のもので、
世界大会とか世界記録もあるのだという。

ドッジボールを投げるのも苦手な私だけど、
男の子たちが「水切り」で遊ぶのを見ているのは、好きだった。
幼なじみのリョウジくんは、
リトルリーグでもピッチャーで活躍していたから、
見事に波紋をつなげて、私をうっとりさせた。
日がとっぷりと暮れるまで、負けず嫌いの男の子たち。
私はどうしてあの頃、男の子とばかり遊んでいたのだろう?

けれど、いつのまにか男の子とは遊ばなくなり、
やがて、私は女の子たちとばかり遊ぶ時代を過ごす。
そして、リョウジとふたたび会うようになったのは、
二十歳を過ぎてからのことだった。

つきあい始めてまもない秋の日、私たちはドライブに出かけた。
中央高速を走り、遊園地で遊び、最後は湖畔で過ごした。
それぞれ、別の中学、高校に通った、その間のことなど話した。
リョウジは、野球ばかりの日々だった、といった。
高校3年まで野球を続け、半端じゃなく練習もしたけど・・・
結局たいした成績は残せなかった、と。

そこには、広々とした湖があったし、足もとに石もあった。
「ねえ。水切り、やってみせて」
そういうと、リョウジは「憶えてんのか?」と驚いたようすで、
それでもけっこう真剣になって、石を選びはじめた。
そして、夕暮れの湖面に向かって投げた。

「1、2、3、456・・・」

やっぱり、川原の平たい石じゃないとな、なんていいながら。

「1、2、3、4、5678・・・」

何回も、石を探しては、投げた。

ひと休みして、リョウジは、
「世界水切り選手権っていうのがあるらしいんだ」といった。
私は、それを聞いて、にわかに興奮した。
「出なよ。それ、行こうよ!」
「でも世界記録は、40回とか、らしいよ」
「すごい! でも、なんとかならない? 
 練習すれば!?」
そういって、私は「しまった・・・」と思ったのだ。
もしかして、すごく傷つけることをいったのではないかと。
でも、リョウジは、笑いながら答えてくれた。
「そうか。なんとかなるかもしれないな。
 世界水切り選手権って手があったか・・・
 甲子園も、プロ野球も、大リーグも夢で終わったけど。」

そういって、もういちどだけ、湖面に石を投げたリョウジ。

「1、2、3、4、5、6、78910 11・・・!!」

夕陽に光る、その波紋のゆくえは、
キリキリと痛いくらいに、私の胸に刻まれたのだった。

*出演者情報 西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー



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