薄景子 2007年12月21日

MRエアターミナル
                    

ストーリー 薄景子                      
出演  坂東工

彼の名前は、レニーモンド。
世界一紳士的で、世界一誠実な空港に贈られる
MRエアターミナルに選ばれた男だ。
僕とレニーが友だちになったのは、
たまに行く小さなバーで
偶然となりあわせになったから。

僕は、MRエアターミナル受賞のニュースを見て
彼のことは一方的に知っていたので
軽く会釈をし、「おめでとうございます」と言ってグラスをかかげた。

「おめでとう?・・・ご愁傷さまだよ」
彼の返事は意外だった。
世界一紳士的なエアターミナルとは思えない、
ぶっきらぼうな言いっぷり。
レニーは、ポケットから手帳を取り出して言った。
「きょうは僕のターミナルで
いってきますを27万回、お帰りなさいを36万回聞いて
家族や恋人のHUGを48万回、別れのキスを62万回も見て
さよならを19万回、泣いている人だって11万人も見た。
それに、きょう1日で、きょう1日でだよ、
87万個の約束が交わされるのを聞いたんだ。
出会いやら、別れやら、愛やら、決意やら、
そんなだいじなことが、毎日通り過ぎていくのに。
僕はいつも置いてけぼりで、どうでもいい通過点なんだ」
レニーモンドは、目に涙を浮かべていた。
あのニュースで見た、
自信あふれるMRエアターミナルとは、全然ちがう顔。
僕は彼のことが少し好きになり、もっと知りたくなった。
「それなら、なぜあなたは、エアターミナルを続けるのですか?」

「10年間、待っている人がいる」
レニーは遠くを見ながら言った。
「恋人?」
僕の質問に、彼はしばらく黙りこんだあと、重い口をあけた。
「そんな時期もあったけど。たぶん、もう帰ってこないと思う。
でも、僕には、待たなきゃいけない宿命があるんだ」
「なんだそれ?」
僕の不躾な返しに、レニーは少しだけ紳士の顔に戻って言った。

「待っている、と約束したから」

彼の名前は、レニーモンド。
世界一紳士的で、世界一誠実な空港に贈られる
MRエアターミナルに選ばれた男。
彼が約束を守り続けるかぎり、
レニーモンド空港で交わされる愛の約束に、
けっして裏切りはないと言われている。
その伝説を守り続けるために、
彼はきょうも、帰らぬ人を待っている。

出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/


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