小松洋支 2008年10月17日



Twilight
                     
ストーリー 小松洋支
出演 浅野和之

夢を見ていた。

小学校の廊下だった。
右手の窓からは校庭が見えた。
左側は工作室になっていて、高学年の生徒たちが
角材とボール紙とセロファンで何かをこしらえていた。

つきあたりが給食室で、
マスクとエプロンと三角巾をした母親くらいの年齢のひとたちが、
湯気の中でいつも忙しく立ち働いているのだった。
自分がそこに向かっているのは、
ミルクが入った大きなケトルとか、パンが並べられた木箱とかを
教室に運ぶ当番だからに違いない。

給食室の間近までくると、
かすかに漂っていたアルコール発酵の匂いが
不意に輪郭を濃くするのだった。
遠い日の甘い記憶に浸るようなあの匂いが好きで、
コッペパンをふたつに割り、
穴を穿つように白い実をむしって食べ、
微細な空気孔の無数にあいたやわらかなパンのくぼみに
鼻をおしあてて、
深々と息を吸いこんだりしたものだった。

夢の中なのにこんなにもはっきりと匂いを感じるのは何故だろう。
そう思ったところで目がさめた。
目の前にパンのひろがりがあった。
つま先からあごの下までおおきな四角いパンが覆っているのだった。
横たわっているのもパンの上のようだった。
粘性のあるひんやりとした膜状のものが体を包んでいた。
それが生ハムであることは確かめなくても分かることだった。
眠っている間に蹴ったのであろうレタスが足もとの方にまるまっていた。

夕暮れだった。
そう思ったが、それはそうではなかった。
すこし離れたところにあるワイングラスを透過した光が、
あたりいちめんにさしていた。

ほどなく、最前より深い眠りが訪れた。

出演者情報:浅野和之 03-5423-5904 シスカンパニー

shoji.jpg  動画制作:庄司輝秋


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One Response to 小松洋支 2008年10月17日

  1. 奥住大輔 says:

    私は非常に似た夢を見た事があります。私の場合は白いご飯で、この物語でパンが醸す甘くて、優しい暖かさではなく、水分を顔に漂わす、顔をそっとなでるような感覚がしていました。そして起きると顔の横には母が用意してくれたおかゆがある。私はそれを食べまた深く寝たのです。
    自分が見た一番良かった夢の世界を言葉巧みに表現し、私に思い出させてくれた小松さん、そしてその世界を少し寂しさを漂わせ懐かしそうに語って下さった浅野さんに感謝です。本気でコピーライターを目指そうと考えました!

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