一倉宏 2009年12月3日



流星になれたら
             
ストーリー 一倉宏
出演 坂東工

いつかこの世に さよならをする日が来たら
すでに用を終えた肉体は ただ 灰になるだけ
それを 残さなくていい

できれば 硬い金属の 小さなカプセルに詰めて
宙(そら)高く 打ち上げてくれ
高く 高く 高く
そうして 地上100kmを越えて 宇宙空間へ
最後に 青い地球を眺めた後は…

生前は 大変お世話になりました
本日夜 故人の希望どおり 遺灰を詰めたカプセルが
大気圏に 再突入する予定です

予定時刻は 午後10時10分前後
方角は オリオン座 あるいは牡牛座のあたり
気象条件がよければ 一筋の流れ星となって
みなさまと 最後のお別れができるかと存じます
これをもって 故人を偲ぶセレモニーとさせていただきます
その他 一切のお心遣いは 不要でございます
どうぞ みなさま 冬の夜のひととき
オリオンを目印に 流れ星をお探しくださいませ

…なんて 考える
最後は 流星になれたらいいのに
ひとは亡くなって 星になるともいうけれど
ふるさとの地球 太陽系と 遠く遠く離れたところで
星になっても なんだかさびしいから
母なる地球の 引力と大気で 燃え尽きる
流星になれたら と思う

地球が誕生して 生命がうまれ 人間たちが闊歩するまで
あるいはもっと 宇宙が誕生してから いまのいままで
その 百億 何十億年という時間に比べたら
僕らの一生なんて ほんとうに一瞬の 
流星のようなものに違いない

僕らはもう 宇宙の歴史も 果てしなさも知っている
どう威張っても 僕らの存在は 短い 
そして 小さい

だけど
だからいっそう 切なくも 愛おしいのだけれど
その流星の 一瞬のきらめきが

そして その一瞬のきらめきのうちにも
精一杯の 願いごとを詰め込んで

僕たちは 生きている

おやすみなさい
またあしたも 元気に 会いましょう

出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸



ページトップへ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA