岡部将彦 2011年1月2日


競合プレゼン

             ストーリー 岡部将彦
                出演 瀬川亮

いやあ、今回はさすがに疲れたよ。

ほら、俺、広告代理店でコピーライターしてるだろ。
そのプレゼンが大変でさ。

よく子どもの頃に、
「なぜ、現れたばかりの怪獣の名前を隊員たちは知ってるんだ!?」
なんて言って笑った覚えがあるだろ。
実は、あれってさ、俺たち広告代理店が
怪獣のネーミングを提案してるんだよね。

ウソなもんか。
怪獣が現れる予兆みたいなのがあるだろ。影を見たとか。声がするとか。
そんな通報が入った時点で、政府から広告代理店にオリエンが来るんだよ。

○伊豆諸島沖 ○見た目は魚に近い ○ギョーと鳴く とか、
その時点でわかってる情報をまとめたものがね。

そこからが地獄さ。だって、いつ本格的に現れるかわからないだろ?
それまでにネーミングを決めなきゃなんないからさ。
プレゼンまで中1日とかザラだよ。

しかも、みんな勝ちたいもんだから、予算度外視して
タレントものを出してきたり。

そうだよ、タレントものだよ。

例えば、こないだ亀型怪獣のネーミングが「ガメラン」に決まったんだけど、
ちゃんと版元には許可を取ったんだって。少ない予算でよくやるよな。

それにほら、官公庁系の競合って参加社数が多いだろ?
最初の頃は、見た目で一番近い動物に「ラ」と「ゴン」を付けてりゃ、
決まったんだけど、参加社数が多いから、案が被るんだよ。

で、他店案と差をつけるために、外国語風のネーミングが流行ったんだよね。
「グランデトーテェ」とか。
あっ、これフランス語で「大きな亀」って意味ね。
よくわかんないぐらいがいいんだよ。オシャレで。

で、次に流行ったのがダブルミーニング。
「G・A・M・E」と書いて「ガメ」と読むんだけど、「ゲーム」とも読めるだろ。
「これは人類の生き残りをかけたゲームです!」とかなんとか。

で、プレゼンの上手い代理店が「もっとわかりやすいネーミングにすべきだ!」
と言い出した。フランス語とか、イタリア語とか、
訳のわからない言語で溢れてたから、それが新鮮だったんだろうな。
「亀型の、恐そうで恐くない、ちょっと恐い怪獣」とか
「核実験、そのあとに」とかね。

で、今回の怪獣がウサギ似らしいんだけど、ん?
そうだよ、可愛いんだよ、見た目。
オリエンは、「恐怖感を訴求しつつ、長く愛される印象的なネーミングが欲しい」だったからさ、
今まで話したような案をそれこそ何案も考えるわけさ。

「ウサラ」だと可愛い過ぎるなあ、とか。
「シー」を足して「ウッシー」だと牛型みたいだな、とか。

で、やっとの思いで自信作が出来たんだ。

「ジャイアント+ラビット」の造語で「ジャビット」!
いいだろ?ツイッターとかでも広まりやすそうだろ。
「ジャ」って音が、邪悪をイメージさせるし。

「ジャビットによる被害は、案外、チョビット!?」みたいなさ、
スポーツ新聞の見出しも想像つくだろ?

今はそういう「口コミのしやすさ」まで計算するんだよ。

ところが、プレゼン直前に巨人軍のキャラクターの名前と被ってたことが
発覚して、やり直し。

怪獣の名前と、自社の商品の名前が近かったりするとさ、
イメージ悪いじゃん。だから大変なんだよ、提案前の商標チェックが。

で、結局2日徹夜して、今、ようやくプレゼン準備が終わったんだよ。

ん?でも何か楽しそうだねって?

そりゃあそうさ。自分の考えたネーミングの怪獣が暴れ回って、
新聞に載ったり、Yahoo!トピックスなんかに取り上げられたら、もう最高だよ。

世の中を騒がしてる!って気がするんだよね。
…ま、実際、騒がしてるんだけどさ、ビル壊したり。

とにかく、こんな楽しい仕事は、きっと他にないね。

ん、なんか外、うるさくない?あれ、なに?マジ、怪獣!?
ってか、ウサギ似じゃないじゃん!
あれ、耳じゃなくて首だよな。2本の長い首だよな?

せっかくプレゼン準備が終わったと思ったら、
オリエン情報間違ってんじゃん!
またやり直しだよ、ちくしょう!!
ちゃんと情報をまとめてから、発注しろよ!

ホント、やってらんねえよ、こんな仕事!!

出演者情報:瀬川亮 03-6416-9904 吉住モータース所属

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋


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