門田陽 2011年1月10日



うさぎのストーリー 「大事な話」篇  

ストーリー 門田陽
出演 大川泰樹

 あなたがこの話を信じようが信じまいが、時は20世紀、
 正確には1969年を境に人類はニンジンが好きな者とニンジンが嫌いな者との
 どちらかいずれかに大別されるようになったのです。
 あなたはどちらですか。お好きですか、なるほど。

 さてそもそも古くから中国、朝鮮半島、
 そして日本においてもニンジンはよく知られた
 薬草であり、その根のカタチが人の姿を思わせるので
 ニンゲンが訛ってニンジンと呼ばれるようになったことは
 ご案内のことかと存じます。
 ニンゲンとニンジン、確かに似ています。一字違い。インゲンもですか、
 ま、それは置いておきましょう。

 もともと私たち人間はニンジンを食べるのは苦手でした。
 良薬口に苦しと言うようにニンジンを好んでたべる人は昔はいなかったのです。
 私はいまでも食べません。 
 それがあるときから少しずつかわっていき、
 今ではニンジンを笑顔で食べる種類の者たちが主流となりつつあります。
 ニンジンには体内の毒素を消す作用のあるカロチンはもとよりオリゴ糖、食物繊維、
 ビタミン、ミネラルが豊富に含まれすこぶる健康的な野菜であるという彼らの主張は
 私たちニンジン嫌いな者たちを論理的にも圧倒したのです。

 しかし違うのです。長い年月とともに忘れ去られそうになっていますが、
 今ニンジンが好きなあなたたちは人間ではなかったはずです。
 あなたもですね、兎さん。
 あなたたちがニンジンを好きなのは理屈とかそういうことではなく、
 本能だからです。

 あの日、1969年7月20日。
 人類はあなたたちが平和に餅つきなどして楽しく暮らしていた星を
 荒らしてしまいました。
 あのときひそかに持ち帰ったあなたたちの祖先の
 繁殖力はそれはたくましく見る見る間に私たちの星は
 人類とあなたたちとの共存の星となりました。
 パッと見ではもう私もあなたもほとんど区別がつきません。
 よく見ると確かにあなたは少し耳が長くて目が赤い。
 鼻がぴくぴくするのが癖ですね。
 臆病でさみしがり屋で、でもほんとうにかわいいです。
 ただそういうわけで私は今後もどうしてもニンジンが食べられないことを
 このプロポーズの場を借りて始めに言っておきます。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP


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