井田万樹子 2012年3月4日

「午後の山陰本線出雲市駅〜益田駅」

         ストーリー 井田万樹子
            出演 清水理沙

ガッタンゴットン がったんごっとん
おばあさん2人 ゆっくり揺れる
ジャージ姿の中学生 
作業服のおじいさん
日焼けしたおばさんも
ガッタンゴットン ゆっくり揺れる

いつのまにか 起きているのは わたしだけ
みんなみんな がったんごっとん
上を向いて 横になって 
もたれかかって 崩れ落ちて
ガッタンゴットン 眠ってる
親子でぽっかり開けた口 
けわしい顔のおばあさん

ガッタンゴットン がったんごっとん
列車は 小さな駅についたけど
人の気配も 何もいない
きっとこの町も 眠っているんだ
駅のベンチも 電柱も 郵便局も 犬も毛虫も
世界は 昼寝の時間なのだ

ガッタンゴットン がったんごっとん
新聞を手に持ちながら
扇子を握りしめたまま
ガッタンゴットン ゆっくり揺れる

みんなが眠っているうちに
わたしはこっそりあだ名をつける
ひげもじゃキュウリ
ハイソックス少年
バーテンみよちゃん
ペンタごん

ガッタンゴットン がったんごっとん
眠っている人たちは
幸せそうに見えるけど 不孝にだって見えるのだ

深いしわの おばあさん
リクルートスーツの大学生
赤ん坊を抱いたお母さん

窓の外を眺めながら わたしは思う
わたしは 誰かのためを思うふりをして
結局 自分のことを思ってるんじゃないかしら
ガッタンゴットン がったんごっとん
わたしの感情はいつもどこか 
小さな罪につながっている

どこまでも続く このトンネルを抜けたら
窓のむこうに 海がひろがってるといいな
ずっと遠くに 小さな船をみつけられるといいな
山の斜面に 段々畑が並んでいるといいな
稲穂がいっせいに風に揺れる瞬間を みれるといいな
太陽が沈む直前の 世界が黄金色に輝く瞬間を みれるといいな
 
みんなが眠っているうちに
消えてしまう一瞬を みつけられるといいな

どこからか みかんの香りがしてくる
誰かが 目をさましてしまった

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/


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