門田陽 2012年4月1日

最後の選択

            ストーリー 門田陽
               出演 大川泰樹

人生は選択の連続である。誰の言葉かは知らないが真理である。
もちろん、選択とはクリーニングのことではなく
セレクトであることは言うまでもない。
あなたも例外なく日々選択をしつづけてここまで来た。
数分前もあなたは
冷蔵庫の中のプリンを食べてからダイエットを始めるべきか
それとも食べないこと自体がダイエットではないのかと悩み、
食べるほうを選択したのである。

昨日あなたはパテシエの佐々木孝治と
青年実業家の加藤学を同時に呼び出し加藤を選択した。
あなたは二股をかけていたのである。
半年前、あなたは交際中の佐々木から友人を紹介された。
それが加藤である。その日は三人で食事をした。
あなたはワインを赤か白かで迷いロゼを選択した。
一年前、あなたは佐々木からプロポーズを受けた。
イエスかはいで答えてくれと迫られたあなたは困りながらイエスを選択した。
しかし、その日は運よくエイプリルフールであった。
二年前,あなたは佐々木から旅行に行こうと誘われた。
イエスかノーかこの場で答えてほしいと言われたあなたは
即座にイエスと答えたが行ったのは日帰り旅行だった。

旅の途中で佐々木は本当はあなたとデートするたびに
ホテルに行こうと誘いたかったが勤め先がホテルなので
その言葉の意味がわからないだろうと思い躊躇しているのだと正直な話をした。
あなたは都合よく助かったと思った。
三年前,あなたは佐々木と出会った。佐々木は同じホテルに勤める同僚。
会ったその日にあなたは交際を申し込まれた。
特にタイプではなかったが
スイーツ好きのあなたにパテシエという職業は魅力的であり、
とりあえずキープという選択を行った。人生は選択の連続である。

そしていまあなたは、人生最後の選択をしようとしている。
目の前にはどこかで見たことがあるような
それでいて初めて見るような景色があった。
静かで大きな川が広がっている。
その中央には長い一本の橋がかかっている。
あなたはもう随分とたっぷりな時間、その橋の前でたたずんでいる。
渡るべきか渡らぬべきかを考えている。
その間にこれまでのあなたの生き様が走馬灯のように蘇ったのである。
佐々木と会う前のこともたくさんよぎっていった。
就職の際の会社の選択。進学の際の学校の選択。
ファーストキスの際のシチュエーションにこだわるという選択。
親といつまでお風呂に入るかの選択。
サンタクロースの存在に気付かないふりをするという選択。
選択を行うたびにあなたは少しづつ汚れていった。

さて数分前。
あなたが食べたプリンにはパテシエの佐々木が毒を仕込んでいた。
佐々木はあなたと違い迷うことのない男だった。
そしてあなたのことに詳しかった。
別れの記念のデザートにと佐々木は手作りのプリンをあなたに渡した。
ダイエットするから困るとか言いながらもあなたは間違いなく食べることを
佐々木はわかっていた。案の定であった。
たったいまあなたはその橋に足を一歩かけた。
欄干には三途という川の名が刻まれていた。
これが最後の選択になることをあなたは知っているのだろうか。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP


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