国井美果 2012年8月12日

「帽子のっけ」

              ストーリー 国井美果
                 出演 いせゆみこ
                      
私の父は、作った料理に、かなりの確立で目玉焼きをのっけた。
そのメニューは「帽子のっけ」という名で呼ばれた。

ハンバーグの帽子のっけ。
ナポリタンの帽子のっけ。
鶏そぼろごはんの帽子のっけ。
焼きうどんの帽子のっけ。
炊きたてごはんの帽子のっけ。

卵チャーハンに帽子をのっけたり、
あろうことかオムライスに帽子をのっけた時は、
かぶっているじゃないか・・・!と思ったけれど。

帽子ののった一品の他には、決まって豆腐と葱のお味噌汁と、
商店街で買ってきた、煮物やポテトサラダやアジフライなどのお惣菜が並んだ。
私が小学生の頃、病気がちな母に代わってキッチンに立った父の食卓は、
大雑把で、カロリー高めで、ワンパターン。

でも、そんな食卓のあれこれを弟と私と父で分け合って食べたあの光景は、
夕方の透明な光とともに、いまも私の大切な部分を照らしている。

時折テレビで、皇族の方が公の場に帽子をちょこんと被って現れる姿を観ると、
「お父さんの帽子のっけだ」と思ってしまう。

あれから時が過ぎ、私も自分の家族ができて、
今は毎日、子どもたちにごはんを作る日々だ。

とりたてて料理が上手いわけでもなく、器用でもない者が
仕事をしながら家族にごはんをつくるには、
ある程度の割り切りと、鷹揚さがなければ続かないことがわかってきた。
時間がなくて、準備もできていなくて、
みるみる機嫌が悪くなる私が作るごはんは、さぞ美味しくないに違いない。

それよりは、いつかの風景のように
恐るべきワンパターンでもいいから淡々と、
なんだか笑ったりしながら囲む食卓が、
どれだけその人をつくっていくものだろう。と、思う。

あいにく卵アレルギーの子どもなので、
今のところ帽子をのっけられないのが残念だけれど。

出演者情報:いせゆみこ 03-3460-5858 ダックスープ所属


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