勝浦雅彦のリメンバーカンヌ (最終回) 遠い背中を追いかけて

とうとうこのコラムも最終回。

昨年の7月頃からはじまったこのコラムが、まさか足掛け一年を費やして
終了するとは思いませんでした。

数日後にはカンヌライオンズ2013が始まる、
というこのギリギリ感が、
普段の仕事の「切羽詰まらないとやらない感」をあらわしていて・・・、
なんて話はどうでもいいですね、はい。

カンヌに関しては、世界の広告界の最大のイベントであるがゆえに、
いろんな方が様々な角度から体験し、分析した文献がたくさんあるので、
ぜひそちらも参考にしていただきつつ、

(写真② 会場で佐々木さん、八木さん、
菅野さんたちとアジアの広告専門誌の取材を受けました)

この、
「庶民が自費で安い航空チケットを入手しカンヌへ向かい、
ヘロヘロになりながら会場から遠いホテルに泊まり、
失意を感じつつも、最後はそれなりに決意をあらたに
希望を胸に帰還していった物語」

を楽しんでいただければ幸いです。

(写真③ 多くの人と出会いました)

(写真④ 南仏の日差しは優しかった)

僕のカンヌの大きな収穫は2つ。

ひとつは、苦楽をともにしたチームの人々と、
カンヌの地を踏めた事。

結果は伴いませんでしたが、
どんどん仕事が過ぎ去っていく広告の世界でも、
時にみんなが気持ちをこめた仕事が、
プロジェクトを終了してなお、多くの人々を結びつけている。

それを再認識できたことがとても嬉しかったです。

(写真⑤ フィルムの授賞式を客席で見つめるスタッフ)

(写真⑥ この悔しさを目に焼き付けて、いつか登壇を)

あと、どれだけこんな仕事ができるだろう、
そう考えると、途方も無く茫洋とする気持ちと、
ワクワクする感情が交差します。

ちなみに、同じようにカンヌに打ちのめされた、
同じ年のT&E佐々木Pは、
最終日前日の晩、
「この経験を活かして俺は九州を盛り上げるんだ!」
と、叫びつつへべれけに酒場で酔っぱらい、
大通りの真ん中で立てなくなり、
ようやくタクシーに乗せたら、車内で介抱している僕に、
「お前、うるせーよ」
「ほっておけよ」
と暴言を吐き、ホテルに着いても車から降りようとせず、
フランス人の運転手にそのさまをゲラゲラ笑われる、
というステキな思い出をつくってくれました。

翌日は予想通り、一切そのことを覚えていないという、
愛すべきレジェンドを刻んでくれました。
やはり、ブレーンには恵まれているようです(笑)。

(写真⑦ 佐々木Pと。心優しい、打ち合わせが長引くとソワソワする博多の男です)

そしてもう一つは、いきなり実名を出して
申し訳ないですが、

「澤本さんの背中」です。

あれはカンヌに旅立つ前、
このコラムを依頼して頂いた中山佐知子さんと
カンヌについて話していたら、
「私がカンヌに行ったとき、まだ若い澤本君といっしょで、
外にランチに行かず、遊びにも行かず、
ひたすらパン(フランスパンのサンドイッチ)をかじりながら、
最後まで会場でフィルムを見続けていたのが印象的だった」
というような昔話を聞きました。

澤本さんが数年ぶりにカンヌ来られるのは、
電通の事前顔合わせ会で知っていたので、
どんな感じでカンヌに相対されるのか密かに興味がありました。

前述しましたが、
クラインアントや代理店の上の立場の方々はカンヌでは、
最初から会場を見ずにどこかに遊びに行ったり、
ビーチにずっといたりする人も多く、
あれだけの偉い人はどうなんだろう、と気になっていました。

はたして、会場には中山さんから聞いた通りの澤本さんの
姿がそこにありました。

いたるところで見かける澤本さんは、
フィルムはおろか、他部門のプレゼンテーションビデオの
シアターも含めて常に熱心にスクリーンを見つめ続けていました。
よくスクリーニングの会場がかぶった僕は、
遠くからその姿をみとめるだけでした。
そしてお昼が来て、
寒いシアターからランチのために出ようとすると、
そこには人の流れに微動だにせずに座り続けている背中が見えました。

「すげえなあ」とつくづく思いました。

あれだけの、ビッグネームが他の誰よりもどん欲に、
カンヌを吸収しようとしている。
凡人である自分が、普通にやっていてもこれはかなう訳が無い。

カンヌの思い出は多々ありますが、
ふと思い出すのはあの時の「澤本さんの背中」です。
そして、僕も含めて多くの若手があの背中を全力で追いかけてなお、
まったくその距離を縮められないでいます。

(写真⑧ スクリーニング。自分がつくったものが世界にジャッジされる)

(写真⑨ すべての授賞式が終わると、赤絨毯がごった返します)

(写真⑩ クロージングガラ。深夜まで熱いコミュニケーションが繰り広げられます)

・・・さあ、というわけで、
長々と続いてきたこのコラムもこれでおしまいです。

今年のカンヌライオンズは60周年ということで、
さらに部門も増え、多くの日本人審査員が乗り込み、
史上最多の応募数になっているようです。
参加予定の方は、相当ワクワクしているのではないでしょうか。

(写真⑪ カンヌライオンズ2013は16日から!)

繰り返しますが、カンヌへの相対し方は人ぞれぞれ。
そこには問いはありますが、答えは自分で見つけるしかありません。

僕にとってのカンヌは、やはりフィルムカテゴリーです。
それは学生の頃から変わりません。

事情とか、文化の違いとか、そんなことをぶっ飛ばせるいいものを
つくれるように。

そしていつか、この手でライオンを抱く日まで。
志を捨てずにがんばっていこうと思います。
「リメンバーカンヌ」、このコラムのタイトルのように。

それでは、あなたにとってカンヌライオンズが実り多きものになりますように!

ありがとうございました。

(写真⑫ ピカソさんも、またいつか!)


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