国井美果 2013年9月1日

「お月見どろぼう」

                     
    ストーリー 国井美果
           出演 石橋けい
                      

夜だけど、青空だね。

冴えわたる夜空を、雲がよこぎっていく。
真円に近い月が金色に光っている。
地球にいるかぎり、あの裏側を見ることはない。
裏側には顔が書いてあるらしい。
または、秘密基地がひしめいているらしい。

ちょうどいい塩梅の風が吹いていく。

すごい。ザ・中秋の名月だ。カンペキだ。
気分もいいので勝手に祝うことにする。

ベランダに箱をおいて、水色の手ぬぐいを敷いて、
ピーコックで買ったお団子と、缶ビールと、花瓶にさした薄をおいた。

缶ビールをあけたら、ふーっと、薄が揺れた。
目を閉じる。
いろんなことがどうでもよくなる。
ATMの長い列で、うしろのおばさんに抜かれたことなど、どうでもいい。

と、ふと目をあけると、箱の上の缶ビールがない。
倒したかな、と辺りを探しても、ない。
よくよく見ると団子もひとつ減っている。

こりゃあ・・・

こんな月の夜は、判断は自分次第だなあと思う。
物騒な想像よりも、今夜はファンタジー志向かな。
だいいち、ここは8階のベランダだ。

いつか、おばあちゃんに聞いたやつかな。
お月見どろぼう。

お月見の日だけ、子供たちは
お団子やお菓子を公然とぬすむことができるという昔からの風習、
イベントだ。
「お月見くださーい」というかけ声が
ハロウィンなんかより、シックでかわいい感じがする。

薄は神様の寄り代だというし、神様のいたずらか。
それとも、月からおつかいの子供がきたか。

にしても、堂々とビールをもってくあたり、
なかなかの子だな。
と、ニヤリ。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース


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