特別な冬

「特別な冬」
     
         ストーリー 平栗仙子(東北芸術工科大学)
            出演 山田キヌヲ

宮城県から山形市へと移り住んだのは学校へ通う為だった。
毎日、朝の5時には起床して登校。帰宅するのは夜中の11時半。
そんな、くたくたな生活を1年半続けていた私に、母親が一言。
「一人暮らしする?」

こうして、私の一人暮らしが始まった。
自炊と洗濯を除けば、ずっと楽になった私の学校生活。
そして、一人暮らしを始めてから、最初に訪れた、初めての、冬。
不運なのか、幸運なのか、
その年は30年に一度と言われる豪雪の季節だった。
高速バスもストップ、学校も、午後から休講になった。

私はというと、結局、降り続ける雪を教室から見て、課題に追われ、
遅い時間まで残ってしまっていた。時刻は、夜の9時過ぎ。
もう誰も居ない。教室を出た。
イヤホンを耳につけて、iPodのスイッチを入れる。
外は、本当に、一面の雪景色。
世界が真っ白だ。降っていた雪は止んで、乾いた空には満天の星。
学校から、長い坂を下る。一歩一歩、踏みして歩く。
歩く度に、ぎゅむ、ぎゅむ、と、足下から雪の感触。
道路の脇には雪の壁。私のお腹位までの高さはある。
すべりだいが半分くらい雪で埋まってしまっている公園。
雪見大福のように、ふんわりと、
真っ白になってしまった住宅街の自動車たち。
ありとあらゆるものが真っ白。

思いつきで、私はいつもは通らない道を通って帰ることにした。
住宅街へ迷い込む。
厚く積まれた雪はないが、道路の表面は真っ白な雪のカーペットだ。
知らない家々。そして、道。方向は合ってるはずなんだけどな。
ちらちらと舞い始めた雪に、急ぎ始める私の足。
角を左に曲がった。曲がった瞬間、思わず目を見開いた。

行き止まりになっているその場所。
街灯の明かりを反射させた雪の上に、
降り始めた雪の影が大きく、小さく、
模様となって揺れていたのだ。
その美しいこと。そして、なんて幻想的なんだろう。
街灯の明かり、そして角度と、雪の結晶。
そのお陰なのか、白い雪の上は、
あちらこちら、七色に輝いてもいる。
私は、思わずイヤホンを外し、暫くその場に立ち尽くしていた。
キーンと冷えた空気。風はなく、音もない。
静寂の中、銀色に、
ぼんやりと輝く小さな舞台が、そこにはあった。

私は、ゆっくりと引き返し、
見覚えのある道に沿って歩き、大通りに出た。
空は深い紺色。その下に、ぼんやりと輝く銀世界。
もう、小さな舞台があった場所への行き方は覚えていないけれど、
もしかしたら、あちらこちらで、
一回限りの冬の舞台は、あるのかもしれない。
その冬だけの、特別な舞台。
東北には、そんな舞台が、きっとある。

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