古居利康 2013年11月17日

さいごの虹  

        ストーリー 古居 利康
           出演 西尾まり

かれがあのことをおこなった
そのすぐあとで
かならず虹がでる

かれをしるだれもが
虹をみあげて
かれがいまあのことを
おこなったのだとおもいあたる
だまってめくばせしあう
おこなったんだねとつぶやきあう
あからさまにわらいあう
わかいむすめはほほをあからめる

あのことをおこなったしるし
というには
虹はめだちすぎたし
うつくしすぎた

だれもがおこなっている
あのことは
よほどふらちなふるまいや
どちらかのむりじいでないかぎりは
はずかしいどころか
うるわしくむつまじいことだ

けれどいままさにこのとき
あのことをおこなったのだと
ひとにしられることは
おそろしくはずかしい

かれはまだじゅうぶんわかく
ゆだんするとすぐにだれかをおもった

けれど
だれかをおもってもちかづかない
ちかづけばことばをかわすことになる
ことばをかわせばおもいがつのる
ふれたくなりだきしめたくなり
さいごはおこなうことになる

だんだん
だれもおもわなくなった
だれかとおこなうこともなくなって
虹がうかぶこともなくなった

やがて
うまれてこのかた
ほんものの虹をみたことのない
こどもがふえ
せめてもういちど
虹をみてからしにたい
そうねがうとしよりがふえた

それからまた
なんねんもなんじゅうねんもたって
だれもがわすれてしまった

虹のことも
かれのことも

そんなあるひ、とつぜん
そらに虹がでた

はじめてほんものの虹をみた
こどももおとなもびっくりして
そらにうかぶいろのかずをかぞえた
わかいときにみたはずの
虹のすがたもいろあせていた
としよりたちは
まがっていたこしをのばし
かすみがちのまなこをほそめて
虹をみあげた

あのかれがだれかとあのことを
おこなったのだ
ほんとにほんとにひさしぶりに
おこなったのだ

虹をみてかれをおもいだした
ひとたちがくちぐちにめでたいと
いっておどりだした

めでたいめでたい
わっせわっせとおおさわぎしながら
ひとびとはかれのすみかにむかった

かれはいなかった
なかはあれはてて
もうずいぶんまえから
ひとがくらしているようすは
なかった

ふいにしずまったひとびとが
それぞれのすみかにかえるころ
そらに虹はもうなかった

 
出演者情報:西尾まり 30-5423-5904 シスカンパニー

  


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