中島英太 2014年1月19日

大きな山

      ストーリー 中島英太
         出演 地曵豪

今回この原稿を書くにあたって、いただいたテーマが「山」。
山、山、うーん、なんかないかなあ、山。
ということで、
「中山さん」の話をひとつ書きたいと思います。

この東京コピーライターズストリートの主催者であり、
演出もされている中山さん。中山佐知子さん。
僕なんかが語るのがおこがましいくらいの、
ラジオの巨匠ですね。
それこそ山です。

以前、取材を兼ねて、
中山さんとウイスキーの蒸溜所へごいっしょしたことがあります。

そこでは、元ブレンダーだった方がつきっきりで、
ウイスキーづくりのいろはを教えてくださいました。
僕たちは、蒸溜所の中をまわりながら、
いろんなウイスキーを試飲させていただきました。
10年物。20年物。30年物。

それだけでも感激ものですが、
最後になんと一樽ウン千万円という貴重なお酒を
いただいたんです。
街のバーで飲んだら、えらいことになります。
たぶん一生飲むことはないですが。

ほろ酔い気分の僕は、
ああ本当にいい経験をさせてもらったなと
しみじみしていました。

そしたら。
中山さんが蒸溜所の方に言ったんです。

「やいやい、もっといいの、隠してるんだろー」って。
ニヤリと笑いながら。
私の眼はごまかされないぞーって。

僕は、この人、なんて大胆なこと言うんだろうと、
一瞬酔いも覚めました。

そしたら、言われた方、ギョッとした顔をした後に、
「いやあ、参りました!」
と笑いながら、奥のほうからラベルのないウイスキーを持ってきて。
特別ですよ、と言いながら、飲ませてくれたんです。
最高でした。

その後も、みんなでいろいろ飲みました。
蒸溜所の方もニコニコして、
裏話なんかも聞かせてもらえました。

すごく勉強になりました。
取材って、こういうことなんだと。
ふつうの、ちょっと先に、宝物は隠れている。
そこまで掴み取って、はじめて取材だと。仕事だと。
そこまでやるから、いい企画の種になる。
自分は全然ぬるかった。

そんな中山さんのお話でした。
中山さんは、やっぱり、大きな山です。

ところが。

以上のような原稿を中山さんに送ったところ、
僕のまったくの勘違いだったことが判明。

どんなモルトを飲んでみたいですか、
という蒸溜所の方の問いかけに、中山さんは、
「あなたがいちばん好きなモルトを飲みたい」
とお答えになったのでした。
そして出てきたのが、先ほどの超絶ウイスキーだったわけです。

ものすごく失礼な勘違いをしてしまいました。
普通なら激怒されても仕方ない間違いです。

でも、中山さんは、やさしく指摘された後に、
ほらほら、これ見て思いだして、と
その時の写真を何枚か送ってくださいました。
そして、
素晴らしいウイスキーでした、まだ味を覚えてますもんね、
とおっしゃるのでした。

中山さんは、やっぱり、大きな山です。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/


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