玉山貴康 2014年4月6日

「スピーチ」

      ストーリー 玉山貴康
         出演 遠藤守哉

タクヤくん、ユキさん、ご結婚おめでとうございます。
本日は、佐藤家、林家、ご両家のたいへんおめでたい席に
お招きいただきありがとうございます。心からお祝い申し上げます。
ただいまご紹介にあずかりました、
新郎新婦と同じ職場でともに仕事をしております、田中でございます。
たいへん僭越ではございますが、
ご指名ですのでひとことお祝いの言葉を申し述べさせていただきます。
どうぞご着席ください。

いやはや、まだ信じられないというか、まさかこの二人が!という心境でございます。
はじめて話を聞かされたときは本当にビックリしました。
彼は営業部で、彼女はマーケティング部。
それぞれの部署でバリバリのエースです。
タクヤくんは、営業成績なんと2年連続でNo.1ですし、
ユキさんも大きなプロジェクトをリーダーとして何本も抱えています。
二人とも後輩の面倒見もよく、その仕事ぶり、人柄、将来性、
どれをとっても完璧、パーフェクトでございます。
今年、彼らの働きもあって、わが社は上場いたしました。
この数年間というものは、非常に忙しかった。
お得意さまも増え、プレゼンの連続で、休日勤務も少なくなかったはずです。
それなのに、どこにそんなつきあう時間が…あ、いや、よけいなお世話ですね(笑)

そういう私もじつは社内結婚でして、
私の結婚式のときも、このように当時の上司にスピーチをお願いしました。
そのときに贈っていただいた言葉が、いまでも私たち夫婦のモットーとなっております。
その同じ言葉を、今日、お二人に贈り、祝辞に変えさせていただきたいと思います。
それは、「祝婚歌」という吉野弘さんの詩です。
えー、ゴホン(咳払い)、それでは心をこめて。

祝婚歌

吉野弘

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派過ぎないほうがいい

立派過ぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい

二人のうち どちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい

正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい

立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず

ゆったりゆたかに
光を浴びているほうがいい

健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい

そしてなぜ 胸が熱くなるのか
黙っていてもふたりには
わかるのであってほしい

えー、以上です。
仕事上ではとても優秀すぎるお二人です。
家庭においても、同じように「完璧」を目指してしまわないか。
もしもそうなりそうだったら、ふとこの詩を思い出してほしい。
気持ちがフッと楽になるかもしれません。
どうぞ温かく明るいご家庭を築いてください。末長くお幸せに。
本日はたいへんおめでとうございます!

え?なんだよ!いいよもう!俺が主賓なんだから!あ、そう?
う、うん、わかった、わかったよ!
(誰かと小声で打合せしている様子。少し面倒くさそう)

えー、ゴホン(咳払い)、では、続きましてぇー、
わが社の会長である、妻、トシコからも、ひとことご祝辞をと申しておりますデス、はい…。
(きまりが悪そう)

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/


ページトップへ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA