ゲンジボタル

「ゲンジボタル」

        ストーリー 田村友洋(ともひろ)
           出演 地曵豪
       
ぼくは宮城県の天然記念物、ゲンジボタル。
生まれは岩手県との県境にある登米市(とめし)。
市の中心を流れる鱒渕川の浅瀬が僕らの町。

梅雨が明ける6月の終わり。
まだ蒸し暑さが残る夕暮れどきから、仕事に出かけます。
人生をかけた仕事、フィアンセ探し。
意中の相手に振り向いてもらえるよう、光で精一杯話しかけます。

実はこの光、地域によって光る周期が変わるのです。
光の方言とでもいいましょうか。
ぼくのいる東日本では4秒に1回、西日本では2秒に1回光ります。
西日本の方がおしゃべりな蛍が多いのかもしれませんね。

川辺に人が集まってきました。
天然記念物になっている僕たちにはサポーターがいて
僕たちが生きやすい環境を守ってくれています。
観光客がイタズラをしないようにパトロールをするのも
サポーターの皆さんです。
毎晩のように僕たちの数をかぞえ、全国に発信してくれます。
そして僕らにとってはプロポーズを見守ってくれる証人でもあります。

百数十匹の仲間たちが一斉に飛び始めました。
川面や茂みの上をふわりと光の曲線を描いています。
ぼくもゆっくりしていられません。
期限はおよそ1週間。
好みの蛍に出会えますように。

東北へ行こう。


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