中山佐知子 2016年4月24日

1604nakayama

ウイーンの春は木に咲く花

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川泰樹

ウイーンの春は木に咲く花からはじまる。
桜が咲き、レンギョウの枝が黄色の花でいっぱいになると
もう4月だ。
木蓮の大きな蕾も膨らむ。

マリー・アントワネットの結婚式も4月だった。
1770年の4月、
花嫁は14歳と6ヶ月、
花婿は婚約者のフランス皇太子ではなく
皇太子と同い年の兄、フェルディナンドが
代理をつとめていた。
王宮の庭ではリラの花が咲いていた。

こうしてフランス王妃になったアントワネットは
迎えの馬車に乗り、フランスに向かった。

57台の馬車と367頭の馬が
まだ少女だったフランス王妃につき従った。
3日目に国境に来た。
国境はライン川の真ん中だった。
その見えない国境を越えて向こう岸に渡ると
フランス領ストラスブールの街だった。

ストラスブールの大学に学んでいたゲーテは
マリー・アントワネットの婚礼の行列が街を行くのを目撃し
馬車の窓越しにアントワネットの姿もかいま見ることができた。
真っ直ぐ前を向いて姿勢正しく座る14歳の少女の姿は
ゲーテの心をとらえ、一生忘れることがなかった。

揺れる馬車の中で
身を固くして座っていた14歳の少女は
こうしてフランス王妃になった。

誰よりも先にフリルとリボンのドレスをやめて
簡素なスリップドレスを着たアントワネット。
濃厚な香りを嫌って
ナチュラルな香水をつけたアントワネット。
コーヒーとクロワッサンを好んだアントワネット。
やがて彼女の好みはヨーロッパ中の貴族が
真似をするようになる。

その中にハンカチーフがあった。
当時のハンカチは形が決まっておらず
四角や三角や、中には丸い形のものもあったが、
このハンカチを正方形の規格に統一したのが
アントワネットだった。

フランスで、ハンカチーフは正方形にすべしという法令が
布告されたのは1785年。
アントワネットがフランスに嫁いで15年めであり、
偶然だが、彼女の愛人と噂されるスウェーデンの貴族、
フェルゼン伯爵がパリに戻ってきた年でもあった。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/


ページトップへ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA