直川隆久 2017年12月24日

「ふつーに」

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

さいきん、気になる言葉があってね。
え?
「ふつーに」っていう言葉。
近頃、とみによくきくだろ。
あれだな。
「ゴッホより、ふつーに、ラッセンが好っきー」っていうギャグだな。
あれで「ふつーに」がちょっと気になりだしたんだ。
で、意外と一筋縄じゃいかんのだよ、「ふつーに」は。

たとえばさ、「足の骨折れてたのに、ふつーに歩いて会社行ってた」とか
「死ぬ前日までふつーに仕事してた」とかいうときは
「変わった様子もなく」とか「平然と」っていうような意味だろ。
でも、こういう使われ方もある。
「このあいだ、ダチに連れられて、めっちゃ路地の奥のほうの、
きいたことのない居酒屋行ったんだけどさ。
店のおやじも愛想なくて、大丈夫かなと思って。
で、だされた料理食ったら、ふつーにうまかった」とか
「5歳の甥っ子が、おじちゃん、ゲームやろうっていうから、
一緒にスプラトゥーンやったら、
ふつーにうまくてぼろ負けした」みたいな使い方、あるでしょ。
肯定的な評価に「ふつーに」という言葉を添える。
これはなんとなく「標準基準を満たして」みたいなニュアンスだよね。
「それなりに」というよりは肯定的なニュアンスが強い。
でも、それだけでもないような気もするんだな。
たとえば、こんな言い方はどうだろう。
「ミシュランの2つ星の寿司屋の予約がとれてさ。
どんなすごい寿司が食えるかと思って行ったら、ふつーにうまかった」
これは、あんまり言わない気がせんかね。
この場合「うまかった」と「ふつうに」が、あわない感じがする。
すると、さっきの汚い居酒屋と、このミシュラン寿司屋の場合の違いは
「期待値」ということになるよね。
「期待値が著しく低いときに、その期待値を上回って、
標準レベルに達している」というニュアンスが
そこに入っているということになる。

で、ここからがまたややこしい。
というのはね、次みたいな言い方はどうだろう。
「入試の日、大遅刻して、最初の2問しか書けなくでさ。
まあ。ひょっとしたらと思って合格発表見に行ったんだけど、
やっぱふつーに落ちてた」
これは「予想どおり」とか「当然」ていうことだよね。
つまり「期待値が低いときに、期待どおりの結果が起こった」ときにも
この言葉は使えるわけだ。
となると・・わからなくなってくるよね。
さらに、こんな言い方もある
「『さいきん毎晩、隣の部屋から、女の人の叫び声がして』
『それ、ふつーに超ヤバくない?』」。・・
これはなんだ。「疑う余地なく」みたいな感じか。
う〜ん・・・
どうしてこんなに文脈に依存する言葉なのに、
それを聞いたとき「わからない」っていう感じがしないんだろうか。
ひょっとすると「ふつーに」に込められているものは、
特定の意味ではなくて、コンテクストに対する発話者の、
ある種の態度表明なのだろうか・・
・・・・てね、そういうこと考えだすと、
なんか寝られなくなっちゃうんだよね。

あ。ごめんごめん。
話が長くなっちゃった。

君の処遇のことで、来てもらったんだよね。
そう。
今回の件は、かなり痛かった。
正直、痛かったんだよ。大損失だ。
きみも、自分の責任については理解してくれて、いるんだよね?

その上でだ。
ぼくはね、今回の件については
君を「ふつーに処分」したいと思っているんだよ。

うん。ふつーにね。
・・・さて、きみ。
これは一体、どういうニュアンスだと思うかね?

出演者情報:遠藤守哉(フリー)

music:http://www.hmix.net/
 


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