東北生まれの彼女 (東北へ行こう2018)

「東北生まれの彼女」

    ストーリー 今野絢香(東北芸術工科大学)
       出演 大川征義

ふるさとのことを話す彼女が、僕は好きだ。

知り合って二年目の彼女。
少しずつ教えてくれるその思い出の風景に、
時折僕は思いを馳せる。

ふるさとには何があるのと尋ねると、
なんにもないところよ、と彼女は言う。
そうか、じゃあ行ってもつまらないね。そう言うと、
とたんに彼女は不機嫌になる。
なんにもないところよ、でもね、と続けたかったのだ。
いちど謙遜するのが、東北の女の子の特徴なのかな。

なんにもないところよ。
でもね、空気がきれい。水もおいしいの。
こっちへ来て初めて知ったのだけど、
水道水ってどこも同じ味じゃないのね。

お米や野菜もおいしい。
川の水で冷やしたトマトなんて、
トトロでしか見たことないでしょう。

星空だって透き通るみたいに広いの。
私の育った場所は、織姫さまの星が毎日通るんだって。
ロマンチックよね。

冬が長くて、雪の多くて、
登下校の道には今歩いてきた足跡しかないの。
振り返って見たらね、
私って結構ガニ股なんだなって気づいたりして。

ふるさとのことを話す彼女が、僕は好きだ。
柔らかく笑うそのとき、
彼女が思い描いているふるさとの景色の中に、
僕が映っていたらいいのに、と思う。

きみのふるさとへ行ってみたいって言ったら、
彼女はどんな顔をするだろう。

東北へ行こう。


出演者情報:大川征義 https://www.facebook.com/masayoshi.okawa?fref=ts




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