安藝哲朗 2024年2月4日「流れ星」

流れ星 

   ストーリー 安藝哲朗
      出演 遠藤守哉

リビングで映画を見ていると、
ベランダから流れ星が入ってきた。
「こんばんは。流れ星です」と流れ星は言った。
「映画をお楽しみのところ申し訳ございません。
あ、小津安二郎の『秋日和』ですか。
いいですね。司葉子さん、美しいです」
僕はテレビを消して、部屋の明かりをつけた。
ビールがいいか、それともコーヒーか。流れ星に訊ねた。 
「どうぞどうぞお構いなく!そんなに長居はしません。
いかんせん流れ星なものですから。でもせっかくなのでコーヒーを」

我々はダイニングテーブルで向かい合った。
僕は流れ星の話の続きを待った。
「突然のご訪問で驚かれたでしょう。
いやね、私あなたの願いを叶えにやってきたもので。
と言いますのも、ミエコさん、ご存知ですね?
あなたの姪っ子さん。私が双子座の界隈を
ヒューンと走っている時に
ミエコさんからお願いされたんですよ。
あなたの願いを叶えてやってくれ!って。
ミエコさんまだ小学3年生なのに、
自分の欲しいものとか差し置いて
あなたの幸福を願ったのですよ。
それでね、私は、よしわかった!と
その足で今、こちらにお邪魔しているというわけです」
流れ星はそこまで話し終えると、
コーヒーを音を立てて啜った。
ミエコから見て僕は不幸に見えるのだろうか?
独身だから?それとも先日会った時に
着ていたセーターが毛玉だらけでみすぼらしかったから?
僕を心配するミエコの気持ちはありがたいけれど、
姪っ子の願い事をひとつ奪ったようで
なんだか申し訳ない気持ちになった。
ミエコは僕の姉に似て自己犠牲の傾向が強い。
ちょっと心配になるぐらいだ。

流れ星は本題に入る。
「それで、あなた様のお願いごとというのは
どういうものでしょうかね。いやね、突然
願い事は?って訊かれても困る!という人多いんですよ。
とてもよくわかります。私だって同じです。
流れ星さん、あなたのお願い事は?って訊かれても、ねぇ」

僕はちょっと考えて、
シャトレーゼのロールケーキをワンホール、
ミエコにあげてくれと流れ星に伝えた。それが僕の願いだ、と。
彼女はシャトレーゼのロールケーキに目がないのだ。
今の季節だと、中にイチゴが入っているかもしれない。
ラッピングはいかがいたしましょう?と流れ星が訊いた。
何もしなくていい、と僕は言った。
別に誕生日でもなんでもないしね。



出演者情報:遠藤守哉


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