佐藤充 2025年5月25日「ジャッカル先輩」

ジャッカル先輩

    ストーリー 佐藤充
       出演 大川泰樹

「これでようやく出発できるな」

ナミビアの首都ウィントフックのゲストハウスで、
友人のヨシとナミビアを一緒にまわる
他のバックパッカーたちを探していた。

2人でまわればいいだろうと思う人もいるだろう。
こちらも好んでわざわざ知らない人と旅をしたいわけではない。
ただ、2人だと割高なのだ。

ナミビアの観光地は国立公園などのほぼ自然だ。
それぞれの国立公園が街から離れており、
なおかつ観光地をつなぐ交通機関が存在しない。

だからバックパッカーたちはゲストハウスで、
一緒にレンタカーを借りて周遊する仲間を探す。

レンタカーは10万円ほどの5人乗りの四駆しかないので、
貧乏なバックパッカーは頭数を5人ちょうどに揃えるのだ。

もちろんツアーもあるが、それは高額だ。
貧乏なバックパッカーには手が出せない。

5人乗りの四駆を借りるためにあと3人見つけたらいい。
すぐに出発できるだろうと思っていた。

しかし、仲間探しは難航した。
自分たちの宿泊しているゲストハウスにいないだけで、
他のゲストハウスにいるかもしれないと行ってみるが見つからない。

ツイッターで【ナミビア】や【ウィントフック】というワードで
検索しても都合よく旅している人もいない。

2日経過した3日目だった。

動き回ると逆に見つからないのでは、と謎の逆に理論で、
ゲストハウスのプールサイドでビールを飲みながら
世界のかっこいい都市名対決をすることにした。
ヨシも僕もこの世界のかっこいい都市名対決が好きだった。

「ジュネーブ」
ヨシは「ジュ」で少しためて「ネーブ」をさらに伸ばして
ジュネーブと言うのを得意としていた。

「マチュピチュ」
ヨシのジュネーブに対抗してぼくはささやくように
マチュピチュと言う。

「ニューヨーク」
ヨシは堂々とまるで世界の中心はアメリカだと言わんばかりに
威厳たっぷりに言う。

「喜連瓜破」
僕は必殺技のように言い返す。

そんなことをして過ごしているときだった。

プールサイドの向こうから3人の日本人がやってくるのが見えた。

7つ上で世界一周中の九州出身のトシさん、
同じく世界一周中のブロガーのマサさん、
アフリカ横断中のユキさんの3人だった。

なんとその3人もレンタカーを借りる人を
ちょうど2人探しているとのことだった。
お互いの条件が合致した。

旅をしているとこういう巡り合わせというか、
縁を感じるような奇跡みたいなことが起きる。

早速レンタカー屋へ手続きをしにいこうとしたときだった。

プールサイドの向こうから割れんばかりの笑顔で、
こちらへ手を振ってやってくる日本人男性の姿が見える。

「あ!よかったよかった!僕も仲間に入れてもらっていいですか?」

その男性の名はヨウスケさん。

6人になったら車を2台借りなければならない。
2台で行くならば正直あと何人かいたほうがいい。
しかしあと何人かがすぐに見つかるかもわからない。

全員がどうするか考えていた。
なんとも言い難い沈黙が流れる。

僕ら5人でもうレンタカー借りちゃったのですみません、
と嘘をつくこともできる。

ヨウスケさんは僕らとじゃなく他の人を探して一緒に行ってください、
と言うこともできる。

でも僕らも5人集めるのに数日を要して苦労していたので
ヨウスケさんが他の人を集めるのに苦労することもわかる。

ヨウスケさんがこの空気を察して、
あと4人探して僕は別で行きます、
と言ってくれないかなと思った。

7つ上のトシさんの顔を見る。
とても悩んでいる顔をしている。

「一緒に行きますか!」

九州出身のトシさんは男気のある人だった。

「やった!ありがとうございます!」

ヨウスケさんはピュアな男だった。

そしてまた人数を合わせるために人を探すことになるが、
それは意外とすぐに見つかった。

カポエラーを教えながらアフリカをまわっている韓国人カップルと、
中国人の男子大学生のジャクソンを含めた9人で、
2台のレンタカーを借りて行くことになった。

僕たちはレンタカーで国立公園へ行き、
昼は国立公園のなかを運転しながら
ライオンやゾウやキリンなどをサファリしたり、
夜は国立公園内のキャンプサイトで、
バーベキューをして、
流れ星がたくさん流れる夜空を眺めたりした。

そしてバーベキューの火が消えてきたら、
それぞれテントを張ったり車の中で寝る。

僕とヨシは毎日車のなかで寝ていた。

そんな僕らを見てヨウスケさんは
「2人ともわかってないなぁ。
サバンナではテントで寝るのが1番幸せなんだよ」
と持論を言いテントの中に入っていった。

「勉強になります」と言い僕らは車で寝た。

夜中のことだった。

車の外から
「ヴゥーヴゥー」という獣の唸り声、
「キャンキャン」という吠える声や、
そこら中を走り回る音が聞こえる。

しかもそれは1匹や2匹ではなく、
10匹以上の獣たちがいる気配がするのだった。

「なんだろこの音」と僕が聞くと
「あれやろ、バーベキューの残りの肉とか漁りにきてるんちゃうん?」
とヨシは答える。

理由がわかると途端に興味がなくなり、
何事もなかったことのようにまた寝た。
朝、僕らは誰かが車の窓を叩く音で目が覚めた。

「ジャッカルに靴片方盗まれたのって海外保険おりると思う?」
そこには笑顔のヨウスケさんがいた。

なんと夜中バーベキューの残りの肉を漁りにきたジャッカルたちが
ついでにテントの前に脱いでおいたヨウスケさんの靴を片方だけ盗んでいったらしい。

「やっぱりサバンナではテントで寝るのが1番幸せだって言ったでしょ」

青空の下でジャッカルに靴を盗まれたことを
嬉しそうに報告するヨウスケさんは輝いていた。

誰かとする旅も悪くないなと思った。



出演者情報:
大川泰樹 03-3478-3780 MMP所属


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