山中貴裕 2025年10月26日「価値はアート化する」

「価値はアート化する」

   ストーリー 山中貴裕
      出演 清水理沙

こんばんは。静かな夜をお過ごしでしょうか。
日本で唯一の、現代アートのラジオ通販番組、
“アート・ビート・ショッピング”です。
お時間の許す限り、お付き合いください。

今宵、ご紹介するのは、こちらのアートです。

作品名は『さわやかな右足』。

制作者は、イスラエルを拠点に活動する、
アリエル・レヴィ。多くを語らない芸術家です。
この作品もまた、多くを語りません。ただ、そこに在るだけです。
しかし、その静けさの中に、私は、計り知れない可能性を覚えます。

どのような形をしているのか、想像してみてください。
はい。今、あなたの頭の中に浮かんだ、その形。
それは、あなたの希望です。

もう少し、言葉にしてみましょう。

高さは、およそ50インチ。
しかし、これは、あくまで見かけ上の数値です。
見る者や、その日の湿度、気圧によって、わずかに、そして確実に、
そのサイズは変動します。
この作品は、「不確かな物質」で構成されているため、
静止しているようで、常に揺らいでいます。

これほどまでに儚く、美しい存在を、私は知りません。

透明でありながら、無色ではありません。
その内部には、光のグラデーションが凍り付いたように存在しています。
最も低い部分に、わずかに深い青色。
しかし、この色は青色ではありません。
これは、「ブルーの観念」が、物質化されたものです。
そして、中央にかけて、徐々に薄い紫色、淡いピンク色、
そして、最も上部には、燃えるようなオレンジ色へと変化していきます。
これらもまた、色そのものではなく、
それぞれが「紫の観念」「ピンクの観念」「オレンジの観念」です。
まるで、時間の流れそのものが、
ひとつの物体として凝縮されたかのようです。

初めてこの作品を見た時、
私は、この夕暮れ色のグラデーションに絶句しました。

この作品には、見る角度によって、微かな動きが見て取れます。
その内部を、無数の小さな粒が、静かに上昇していくのがわかります。
これは、かつて、遠い異国の地で、
ある一人の人間が、黄昏の時間に呼吸した、
その「空気の記憶」が、粒子となって再現されているのです。
私は、その空気の記憶が、
今、目の前で、再び形を得ていることに、深い感動を覚えます。

もし、あなたがこの作品に触れることができたなら、
それは、物理的な接触ではありません。
これは、「物質と記憶の境界線」に触れる体験です。
ひんやりとしたガラスのような表面の下に、
かつて存在した、かすかな温もりを感じるかもしれません。
それは、その日、水面に反射した光が、微かに残した熱なのです。
なんと詩的で儚い存在でしょう。

あぁ、言葉にすればするほど、
この作品の本当の魅力がこぼれ落ちてしまう!

これはただのオブジェではなく、
時間と記憶を、手に取れるようにした、ひとつの「独裁者」なのです。
そして、この試みは、この圧倒的な夕暮れ色によって、
見事に成功していると、私は思います。

この作品を所有することは、
あの日の夕暮れを、あなたの意識の中に、永久に定着させることでしょう。

さあ、この『さわやかな右足』という素晴らしい作品、
お値段は、特別に120万円です。
お求めになられる方はいつものフリーダイヤルにお電話ください。

ではまた、静かな夜を。

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出演者情報:清水理沙 アクセント所属 https://aksent.co.jp/profile/shimizu_risa/

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