
1999年、夏至。
小さなころ、ノストラダムスの大予言を信じていた。
1999年の7月、空から恐怖の大王が降ってくる。
人類は滅亡すると信じて疑わなかった。
人類が滅亡するなら勉強なんてしても無駄だ。
いろいろな習い事も嫌々させられていたので全部意味ないと思っていた。
まず習い事の公文の宿題をするのをやめた。
サッカーの練習もみんながリフティングをしているなか、
足より手の方が使いやすいとハンドばかりしていた。
水泳もクロールはせずに仰向けになり、
ぷかぷか浮かんで天井ばかり見ていた。
ピアノも楽しくなかったので
イライラを鍵盤にぶつけるように弾いて先生に怒られていた。
帰りに買ってもらえるセブンティーンアイスの
チョコミントだけが楽しみだった。
習い事を全部やめて友達と遊んでいたい。
親に直訴したが、辞めさせてもらえなかった。
空から恐怖の大王が降ってきてどうせ全部なくなるのに、
なんで辞めさせてもらえないんだ、と憤った。
親からは納得できるだけの答えを得られなかった。
その代わり、頑張ったら任天堂のゲームボーイを買ってやると言われた。
だったらやるかとゲームボーイのために頑張った。
6月。友人のシモヤマくんの家で
ゲームボーイのドラゴンクエストモンスターズ
テリーのワンダーランドをしているときだった。
「来月でぜんぶなくなるね」と言うと、
「え、なにが?」と返ってきた。
「ノストラダムスの大予言」
「なにそれ?」
「空から恐怖の大王が降ってくる」
「つよいの?」
シモヤマくんはドラクエの話だと思っているようだった。
シモヤマくんはなにも知らずに滅亡する。
教えてあげたほうがいいのかなと思ったが言えなかった。
シモヤマくんもゲンキくんもカンくんもユナちゃんも
みんな来月で滅亡するのに滅亡しないみたいにしていた。
当時、いつも昼間から公園のベンチで
限りなく裸に近い格好でサンオイルを塗って日焼けをし、
たまに警察に通報されていた母親の兄に相談することにした。
公園に行くと母親の兄がいた。
僕に気づくと「おうどうしたアニキ」と声をかけてくる。
母親の兄はなぜか僕をアニキと呼ぶ。
「7月になったら恐怖の大王が空から降ってくるよね?」
単刀直入に聞く。
「おう、くるぞ」と答える母親の兄。
やっぱりそうだ。恐怖の大王は降ってくるんだ。
確信を得て、嬉しくなりさらに
「だったら宿題もやんなくていいよね?」と聞くと、
「おう、やんなくていい」と答える。
その日、
1999年、6月のいちばん陽が長い日、
母親のお兄ちゃんから聞きたい答えを聞けたぼくは、
家に帰り公文の宿題も勉強道具も全部ゴミ箱に捨て、
やりたいことだけやることを決意した。
そして、
7月が過ぎ、8月を過ぎても空から恐怖の大王は降ってこなかった。
ただただ同級生より勉強が遅れただけだった。
勉強に遅れた少年は
遅れた分を取り返そうとはせず
まだ2000年問題があるから大丈夫だ、
とまだ滅亡する未来に期待していたが
それも何事もなく過ぎてしまい、
ずいぶん勉強に苦労するのであった。
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出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属
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