櫻井暸 2026年6月21日「イルゥアーク」

「イルゥアーク」

   ストーリー 櫻井
      出演 斎藤陽介

2015年、初夏。
留学先のスウェーデンにて。

この時期の北欧は、昼が長い。
19時になっても、20時になっても、まだ明るい。

当時の専攻は、環境工学。
夕方まで授業を受けて、
そのまま自習室に直行。

授業の復習をして、明日の予習もして、
大学院の入試に向けた受験勉強もして。
あほみたいに勉強して、寮に戻る。

もう夜なのに、
北欧の空は昼みたいな顔をしている。

ふしぎな時間だ。
ふしぎな感情になる。

帰り道によく、
寮の近くのケバブ屋さんで
夕食を買っていた。

友達もおらず、暇すぎるあまり、
勉強するしかなかった僕は、
そこのテイクアウトが楽しみだった。
大量のチキンナゲットとカリカリのフライドポテト。
そこにレタスやトマト、たまねぎなどの生野菜を添えて。
看板にデッカく書かれたケバブではなく、
メニューの端っこに書かれたそればかり注文していた。

当時の自分は、散髪にも一切行かず、
髪も胸のあたりまであって、ヒゲも生えっぱなし。
そんな奇怪な客だからか、
店員のおじさんも覚えてくれていた。

ある日「Where are you from?」と聞かれた。
「Japan」と言った。そして尋ねた。「How about you?」

すると彼は答えた。「イルゥアーク」
イルゥアーク?
I・R・A・Q。イラクのことだった。

テレビのニュースでしか聞いたことのない国。
平和なのか、そうじゃないのか、もわからない国。

ふしぎな感情になった。

この方はどんな苦労を乗り越えて、今スウェーデンにいるのか。
いや、そういう考えに至ることこそ、失礼に値するのか。

結局、彼の希望でFacebookを交換し、
ふしぎなフレンドが1人増えて、部屋に戻った。

チキンナゲットと生野菜に
ケチャップをたっぷりかけ、
口いっぱいに頬張る。

もう夜なのにまだ明るい、
ふしぎな空を眺めながら。

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出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属




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