いわたじゅんぺい 2022年2月6日「かんな 2022 冬」

かんな 2022 冬

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは6歳である。
下の前歯は4本生え変わり、
上の前歯は1本抜けている。
2021年も
コロナにかかることなく、
元気に過ごすことができた。

いま好きなことは
絵を描くことと工作。
絵本をつくったり、
スーパーマーケットごっこの
商品をつくったり、
何かと忙しくしている。
一人で遊んでくれるので
親としては楽である。
夜型なのか、
風呂から上がって
さあ寝ましょう、
という時間から
制作意欲が湧いてくるようで、
なかなか寝てくれないのは
困りものである。

白い紙を束ねて
糸やホッチキスで
冊子の形にしておくと
喜んで絵本を描く。
この前も一生懸命描いていたので
絵本のタイトルを聞いたら
「みらくるばかわらい」
だという。
なにそれ絶対読みたい、
と父は思った。

お気に入りの店は
100円ショップ。
惣菜なんかを入れる
透明のプラスチック容器を
「どのおおきさにしようかな」
と楽しそうに選んでいる。
スーパーマーケットごっこに使うのである。
6歳にして
キャラクターグッズには目もくれず、
惣菜容器を嬉々として選ぶのだから
なかなか渋い。

文字を読んだり書いたりは
だいぶできるようになってきた。
この前は
「“ちぇ”はどうかくの?」
と聞いてきて、
僕に答えを聞く前に
「ちにちいさな“や”だと“ちゃ”だし、
“よ”だと“ちょ”だし・・・」
と自問自答して、結局
「へ?」
という答えを出した
「おしい」
と僕が言うと
「け?」
と言うので
「ちょっと離れた」
と言うと
「ぺ?」
と言うのを最後に
考えるのをあきらめた。
“ちぇ”は書けなかったものの、
だいぶ高度なひらがなまで
理解できるようになってきたことに、
父はいたく感心した。

また別の日。
家に帰ると、
玄関にかんなの文字で書かれた
「こめんナさいおうう」
という張り紙が貼ってあった。
僕はかんな語が解読できるので
これは
「ごめんなさいを言う」
だと分かったのだが、
なんでそんなことを
書いたのかと聞いたら、
長男に向けての
忠告だということだった。
長男が約束を守らず
妻が怒っていたので、
そんな緊急事態を
兄に知らせるために
張り紙を貼っておいたらしい。
がさつな兄は張り紙に
全く気づかなかったらしいが、
兄の性格で
妹の発達する部分も
変わってくるんだなあ、
と思った。

歌ったり踊ったりも
好きなようで、
最近は自分で作詞作曲した歌を
歌ったりしている。

一番最初に作った歌は
♪ドレミレドの音階で
「♪はむすたあ」
と歌ったものであった。

この頃から急に
かんなの中で謎の
ハムスターブームが起こり、
自分のことを
「はむちゃん」
と呼び出して
今に至っている。
家族もかんなの
「はむ呼び」には
慣れてしまったので、
外でもかんなを呼ぶ時は
「おーい、はむー」
などと普通に
「はむ」という名前の
女の子として扱っている。

話が逸れてしまったが、
歌が好きなかんなは
自分で作った歌に、
自分で振り付けをして、
夜の窓に映った自分を見ながら
真剣に歌って踊っている。
元気にサイドステップを踏みながら、
「♪ずっと遊んでばかりいても
それが運動神経につながるかも〜
それが私の運命〜」
と高らかに歌い上げていた。
ちなみにこの部分はBメロの
終わりあたりで、
曲全体は4分半くらいある。
たぶん同じ歌詞とメロディは
2度と歌えない。

そんな多才なかんなであるが、
苦手なこともあって、
右と左が壊滅的に
覚えられない。
元々左手で絵を書いたりしていたので
両利きなのかもしれない。
不意に
「右手」と言われると
右手と左手を交互に
2回ずつ上げてから
左手を上げたりする。

苦手といえば
お風呂も苦手である。
特に僕と入ると
頭からざぶざぶ
お湯をかけられるので、
やさしく洗ってくれる
妻としか入りたがらない。
ところが
この前、珍しく
「パパとおふろはいる」
と言うので
「入ろっか」
などと喜んでたら
「ぱぱっとお風呂入る」
の聞き間違いで、
いつもどおり
妻とお風呂に入っていった。

またある時。
妻が子供の頃バトンをやっていた
という話をしていたら、
「ばとんてなに?」
とかんなが話に入ってきて
「棒をクルクル回すやつ」
と妻が教えると
「あ、わかった!」
と言ってかんなが
やって見せてくれたのは
グルグルバットの動きだった。

ゴミを捨てる時は
ゴミに向かって
「いままでありがとう」
と言ってから捨てる。

ピンと伸ばして手を上げながら
横断歩道を渡る。
一台もクルマが見えてなくても。
その疑いも照れもない
凛々しい手の上げっぷりは、
純粋さの象徴のようで、
父はかんなのその姿を
いつか思い出して
泣いてしまうのではないかと思う。

月が大きかった日に
ベランダから月を見ていたら
「よるにあさあったことを
おもいだすと
なつかしいなあっておもうよね」
としみじみと言っていた。
6歳の1日は長い。
すべてが記憶に残る情景なのだろう。

大晦日に蕎麦を食べながら
長男と妻との間で
「そば湯」の話になった。
その話を聞いていたのだろう、
夜、風呂掃除をしていたら
かんなが寄ってきて
「今日はそば湯だよ」と言いにきた。
ゆず湯みたいなものだと
思ったようだ。

七夕の短冊には
「せいちょうしますように」
と書いていたが、
初詣では
「ころながおさまりますように」
と願ったそうだ。

今年もいい年になるだろう。

かんなの引いたおみくじは
「小吉」だった。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





かんな 2021春:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31820
かんな 2020夏:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31699
かんな 2019冬:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31528
かんな 2019夏:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31025
かんな 2018秋 http://www.01-radio.com/tcs/archives/30559
かんな 2018春:http://www.01-radio.com/tcs/archives/30242
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かんな:http://www.01-radio.com/tcs/archives/28077


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