十五の夏

十五の夏

     文:伊藤健一郎
     声:地曵豪

はじめて一人で旅に出たのは、十五の夏だった。
高校一年の夏。

中学まで部活一筋だった僕は、入学早々、肩を壊した。
過度なトレーニングのせいで。

情熱のやり場がわからなくて、
時間だけが途方もなく広がっていて、
どうしようもなく怖かった。

放課後、部活に向かう仲間たちを見ると、
何もせずに帰るのが悔しくて、夜になるまで寄り道をした。

もうすぐ夏休みのある日、
本屋で時間を潰していると、一枚の写真に目がとまった。

石割桜。
盛岡に植わるその桜は、巨大な花崗岩を割って咲く。
いつかの小説の舞台が、そこにあった。

すぐに準備をしたのを覚えている。
荷物はシンプル。着替えを詰めたザックがひとつ。
18きっぷを購入した。

夏休みに入るや否や、盛岡へ。
実家のある浜松からは、鈍行で丸二日かかった。

ようやく辿り着いた場所。
真夏の桜に、花が咲いてるはずはなかった。
桜の前に腰を下ろし、持ってきた小説を開く。
浅田次郎「壬生義士伝」にはこんな文章がある。

盛岡の桜は、石ば割って咲ぐ。盛岡の辛夷は、北さ向いて咲ぐ。
んだば、おぬしらもぬくぬくと春ば来るのを待ってるではねえぞ。
春に先駆け、世にも人にも先駆けで、あっぱれな花こば咲かせてみよ。

はじめて一人で旅に出たのは、十五の夏だった。

あれから、いろんな土地を訪ねたけれど。
「旅」という言葉で思い出すのは、
青々とした葉を揺らす、あの日の石割桜だ。

東北へ行こう。


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