野芹の胡麻和え

野芹は野生の芹のことで、水のキレイなところに自生する。
田んぼにも生えるし、わき水のそばにも生える。
ずぶずぶと長靴が沈みそうな湿地にも生える。
それを暇なお婆ちゃんが採取して市場に流すのだが
なにしろ手間のいることなので滅多に買えない。
だいたいが私の住んでいるあたりでは売っていない。
見かけたら仕入れてねと八百屋に頼み込むしかない。

さて、めでたく入手に成功したら、まず芹の掃除にかかる。
おっと、その前に風呂を沸かす。
風呂を沸かしながら芹を洗う。
芹を洗うのは自分を洗うより時間がかかるが
悲しくもこの工程は省くわけにはいかない。
野芹を食べようと思ったら、心の余裕と時間の余裕、
それから沸いた風呂が必要だ。

ボールでは間に合わないので私は大鍋を使う。
大鍋に水を入れて、芹をごくごく軽くひとつかみ入れ
ざぶざぶとゆすいだ後に一本づつ根のあたりを掃除する。

野芹にはありとあらゆるゴミがついている。
枯れた草のようなもの、藁のようなもの、泥のようなもの。
芹自身の傷んだ茎に枯れた葉も取り除くが
枯れていない赤っぽい葉は捨てない。
たぶん気温が低いと赤くなるのではと思う。

根元の黒い部分(上の写真)も指の先でこそげ落としてしまう。
野芹は根元もうまいので切り落とさないで頑張って洗う。

すべての芹がキレイになったら、もう勝ったも同然だが
ふと気づくとカラダの芯がぞくっとするくらい冷えている。
指の付け根から先が赤くなって膨張している。
要するに、シモヤケのなりかけ状態だ。
そこで沸いた風呂に飛び込むのだ。
は〜、ゴクラクゴクラク。
膨らんだ赤い指があっという間にもとにもどる。
この風呂がないと風邪をひく(と思う)

風呂からあがるとザルにてんこ盛りの野芹が待っている。
大きな鍋に大量の湯を沸かして、網杓子を用意し
芹を少しづつ入れながら茹でる。
あっという間に火が通る。茹ですぎに注意。

さて、第一弾が茹で上がって水に取る。
冷水とわざわざ書かないのは、野芹の時期はどうせ水道の水も冷たいからだ。
水に取って固く絞る。
次にいま茹でた水をのぞきこむと、なんと不思議…
あれだけ洗ったにもかかわらず、こまかいゴミが浮いている。
これを網杓子で掬ってから次の芹を入れる。

こうして茹でた芹を胡麻和えにする。
煎った胡麻を擂り鉢で摺って、
プチプチが残るくらいの荒摺りが私は好きだが
まあそのへんはお好みで。
胡麻が摺れたら醤油を入れて胡麻と醤油をなじませて
芹を刻んで擂り鉢に放り込んでさくさくと混ぜると出来上がる。
芹はお浸しもうまい。
醤油を出汁で割って野芹をひたしておく。
そうなのだ。ひたしておくからお浸しなのだ。
茹でっぱなしに醤油をかけるのはお浸しではない。
しかし、出汁と醤油のほかに何か入れたいね。
梅干しを刻む?却下。
庭の柚子をちょっと絞る?うん、それでもいい。
和辛子?うん、それがいちばんいいよ。
出汁と醤油だけのお浸しですというフリをして
バレないように和辛子をちょっとだけ入れる。
チューブの和辛子ではなく、粉をちゃんと溶いてくださいね。
鈍い人には、辛子が入っていることなんかわからなくてけっこうです、
というくらい入れます。

野芹はうまい。本当にうまい。
だからいっぺんには出さない。
残りはタッパーにしまって冷蔵庫に隠しておくのですよ(なかやま)

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