村は消えても

「村は消えても」
 
           ストーリー 矢谷暁
              出演 遠藤守哉

その日、村長は一夜にして市長になった。

岩手県 岩手郡 滝沢村。
盛岡市の北西にへばりつくように隣接し、
新幹線の停まる盛岡駅からわずか5キロの村だった。
2014年1月1日。
それまで「人口日本一の村」だったこの村は
地図上からその名を消す。
滝沢村から、滝沢市に昇格したためだ。

「ご注意ください。道路標識の変更は1万か所を超えています」
「お間違えなく。郵便番号は5種類から139種類に増えました」
しかし、そんな呼びかけも馬耳東風、
馬の耳に念仏とばかり聞き流す市民もいる。
いや、正しくは市民ではない。馬だ。

代々、馬と人々がともに生活してきた滝沢。
なにもかもが変わったが、変わらず続く行事もある。
「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」という祭りだ。

毎年6月の第2土曜日、蒼前(そうぜん)神社から盛岡八幡宮まで、
100頭を超える馬が、13キロの道のりを4時間かけて行進する。
馬たちは色とりどりの装束とたくさんの鈴で飾り付けられ、
歩くたびにその鈴が「チャグ、チャグ、チャグ」と音を立てる。

今年のチャグチャグ馬コは、6月14日。
練り歩く道路では、標識がいたる所で変更されている。
人々にとっては大きな変化だったが、
馬たちの目にはちょっと新しい景色に映るぐらいで、
いつものようにのんびり道を行くことだろう。

晴れれば祭り見物には半袖が気持ちいい。
村から市へその名を変えても
人と馬が変わらず寄り添い続けるこの地に、
もうすぐ夏がやってくる。

東北へ行こう。

 

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盛岡タウン情報http://www.morioka.ne.jp/index.htm

盛岡観光情報http://www.odette.or.jp/

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岡部将彦 2014年5月4日

「剣と魔法のファンタジー」

       ストーリー 岡部将彦
          出演 遠藤守哉

世界が混乱に陥って、もう何年が経っただろうか。
突然、魔王を名乗る者が現れ、魔物を率いて、
人類に対し宣戦を布告。
罪のない多くの人の命が、魔物によって奪われていった。
もちろん人間たちも、ただ黙っているだけではなかった。
古(いにしえ)より伝わる魔法など、持てる限りの武力で徹底交戦。
戦況は、一進一退の膠着状態に陥っていた。
その間、勇者を名乗る人間が星の数ほど現れては、
魔王討伐に立ち上がり、そして散っていった。

世界中が魔王の存在に怯え、日々の暮らしを営んでいた。

それは雪に閉ざされた、
このさびれた名もなき村でも例外ではなかった。
村の寄合所では、
今まさに村長を中心に村人たちによる定例会が行われていた。

「では、次の議題です。
 勇者を名乗る一団が2組、
 この村に向かっているとの情報が入りました」

出席者たちの目がいろめきだつ。

「皆さまよくご存知とは思いますが、
 彼らは、どんな扉でも開ける不思議な鍵を使い、
『魔王討伐』の大義名分のもと、村民の住居等に無断で侵入、
 引き出しや、タンスを勝手に詮索、果ては宝箱すら略奪するという
 狼藉を働きます。貴重品の管理には充分な注意を払ってください。」

この会議の度に繰り返される注意事項の定型文の後、
議題は本題へと移った。

「宿の値段は、もう少し、つり上げてもいいんじゃないか?」
 宿屋の主人が口を開けば、
「この村の他に、この地域で補給できる場所はないんだ、
 薬なんかの値段は、
 もっと高くしてもいいと思うがね」
道具屋の主人も負けてはいない。

まあまあと彼らをなだめるように村長が口を開いた。
「そんなのは、後でどうとでも回収できるじゃろ。
 それよりも、村のそばにある洞窟に、
 伝説の武器が眠っているかのような噂をもっと立てるべきだと思うんじゃ」

村長の発言が終わるか終わらないかのうちに武器屋の主人は、
最近入れた金歯を見せつけるようにニタッと笑いながらこう言った。
「しかし、以前作った「偽の古文書」は効いたなあ。
 高価な武器をたくさん買ってくれたあの「勇者さま」たちは、
 今頃、どうしてるのかねえ。
 おっと、そういえば、武器の在庫が切れかかってるから、
 仕入れにいかなきゃならんな」

「仕入れっつっても、洞窟まで行くだけだろ?」
 会議出席者の間で、笑いが起こる。
「まったく魔王さまさまだな」

昨年、魔物に両親を殺されたために、
村長の家に身を寄せている少年・ポックルは、
不思議そうに大人たちの会議をじっと聞いていた。

「村の予算達成のために、各自よろしくお願いしますよ」

会議が終わり、家へと帰る道中、ポックルはたまらず村長に尋ねてみた。
「ねえ、村長。みんなまるで魔王のことを
 ありがたがってるみたいじゃないか…」

村長はすべてを察したような顔で話し始めた。
「ポックル。お前が言いたいことはわかる。
 お前は魔物に大事な母さんも父さんも殺されてしまったんだしな。
 でも、もし魔王がいなくなってごらんよ。
 どんな物好きが、こんな雪山の村に訪れるんだい?
 でも、今は違う。この非常事態の中で、世界中の人間が、
 現状を打開すべく世界の隅々まで冒険している。
 人里離れたこんな辺鄙な村だからこそ、
 なにか「伝説のお宝」が眠っているんじゃないかと期待をする。
 だからこそ、この村の汚い宿でも、
 街の何倍もの宿代を取ることができるんだよ。
 彼らが買っていく、武器や防具、薬のお金が、
 この村にどれだけの富をもたらしてくれたか。
 お前は、食うものにも困るような元の貧乏村に戻りたいのかね?」

「でも…」

「お前が、魔物を憎んでいる気持ちはわかる。
 でもね、魔物がいるからこそ、
 この村は食っていけてることを忘れてはいけないよ。
 魔王がいて、それを倒そうとする人間たちがいる。
 その状態が、この村にとって、一番平和なんだよ」

ポックルは納得がいかなかった。
僕のように、いつ魔物に大事な人を奪われてしまうかわからないような日々が、
この村にとっての平和だなんてことが。

でも、それだけじゃない。
ポックルが本当に聞きたかったことは。

「僕、知ってるんだよ…だったらなんで…」

「おーい、旅人が来たぞー!」
見張り台の方から、若い衆の威勢の良い声が響いた。

「ほらほら、急ぎなさい。最高の笑顔で「勇者さま」をお迎えするんだ!」

ポックルは、村長に言いかけた言葉を飲み込んで、
自分の持ち場へと向かっていった。

ポックルの持ち場は、村の出入り口。
子供らしい無邪気さで、「勇者さまご一行」に話しかける。
「ようこそ、さいはての村へ」。

その後、いつものように、村の大人たちが考えた鼻歌を、さりげなく歌う。
「♪らららー空を割き、大地を割るよ〜♪洞窟の奥で眠る氷のつるぎ〜
 …おじいちゃんに教えてもらった、この歌は、どういう意味なのかなあ」

「やはり噂の通り、この付近の洞窟には、
 求めていた伝説の武器があるようだな…」
勇者さまご一行は、村の奥へと歩を進めた。

彼らの背中が遠ざかっていくのを見つめながら、
ポックルはポツリとつぶやいた。
「僕、知ってるんだよ…その洞窟には、
 村のみんなが仕掛けた罠があるよ。気をつけて…」

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

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玉山貴康 2014年4月6日

「スピーチ」

      ストーリー 玉山貴康
         出演 遠藤守哉

タクヤくん、ユキさん、ご結婚おめでとうございます。
本日は、佐藤家、林家、ご両家のたいへんおめでたい席に
お招きいただきありがとうございます。心からお祝い申し上げます。
ただいまご紹介にあずかりました、
新郎新婦と同じ職場でともに仕事をしております、田中でございます。
たいへん僭越ではございますが、
ご指名ですのでひとことお祝いの言葉を申し述べさせていただきます。
どうぞご着席ください。

いやはや、まだ信じられないというか、まさかこの二人が!という心境でございます。
はじめて話を聞かされたときは本当にビックリしました。
彼は営業部で、彼女はマーケティング部。
それぞれの部署でバリバリのエースです。
タクヤくんは、営業成績なんと2年連続でNo.1ですし、
ユキさんも大きなプロジェクトをリーダーとして何本も抱えています。
二人とも後輩の面倒見もよく、その仕事ぶり、人柄、将来性、
どれをとっても完璧、パーフェクトでございます。
今年、彼らの働きもあって、わが社は上場いたしました。
この数年間というものは、非常に忙しかった。
お得意さまも増え、プレゼンの連続で、休日勤務も少なくなかったはずです。
それなのに、どこにそんなつきあう時間が…あ、いや、よけいなお世話ですね(笑)

そういう私もじつは社内結婚でして、
私の結婚式のときも、このように当時の上司にスピーチをお願いしました。
そのときに贈っていただいた言葉が、いまでも私たち夫婦のモットーとなっております。
その同じ言葉を、今日、お二人に贈り、祝辞に変えさせていただきたいと思います。
それは、「祝婚歌」という吉野弘さんの詩です。
えー、ゴホン(咳払い)、それでは心をこめて。

祝婚歌

吉野弘

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派過ぎないほうがいい

立派過ぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい

二人のうち どちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい

正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい

立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず

ゆったりゆたかに
光を浴びているほうがいい

健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい

そしてなぜ 胸が熱くなるのか
黙っていてもふたりには
わかるのであってほしい

えー、以上です。
仕事上ではとても優秀すぎるお二人です。
家庭においても、同じように「完璧」を目指してしまわないか。
もしもそうなりそうだったら、ふとこの詩を思い出してほしい。
気持ちがフッと楽になるかもしれません。
どうぞ温かく明るいご家庭を築いてください。末長くお幸せに。
本日はたいへんおめでとうございます!

え?なんだよ!いいよもう!俺が主賓なんだから!あ、そう?
う、うん、わかった、わかったよ!
(誰かと小声で打合せしている様子。少し面倒くさそう)

えー、ゴホン(咳払い)、では、続きましてぇー、
わが社の会長である、妻、トシコからも、ひとことご祝辞をと申しておりますデス、はい…。
(きまりが悪そう)

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

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直川隆久 2014年3月16日

すみれ、散る

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

ときどき行く商店街のうどん屋の主人が、
新しいメニューを試食に来てくれ、とメールをよこしてきた。
ちょうど昼時でもあったので、散歩がてら行ってみることにする。

店に入ると、「ああ、ようお越し」と朗らかな顔で主人が出迎えた。
年齢は50そこそこ。婿養子で、
先代からつづくこのうどん屋を夫婦で切り盛りしている。
先代は80を超えた爺さんで、店にはでず競馬中継を見て過ごす毎日だ。

席に通され、しばし待つ。
昼時だが、ほかに客はない。
「どうぞ」とだされた丼に、予想もしなかった色彩がのっているので、
一瞬ぎくりとする。紫色の花弁が山盛り。
「すみれうどん、て言いまして」と主人が胸を張る。
ほう、なぜまたこんな、その…斬新なメニューを、と水を向けると、
堰を切ったように喋り出す。

「わたしらうどん屋も、新しいことにチャレンジせなあかん思いましてね。
チャレンジせな、生き残れませんがな。
もっとね、若い女性に食べてもらわなならん。
ほんでね、わたし、考えたんです。うどん屋に欠けてるもんは何か。
それはね、はなやぎですわ。はなやぎ」と主人がぐっと顔をこちらへ近づけた。
右のおでこのホクロの毛が見える。

主人は“宝塚”好きということもあり、
女性に間違いなくアピールするマテリアルとして
「すみれ」の発想を得たのだと言う。
すみれの花は実際に吸い物の具にしたりもするらしいので、
あながちでたらめということでもないらしい。

食べてみると、見た目を重視したせいか花を湯通ししていないので、
少々えぐみがある。が、しかし、これはだめだ、というほどでもない。
むしろ野趣があるとも言える。
こういう変わりメニューは、味よりも話の種になるかどうかが大事だ。
存外、いけるかもしれない。

いや、これはなかなかだ、
もしテレビに取り上げられたら若い女性が行列をつくるかもしれませんな、
と述べると主人はほくほくと笑い
「まあまあ、やっとくなはれ」とビールとコップをだしてきた。
ありがたくいただく。
「もしテレビに」以下はあくまで一般論であるので、
でまかせの世辞を言ったつもりはない。

正直に言うと、私は少しく驚いていた。
この国を覆う焦燥感に、である。
巷の讃岐うどん屋のように手打ちにこだわるでもなく、
どちらかといえばふにゃふにゃで主張のないうどんを、
殊更に問題意識なく何十年来売り続けて来た男にまでそういう気を起こさせる、
この国の「なんとなくこのままではいけない感じ」に。
コップのビールがいつもより苦く感じたのは…
舌に残ったすみれのアクのせいだろうか。

一週間ほど仕事でばたばたしたあと、外出時にうどん屋の前を通りがかった。
中をのぞくと、客は誰もいない。
店内の椅子にこしかけ、ぼんやりとテレビを見ていた主人がこちらに気づき、
さえない表情で会釈をした。
店に入り、どうです、新しいうどんの評判は、と訊くと、
主人はかぶりを振って「やめですわ」と答えた。
やめた?なぜ?
「おやっさんがやめえ、言うんです。ええ年してはしゃぐな、て」
店の奥から競馬放送の音が聞こえて来る。
もったいないですな。客には出したのですか。
「ええ、だしました。二人ほど」
どうでした、評判は。
「ええ、まあ…悪なかった、思いますで」と主人が目をそらした。
「けど、おやっさんは…気にいらんかったみたいですな」
話はそれきりになった。わたしは、きつねうどんを注文した。
あいかわらず、腰のないうどんだった。

ひょっとして、先代の爺さんが止めたのは、
婿養子のアイディアが評判を呼ぶのを苦々しく思ったためなのか。
いや、本当に評判が悪かったからなのか。それは今では分からない。
なぜなら、それからほどなくうどん屋は店を閉め、
主人とその家族もこの町から姿を消したからである。
うどん屋は取り壊され、後にはチェーンのセルフうどんの店が建った。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

  

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一倉宏 2014年1月5日

  山について

   ストーリー 一倉宏
      出演 遠藤守哉

 山について 語りたいことは 山ほどある

 山は いいやつなんだ 

 ああ見えて なかなか繊細だし
 決して 見下すようなことはしない

 山っ気はないし
 やましいことがあるわけでもない

 ただ うらやましいことが あるにはある
 
 山は 川にいった
 君はいいなあ 遙かに長い旅ができて 
 いつか海に会える

 川は 山に答えた
 こうして流れ流れてゆく身も 気楽ではないさ
 生まれ故郷に帰って来る日は いつのことやら

 山は だれを恨むでもなく
 山は じっと山でありつづけながら
 山のように動かぬ日々に 
 身もだえするような思いも 秘めている

 山は 雲にいった
 君は自由だ きみはどこまでもいける

 雲は 山にいった
 そうでもないさ 生まれては消える 繰り返し
 ぼくらのいのちは短い
 きみのように 何万年でも生きられるなら

 風は 山にいった
 きみがいなければ ぼくらの旅は 
 どれだけ退屈だろう

 山だって なにかがしたいのは
 山々だけど
 そうするには 問題が山積みだ

 だから 山として そこにいる

 山は いいやつなんだ
 ほんとうに 見上げた存在だ

 山について 語るべきことは
 山のようにあるけれど

 仕事の山が ひかえているので
 やむをえなく やめとする
 今夜が 山なので

 ほんとうに
 山について 語りたい気持ちは
 やまない

 山を越えたら また 挑みたい

 

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

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遠藤守哉から「ひと言」

え~、岩本さん。ご無沙汰しております。
以前ご紹介したお店です。
何度か足をお運び頂きながらも 混んでいて入れなかった と
中山さんから伺っております。
大変申し訳ありません。

写真を添付いたしますね。


鰺のタタキ ↑


鯖のスモークとシオマネキの殻ごと塩漬け ↑


黄金カニ ↑

日本酒は 一合(180cc)の他、120ccもあります。
もっきりと、二人でわけて飲むときは徳利でも出してくれます。
とても親切なお店です。

遠藤守哉http://www.aoni.co.jp/actor/a/endo-moriya.html

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