永野弥生 2026年10月25日「常秋の星」

常秋の星

  ストーリー 永野弥生
     出演 遠藤守哉

酷暑と呼ばれるほど暑い日が続いたあの頃、
「一年中秋ならいいのに」とぼやいていたのが懐かしい。
と、千秋は今や過去のものとなった夏に思いを馳せた。

なぜなら地球は、ある時、急激な気候変動を遂げ
「常夏(とこなつ)の島」ならぬ
「常秋(とこあき)の星」になってしまったのだ。

北極と南極周辺を除いた、人間が暮らす陸地はすべて、
10℃から20℃の涼しく穏やかな気候が、
年中キープされている。

このことを、氷河期に入る前兆だと
警鐘をならす学者もいたが、
庶民の反応は温暖化の時と変わらず、
自分たちの今の暮らしが快適なら
それでいいという者が大半だった。

年中秋なら、秋刀魚が食べ放題かというとそうではなく、
スーパーの売り場から消えて久しい。
夏に冷たい北の海で脂を蓄えて、
水温の低下とともに、
秋に日本近海に来ていた秋刀魚は、
人間の手の届かない海で一生を終えるようになったのだ。
自分たちにとって適温の海に留まっていては、
脂が乗って美味しくなることもなく、
遠い北の海までわざわざ獲りに行く者もいなくなった。

木々の色づきを一年中楽しめるのかというと、
むしろ紅葉(こうよう)を見られることもなくなった。
前後に「暑い夏」と「寒い冬」があるからこそ、
秋に色づいていた紅葉(もみじ)などは、
春に芽吹くこともできないまま、絶滅の危機に瀕していた。

千秋個人にとっては、
そもそも「長寿」や「実り多き人生」を
願ってつけられた「千の秋」と書く自分の名前の意味が、
作物の多くが実らなくなったこの地球において、
大きく変わってしまったのもさることながら、
長年天職として続けてきた気象予報士の仕事が、
猛暑や台風、寒波などの気候による危機のない地球では、
ほとんど必要とされなくなってしまい、職を失ってしまった。
AIに仕事を奪われないよう、
人間にしかできないことを模索した時期もあったが、
まさか気候そのものに奪われるとは。

毎年恒例だったお花見や、
数年に一度の楽しみだった南国リゾート、
こたつでみかんを食べて過ごすお正月などという
シーズンイベントがなくなったことで、
はじけるように笑うことも、
ずいぶん減ってしまったように思う。
エアコンなしで年中過ごせる快適さによろこぶことも、
長くは続かなかった。かつて「幸せ」だと思っていた
あらゆることが、ただの当たり前になった。

うだるように熱い夏や、凍えるような冬があるから、
秋は実り多い季節だったのだ。

辛い日々や、我慢の連続の先にあるからこそ、
幸せは、幸せなのだ。

季節や気候を人工的につくって
人々に体験させるアミューズメント施設や
リラクゼーション施設、リゾート施設などを
次々とプロデュースし、大成功を遂げた今、
千秋にとっては、その輝かしい成功よりも、
次にまたやってくるであろう人生の冬を、
楽しめるを自分を手に入れたことが、
かけがえのない収穫だった。

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出演者情報:遠藤守哉

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