Tomorrow is tomorrow

Tomorrow is tomorrow

久世星佳

あなたの中には
一本の木が生えてるのを知ってる?

日々の出来事に思いを巡らせ
思わずため息をついた時。
ぼんやりと ただ地面を見つめてる時。
自分に向かって話されてるはずの言葉が
嘘のように右から左に抜けていく時。
ああ、なんて自分はダメなんだ・・
と思った時。

けれどいつか
明日こそは・・
と思えた時。

あなたの中に生えてる木が
嬉しそうに枝葉を伸ばし出す。

明日なろう
明日なろう

明日こそは・・。
.
出演者情報:久世星佳

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ただ踏みしめた

☆ただ踏みしめた

   文・声:久世星佳

天気の良い日。

ひたすら歩きたくなって
スニーカーを履いて街に繰り出した。

こういう日は
大きく両腕も振って歩きたい。
だから、お供は控えめな斜めがけバッグ。
うん。いいね。

両手が塞がってないというだけで
こんなに自由な気がするんだ。

時折吹く風を受け止めたり、軽く押されたりしながら
普段通らない道を進む。

へー、こんなところに公園があったんだ。

ちょっとした緑道を抜け、
日の光をいっぱいに受けた広場に出た。
いいねー。ブランコもある、乗っちゃおうかな・・
そう思い一歩を踏み出した。

あ・・。

踏み出した先に広がるのは
舗装された地面ではなく、むき身の地面。
ああ、今 大地の上に立っている。

やけに嬉しくなり、
ニンマリしながら佇んだ。
.
出演者情報:久世星佳

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久世星佳「憂いなる左手」

憂いなる左手

     作・出演:久世星佳

友人たちとの食事中
私はお箸の扱いが下手だという話になった。
「そうそう、この間書き物をしてる時にも
 不思議なペンの持ち方するなーって思って見てたんだよね。」
友人の一人に言われる。

そうなのだ。
祖母や母から
「お箸の持ち方が下手だと恥ずかしい思いをする」
と幼い頃から結構厳しく言われてきた。

が、なんとも右手が不器用で
どんなに頑張っても俗に綺麗と言われる扱いができない。
平たいお皿に乗った春雨の最後の数本や
ぺたんと張り付いた薄切りの野菜など
手で摘んだ方が早いんじゃないか
と思う程 もたつく。
きちんとした和食屋さんのカウンターに座る時など
予めお店の人に
「私、お箸の持ち方が下手なんです。ごめんなさい。」
と白旗を振っておく。
ペンや鉛筆も然り
ものすごい垂直持ちで文字を連ねる。
どうかすると垂直の向こう側にペンが倒れる勢いだ。

そんなことを思いながら
「そうなんだよねー、昔左手で試しに書いたりお箸使ったりしたんだけど
 そっちの方がなんだか上手だったんだよね。
 本当は左利きだったのかも。靴履くのも左、荷物持つのも左だし・・」
それを聞いたもう一人が
「それってもしや、天才型ってこと?
 最近言われてるよ、左利きに天才が多いって。」
そうなのか、天才なのか私は・・。
なんとも心くすぐられる天才という響き。
いや、ちょっと待て。

以前、母に
「ごめんね、私、やっぱりお箸ちゃんと持てずに大きくなっちゃった」
と詫びたら
「あら、私も本当はちゃんと持ててないわよ。実はパパも持ててないの。
 上手い事、誤魔化してるのよー」
きちんとお箸を操っているように見えた姉まで
「私もちゃんと持ててないよ」
たった四人家族でこれなのだ。
この勢いで行くと
世の中天才で溢れ返ってしまう。

そんなことを思いながら
右手に比べ
おとなしそうにしている
左手を
マジマジと見つめるのであった。
.
出演者情報:久世星佳

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久世星佳「ようなしのおはなし」



ようなしのおはなし

   作・出演:久世星佳

深夜2時を過ぎた頃
机の上にあった黄色い物体をぼーっと見つめる。
上が細く下はぼってりとして
まるで起き上がりこぼしのようなシルエットだ。

「洋梨か・・」
と呟く。

洋梨・・
なんだかちょっと気の毒な呼び名だな、
と思う。

すると

「失礼ね。私はル・レクチェって呼ばれてるのよ。
 もしも名前がわからないんだったら
 洋梨じゃなく、西洋梨って呼んでくださる?」

「西洋梨?」

「そうよ。ラ・フランスっていう名前、聞いたことない?
 私たち西洋梨のドンのような存在なんだけど、名前のとおり
 原産国はフランスなの。他にもイギリスやベルギー生まれもいるのよ。
 あとは親戚筋にアメリカ生まれや、そうそう日本生まれだっているの。
 ちなみにル・レクチェも元はフランス生まれ。
 まぁ私は海を渡ってきた先祖の末裔だから、日本育ちだけどね。」

「へーっ。」

「ねえ、私たちを口に運ぶとどんな感じ?」
「いや、なんだか可憐な香りが口の中に広がって幸せな気分になります。」

「可憐だなんて嬉しいな。ねえ、知ってる? 私たち、バラ科なのよ。」

「バラ?」

「そう、百万本のバラのバラ。」

「あー、お花のバラですか。」

「そうなの。」

「へー。」

「へーって、それしか言えないの?」

「いやいや、なんか梨の木ってバラに比べるとだいぶ大きいような気がして。
 ちょっとピンと来ないっていうか」

「まあね、確かにバラは低木だもんね。
 でもね、私たちってお花の形が似ているの。
 わかりやすいところでは花びらとガクが5枚ずつ。
 そこからいくと、梅や桃、リンゴにさくらんぼ、イチゴもバラ科なのよ。」

「へーっ。」

「また、へーって。」

「いやいや、バラと果物がそんなに近い存在とは思わなかったもんで。」

「そうなの?」

「いや、ほら、バラってお花の中の女王様っぽいっていうか、
 香り高く咲き誇ってる イメージで・・」

「・・・・。」

「すみません・・なんか気を悪くされましたか?」

「別に。」

それだけ言うと黙ってしまった。

黙りこくったままの黄色い物体。
さっきまでのお喋りが嘘のようだ。
そんな姿を見つめたまま

「高貴なバラにはトゲもあって、下手すると血を見るけど
あなたは物腰がどことなく柔らかで
見ているとほっこりしますよ。」

そう言うと
黄色い物体がコロンと転がった。

「もう寝たら?」

「・・・確かに。」

時刻は午前4時を回ろうとしていた。
二度と起き上がろうとはしない起き上がりこぼし。
数時間後に目覚めたら
私はあなたの鎧を剥いて
現れた白い果実を頬張り
口の中いっぱいに広がる可憐な香りに癒されながら
始まる1日の幸せに感謝をするよ

きっと、ね。


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