高崎卓馬 2009年5月16日ライブ



おばあちゃんへの手紙

                   
ストーリー 高崎卓馬
出演 西尾まり 

おばあちゃんが死んだ日に
おじいちゃんはそのことがよくわからなかった。
おばあちゃんを送る日に
おじいちゃんはずっと新聞を読んでいた。
お線香の匂いが 
冬の朝を包んでも
お経が流れても
おじいちゃんはずっと新聞を読んでいた。

「おじいちゃんそれ昨日の新聞だよ」

おじいちゃんはいろんなことがわからなくなっていた。

おばあちゃんとおじいちゃんは
そんなに仲が良くなかったようだった。
おじいちゃんは、ほんとうのおじいちゃんじゃなかった。
戸籍上の話。
戦争で死んだ本当のおじいちゃんの弟が、おじいちゃんだった。
昔は珍しくない再婚話。

おじいちゃんとおばあちゃんは、
どこかで線をひいていっしょに暮らしていた
孫の僕にだってわかるような境界線。

ふたりに子供がいなかったせいかもしれない

おじいちゃんはおばあちゃんを好きだったのかな
おばあちゃんはおじいちゃんを好きだったのかな
お経を聞きながら、僕はふたりを可哀想におもった。

「たくちゃん、これ何時に終わる?」
おじいちゃんは僕にお葬式の終わる時間を何度も何度も聞いてきた。
「たくちゃん、これ何時に終わる?」
何十年も一緒に暮らしたひとがいなくなった日のことが
わからなくなったおじいちゃん。
「たくちゃん、これ何時に終わる?」
おじいちゃん、お葬式のことをこれって言わないで
お願いそんな質問しないで
ずっとずっと新聞を読んでいていいから
誰か他のひとに聞いて
「たくちゃん、これ何時に終わる?」

すべてが終わって
食事が出てきた頃
僕はおじいちゃんがすこし嫌いになっていた。
「おじいちゃん、先に帰って寝てる?」
それは優しさとかじゃなくて
もういちど僕がそういったとき
僕の目の前で、
おじいちゃんが突然泣き出した
ちいさな肩がちいさくちいさく揺れて
使い古された咽がひゅーひゅーなって
しわしわの頬に涙がたくさん枝別れして。

おじいちゃんはたぶん、
おばあちゃんがすごく好きだったんだ
よかったね、おばあちゃん

*出演者情報 西尾まり  03-5423-5904 シスカンパニー

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一倉宏 2009年5月16日ライブ



ハローとグッバイの間に
             

ストーリー 一倉宏
出演  坂東工

あなたと僕がはじめて出会ったのは 僕の誕生日でしたね

ほんとうのことをいえば 僕は よく憶えていないのだけれど
あなたは くりかえし 話してくれた
その朝の 空の青さ 風の匂い 緑の眩しさまで

その日から 僕には なにもかもはじめてのことばかり

あなたとの出会いは 人生でいちばん大きな 運命だと思う
ほかの誰でもありえなかった この世界でただひとり
絶対の運命 といえる女性は ほかにいない

あなたが僕を見つめるたびに 僕はしあわせを憶えた

あのころの僕は わがままなほど あなたを独占しましたね
それを許して 厭いもせず いつも笑顔で
あなたを なにかに喩えるなら 太陽というほかにない

あなたが僕にくれたのは 生きるよろこび そのもの

僕はいつも 叫びたいほどの気持ちだった
目覚めればそこに あなたがいるしあわせ
いない夜のかなしみ そして その肌のぬくもりも

あなたなしでは生きてゆけない 僕だったから

それはなんの大袈裟でもなく あなたについて思ったこと
いつか 壊れるほどに泣いた日を 憶えています
その胸に委ねた この僕の小ささ 悲しそうなあなたの顔

あなたの教えてくれたこと 僕はいつまでも忘れない

美しい歌 心をこめたことば この世界の歩き方
ごはんのおいしさも 読書のたのしさも
そして 誰かを傷つけること 自分の弱さと過ちについて 
  
あなたに会えてよかった あなたがいてよかった

あなたとの出会いは 人生でいちばん大きな 運命に違いない
ほかの誰でもありえなかった この世界でただひとり
あなたがいなければ この僕はいなかった

おかあさん

あなたとの別れのときが とうとう来てしまいました
怖くて想像できなかった別れが ついに
想像しても 覚悟をしても 実感できない別れが

あなたとのさよならは 凍るような夜の果て

ながらく むずかしい病と闘っていたあなたは
突然のように力尽き 戻れない橋を渡っていった
搬送する救急隊の 後を追って走るあいだに
あなたの帰りたかった故郷の街が 天の川のように見えました

さようなら おかあさん 

あなたと僕がはじめて出会ったのは 僕の誕生日でしたね

ほんとうのことをいえば 僕は よく憶えていないのだけれど
あなたは くりかえし 話してくれた
その朝の 空の青さ 風の匂い 緑の眩しさ
その愛の はじまりを

出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/

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中村直史 2009年5月16日ライブ



   
隣人を愛そう

             
ストーリー 中村直史
出演 大川泰樹坂東工西尾まり 

  
隣人を愛そう

ニンジンを愛そう

ニンジャを愛そう

大蛇を愛そう

大ちゃんを愛そう

大ちゃんならああ言いそう

第3者機関ならこう言いそう

第3舞台ならそれやりそう

退散するのは難しそう

解散するのは予算成立後

発散するのは与謝野晶子

ハッサンはアブドルの弟

母さんはアイドルの卵

愛がどこに消えてしまおうと
まずは愛してみよう

隣人を愛そう
思いがけない世界のために

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古田彰一 2009年5月16日ライブ



VOICE LOVE.

              
ストーリー 古田彰一
出演 西尾まり

オバマ大統領って、声がいいから
大統領になれたのだと思う。

スピーチの中身はよく覚えていないけど、
そのハリのある声を聴いたとき、
私はオバマさんを支持してしまった。

そう。私はいつもそう。
声で、人を好きになる。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつも間違い電話をかけてくる男の人。
タイプの声だった。
白馬の王子様の声って、こんな声なんだと思った。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつのまにか、間違い電話を心待ちにしている私がいた。
そう、私は、恋に落ちていた。
ていうか、声に墜ちていた。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつもの短い台詞。もっと彼の声が聴きたいのに。
違う言葉を聞いてみたいのに。

チャンスは、相手のミスで訪れた。
今日に限って、彼は発信者表示を残した。
彼の電話番号。ここに折り返すだけでいい。

でも、なんて言えばいいの?
彼と同じく「あ、ごめんなさい。間違えました。」とか?
それじゃ話が広がらないし、
下手したらこれきりになっちゃうし。

ケータイを握りしめたまま固まっていると、
とつぜん着信音が鳴った。彼からだった。

「あ、ごめんなさい。いつも間違えてごめんなさい。
でも、どうしてもあなたの声が聴きたくて…」

波長ぴったりの、
声人(こえびと)ができました。

*出演者情報 西尾まり  03-5423-5904 シスカンパニー

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名雪祐平 2009年5月16日ライブ



バーならず者   

              
ストーリー 名雪祐平
出演  坂東工

バーならず者は、マンションの一室を改造した、夜の隠れ家。
中年のマスターは、ゲイで、常連からは「ママ」と呼ばれている。

でも、いちばんの特徴は、このバーが
僕の事務所のすぐ隣りにある、ということだ。

ある8月の、湿気がきつい熱帯夜。

ピン、ポーン。
オートロックになっているマンションの入口から、
誰かが、僕の事務所を呼び出した。

壁の受話器を取る。
「はい」

小さなモニター画面を見ると、女が一人、ゆらゆら映っていた。
女の喉頸から顔が、アップになる。

「ならず者? ねえ、ならず者、ですか?」
酔って甘えるような、その声を聞いて、ようやく気づいた。
女は、女優のM.Nだった。

「ママ? あけて、おねがい」
僕は、すこしためらってから、
「大丈夫。いま開けるから」
とだけ言って、ロックをはずすスイッチを、押した。

出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/

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一倉宏 2009年5月16日ライブ



木星からのメールが届く頃には

                    
ストーリー 一倉宏
出演 大川泰樹西尾まり

 
僕たちの船が旅立ってから ずいぶん長い時がたちました
 それ以上に いまの君と僕との距離は 気が遠くなるほどです

 まだ火星のあたりにいた頃は まいにちメールしましたね
 僕たちは 人類史上いちばんの長距離恋愛だ と笑って

 ときどき 
 地球のなんでもないことを 懐かしく思い出します
 たとえば 風です
 木立やカーテンを揺らしたり 
 頬や髪 からだで感じる あの風
 雨の降り出す前ぶれの かすかに湿った風の匂い
 はじめて半袖のシャツにした朝の 風の肌ざわり
 寒がりの僕があんなに悪態をついてた
 刃のような木枯らしでさえ いまは懐かしい
 春のある日 公園で あなたの前髪を揺らした
 そよ風ならば よけいに

 僕たちの乗った宇宙船では 風を感じることはなく
 ただ 二酸化炭素を吸収して 酸素を補給する空気が
 ダクトから しずかに流れるだけです 
 
 個人専用のハードディスクに 図書館ひとつぶんも
 貯め込んできた本も それから映画も 音楽も
 なんだかもう 飽きてきてしまいました
 それにくらべて カプセルの窓から見える宇宙は
 まいにちでも見飽きない美しさです
 あなたに見せたかった
 ひとつひとつの星が どんなにちいさく見えても
 ちゃんとそこにある それぞれに光ってる
 なんていうのか 宇宙を実際に見ていると 信じられる 
 宇宙という存在が はっきりとある そのすべてが

 ああ なんて伝えたらいいのか わかりません
 だからやっぱり 美しい としかいえない
 あなたの好きだった星 シリウスは手の届きそうなほど
 僕の好きな星 アルデバランも ほら そこにある

 木星に近づく頃にもらった あのメールは
 たしかに僕を驚かせ どうしようもなく悲しませたけれど
 いまは すべてを理解できると思っています
 宇宙のみごとなパノラマ以外は なんにもないここで
 まいにちまいにち同じように流れる この時間でさえ
 それは 気の遠くなるような長さだったのだから

 一日一日の 太陽が沈み 月が浮かび
 風が違い 光が違い 雲が動き 色が変わり
 日付けが変わり 季節が変わり 街のショウウインドウが変わり
 春が去り 夏にめぐり会い 秋を感じて 冬を迎え
 さまざまなひとに会い 数えきれないエピソードがあり
 まいにちまいにちが 目のまわるほどに動く
 その 地球の日々で あなたが
 どんなにどんなに 長い時間を過ごしたのか ということを
  
 だからいまは 理解できました
 ごめんなさいを 言わなければならないのは 僕のほうだった
 あまりに遠く あまりに長すぎる この旅に出た
 
 そろそろ木星も遠ざかる航路に就きました
 僕の撮った 木星の写真を送ります
 射手座生まれのあなたには 幸運の星だから

 どうぞお元気で みなさんによろしく
 それから 

 結婚おめでとう 

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP
      西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー

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