一倉宏 2009年9月3日



調査員<カグヤ>からのリポート

                 
ストーリー 一倉宏
出演 坂本真綾


こちら、リリ・パミューダ。コードネーム、カグヤ。
本日、太陽系第3惑星の調査を終え、月面裏の母船に無事帰還した。
詳細は追って報告するが、今回の調査結果の概要と、とりわけ印象
的だったいくつかの事実を、まずリポートする。

私の乗った探査船が、この惑星の「タケ」という植物に似せてあっ
たことは、大いに有効だったと思う。
しかし、私自身の体形が、知的生命体「ニンゲン」よりもあまりに
小型過ぎたため、疑念を抱かれる原因となった。この点に関しては、
反省と改善を必要とする。私が急速に成長することによって、その
疑念は、なんとかクリアすることができた。

いうまでもなく、私は、この惑星の環境とニンゲンたちからの情報
を吸収しつつ、適応できるようにプログラムされている。
最初に私と遭遇したのは、ニンゲンのなかでもかなり高齢な男女の
カップルだった。現地のことばで「オキナ」と「オウナ」という。
「オキナ」と「オウナ」は、はじめから驚くほど友好的で、親密な
態度で私に接した。私は、かれらの「子」として扱われた。

今回の調査で、注目すべきポイントは、主に3つある。

まずは、この「オキナ」と「オウナ」と、私との関係である。
「オキナ」と「オウナ」は、私に対して想定外の愛情を注いだ。
さらに想定外だったのは、私自身がそのニンゲン関係とうまく感応
できるようプログラムされていたため、私のなかにも「オキナ」と
「オウナ」に対し、離れがたい愛着が生じていたことだ。
事実、私は帰還予定日が近づくにつれ、制御不可能なまでの精神的
不調に見舞われた。この現象を、ニンゲン界では「泣く」という。
今回の探査での最大の障壁は、この感情だったかもしれない。

また、もうひとつの大きな誤算があった。
私の容貌について、ニンゲンたちの理想像にチューニングしすぎた
ようなのだ。つまり「美しすぎた」のである。
ありとあらゆるニンゲンの男たちが、私に対して求婚した。
ニンゲンの男の、美しい女への執着、また、理想の配偶者を得よう
とするエネルギーの大きさには、想像を絶するものがある。
この地域の貴族、王族たちが私を争い、最後は国の王までも、私に
執着した。調査活動に大変な支障となったのはいうまでもない。

これに付随して、3つめの留意点を記しておく。
国の王は、この私への執着によって、惑星からの離別、つまり私に
とっての帰還を、武力をもって阻止しようとしたことだ。幸いにも、
その軍事力は、タケや金属で構成された力学的な段階にしかすぎな
かったし、イリュージョン操作で戦意を喪失させることができた。
ただし、ニンゲンは、こんなことにさえ安易に武力を行使する。
また軍事力への関心と執着も、異常なほど旺盛である。
予想するに、このままだと、惑星があと1000回ほど太陽を周回す
るうちに、核エネルギーを知り、それを軍事力とする可能性もある。
結論として、極めて「危険な惑星」ということができる。

以上、簡単ながら、第1報とする。
無事、この「危険な惑星」の引力圏を離脱しつつ。

それなのに、なぜかまだ、私の精神的不調は収まっていない。
この現象を、「涙が止まらない」という。
   
こちら、リリ・パミューダ。コードネーム、カグヤ、より。



出演者情報:坂本真綾 03-5410-5570 株式会社フォーチュレスト

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋



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一倉宏 2009年5月7日



数字のうた

                  
ストーリー 一倉宏
出演 坂本真綾


0という数字は 「花の種」のようだ
なにもないマルが すべてのはじまりでもあって
10や100のマルは たくさんある という意味になる不思議
0と 花の種は かたちも似ていて
ちいさな0のかたちを 土に埋めたら
やがて 1という数字になり たくさんの花が咲く不思議

その1という数字は だけどさみしい
1は それ単独では ぽつんとひとり 「孤独」だ
海から風の吹く 丘の上に ほっそりと立つ姿
でも そのさみしさを 私はきらいじゃない

2という数字は しなやかに やわらかい
首をかしげた「白鳥」 あるいは「横顔」のかたち
しずかに もの思うような ほほえむような
2という数字のしずけさに 第3者は近寄りがたい

その 第3者の3は 「耳」のかたち
なんでも気になる 知りたくなる 好奇心いっぱい
3という数字は おしゃべりも聞く 音楽も聴く

4という数字は 「矢印」のようだ
天空をめざすベクトル あるいは 疾走するヨット
4は 東西南北 上下左右 どちらにも伸びてゆく

5という数字は かなりごっつい 「男」っぽい
くちぐせはGO!GO! 威勢もいいし ノリもいい
ちょうどまんなか ちょっと威張って ちょっと単純

6という数字は まつげの長い つぶらな「瞳」
誰ともなかよく 調和を求めて だけど繊細
その子のこころは 2つにも3つにも 割れやすい

7という数字は 衿を立てた「コート」のようで
スマートでかっこいい しかも なにかとツイてる 
ラッキーなエリート でも 本当のともだちは少ない

8という数字は 無限の「ループ」に似ている
なぜだろう 包容力があって いっしょにいると落ち着く
とはいえ案外 八方美人の お調子者かも

9という数字は いちばん「おとな」だと思う
人生の苦労も知ってる 一歩手前で踏みとどまれる
この世界に 完全はない そんな 透明なあきらめも

そしてまた 0という数字
なんどでも 帰ってゆく場所
偉大なる空虚 宇宙のはじまりとおわり
なんどでも くりかえす 果てしない時の旅
まだ出会わないあなたと まだなにも知らない私がいて
なにもないところから たくさんのなにかが生まれる
それを信じて… 「花の種」をまこう



出演者情報:坂本真綾 forturest.com


shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

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一倉宏 2007年1月5日



「それぞれ」の日記たち
                 
                 
ストーリー 一倉宏                   
出演  坂本真綾


「それぞれ」の日記には
きっと 「それぞれ」のことが書いてある

たとえば
「ねこ」の日記には きっと
お天気のことが 詳しく書いてある
晴れの日には満足そうに その暖かさを幸福そうに
陽射しのぐあい 光の温度と肌ざわりまで 
そう ワイン好きが ワインを愛でるように
おひさまの 光のことを書いている 舌なめずりして
そのかわり 雨の日 曇りの日には 不満やグチを書いておく
そうだ 昼寝の回数もきっと 書いてある
お天気と昼寝 それが ねこさまの日記に違いない

それなら

「いぬ」の日記には 散歩のことが書いてある
散歩のことばかりが書いてある
たとえ まいにち同じコースだとしても
いぬたちの目には まいにち新しいページのように映るのだ
だから わくわくして わんわんするのだ
まいにちの同じ風景が まいにち新鮮に映る 幸せ
だから いぬたちは あんなに幸せそうなんだ
まいにちの散歩の風景が まいにち新鮮なことばで書いてある
そんな いぬたちは 名エッセイストに違いない

ということは

「自動車」の日記には 走ったことが書いてある
道の名前 通りの名前を つぎつぎと
性格上 けっこう律義な日記なんだろう
ちょっと危なかったこととか しっかり反省したりして

あるいは

八百屋の店先の 「キャベツ」や「トマト」の日記には 
そうだな 故郷のことが書いてあるだろう
みんな 田舎もんなんだけど それをちっとも恥じたりしない
みんな お国訛りまるだしで 故郷の思い出を書いている

わが家の「冷蔵庫」の日記には 住人たちのこと
本日 新たな入居者は5名 転居者は2名
1階に白菜と椎茸 2階にピザ 3階にビールと豆腐
そういえば 2階のアジの干物 家賃滞納 もう2ヶ月も

そして

わが家の「カーテン」が日記に書くことは
きっと カーテンに会いに来た 風たちのこと
ゆらゆらと おだやかに 風の身の上話を聞いている
ひらひらと 笑いながら 風と親しく話している

その「風たち」の

「風たち」の日記には 何が書いてあるだろう
国境も日付も 大陸も海も越えて吹く 風たちの日記には
きっと どこの国のことばでもない ことばで
だけど 世界中の誰もがわかる ことばで
この地球の 美しさが 書かれているだろう
たとえば サンゴ礁の島の大空で生まれ
地中海も カスピ海も ゴビの砂漠も 知っている風
ローマの教会も アラビアのモスクも 奈良の寺院も吹き抜けた風
モンゴルの大草原を駆けて アリューシャン列島を渡り
グリーンランドのオーロラにも 南氷洋のクジラにも挨拶した 風
そんな風たちが 山茶花の葉を揺らしながら
わが家のカーテンに 吹いている

それぞれの 日記たち
それぞれの この星の話

そんな想像を きょう
「私」は 日記に書いた



出演者情報 坂本真綾 http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/

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一倉宏 2006年12月8日



ぐるっとまわって ~マフラーのうた~     
                 

ストーリー 一倉宏                    
出演 坂本真綾


<マフラー>は
<ありがとう>ということばに似ている
光も息も白い12月の朝
極太の毛糸の手編みのように くすぐったい<ありがとう>
ふんわりとカシミアのように やさしい<ありがとう>
<ありがとう>のあたたかさを 嫌いなひとはいない
だから <マフラー>は
<ありがとう>ということばに似ている 

<ありがとう>ということばは
<アリゲーター>に似ている
たとえば多摩川の河原を散歩して
ばったり出会ったら 足がすくんでしまう<アリゲーター>
ばっちり目が合ったら 心臓が止まりそうな<アリゲーター>
<アリゲーター>に会って <ありがとう>というひとはいない
だけどやっぱり <ありがとう>ということばは
<アリゲーター>に似ている

<アリゲーター>は
<夏の日の恋>に似ている
アラビア半島で戦争がはじまったあの年
激しい陽射しの下の 瞳が私を虜にした<夏の日の恋>
すっかり忘れているのに 突然ちくりと思い出す<夏の日の恋>
<夏の日の恋>は かすかな痛みとして刻まれる
だから <アリゲーター>は
<夏の日の恋>に似ている

<夏の日の恋>は
<友だちに貸した本>に似ている
高校時代 毎日のように会っていた親友に
私が好きで 彼女も好きになってほしかった<友だちに貸した本>
いつまでもと願ったから 約束はしなかった<友だちに貸した本>
<友だちに貸した本>は ほとんど 永遠に帰らない
だから <夏の日の恋>は
<友だちに貸した本>に似ている

<友だちに貸した本>は
<セッケンの匂い>に似ている
朝起きて 働いて 家に帰る毎日
わるい時もあるけど いい時もある<セッケンの匂い>
ぶつぶつ文句いうより さっぱり洗い流したい<セッケンの匂い>
<セッケンの匂い>は 誰かを恨む気持ちにさせない
だから <友だちに貸した本>は
<セッケンの匂い>に似ている

ぐるっとまわって
<セッケンの匂い>は
<マフラー>に似ている
母親から 友だちから 恋人からもらった
私をいつも取り巻いて ほっとさせてくれる<マフラー>
なのに うっかり涙を落としてしまうこともある<マフラー>
<マフラー>は ときどき 目頭まで熱くする
だから <セッケンの匂い>は
<マフラー>に似ている
<マフラー>は <ありがとう>のことばに似ている


*出演者情報 坂本真綾 http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/

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