山本高史 2010年2月18日



「あだ名」

ストーリー 山本高史
出演 池田成志

確かにオレは他人に厳しいですよ、特に若い連中にね。
ええ、やつらに陰で何て呼ばれているかも知っています。
でも仕事ですよ、厳しくて当然じゃないですか、厳しくないほうがおかしい。
だって、一つの仕事を成し遂げようとする。
仕事をする以上は、よりよい成果を上げなければならない。
ここまではいいですよね、ヘンなこと言ってませんよね。
よりよい成果を上げようとする、ならばチームのレベルの下のほうに合わせます?
若いやつは仕事ができない。
できるといわれている連中も、そのキャリアにしてという注釈付きだ。
いやいや、それを責めてるんじゃない。
キャリアが浅いんだから、できないことが多いのは無理もない。そこからやればいい。
でも、現状できないのは事実なんだよ。
だったらわざわざ平均点を下げるような作業方法、とらなくてもいいじゃないですか。

オレがこの間、Aという社員の企画書をチラ見でスルーしたことが、
問題になってるんでしょ?ええ、知ってます。明るい職場委員会でしたっけ?
それで今こういう時間が設けられている。
へー、企画書、破いたことになってるんですか?
今どき、そりゃ勇ましい。
でもオレは時代遅れの鬼軍曹役引き受けるつもりはないしね。
ただ合理的に無視しただけ。
Aという社員の企画書は、一目見てわかるくらい使い物にならなかったから。

若い連中は育ててやらなければならない。
それは私も同感です。そうしないと会社が続かないから。オレらも食っていけない。
そりゃそうなんだけどさ。
あのね、例え話は好きじゃないんですが、だって回りくどいから、
でもまあしますけどね。
例えばサッカーだとね、ゴール前に緩いパス出して、さあ蹴りなさい、
ゴール決めなさい、ってハナ持たせるのかケツ拭いてやるのか知らんが、
そんな機会を若い子たちにあげるのが、人気のある上司なんですってね。
あなたも、ですかね。
できてなかったら待ってやるんでしょ?
失敗したら励ましてやるんでしょ?
スペース作って蹴らしてあげるんでしょ?
素晴らしい!パワハラなんて、どこの国の話?あ、あいつの話だ、ってオレの話か。

でもそれ、まやかし、でしょ?
一晩待ってあげて残業させて、月末には残業代が多いって責める。
使い物にならない企画書を持ち上げておいて、
彼らを使い物にならない状態でほったらかしにして、
そう言えば最近、リストラやってますよね。
まやかし、ですよね。
若いやつらは育てばいいんです。育つやつは育つ、
そうじゃないやつはそうじゃない。
育ちたかったら育てばいい。育てようなんて考えこそが不遜だ。
育ててもらおうなんて気持ちがあること自体が不純だ。
プレッシャーだ、権力だ、パワハラだ。
プレッシャー結構。押し倒されてなんで立たないんだろうね?
立ち上がらずに何泣いてるんだろうね。
権力上等。頑張って、強くなって、いい仕事できて、偉くなって、
それで威張って、どこがダメ?
そうか、パワーがあることを見せちゃダメなのか、それがパワハラの正体か。
じゃあダメだ、オレ、パワハラの塊。

知ってますよって、私のあだ名、「北風」でしょ?
弱いやつのコートを力づくで脱がすようなやつ。
うまいこと言いますよね。名づけ親の顔がみたい。
今会社に必要なのは、温かく見守って自らコートを脱ぐようにしてあげる太陽さん。
任せますよ。
でもやつら、脱いだコートを持つのが重いって、どこかに捨てていきますよ。
今度寒くなったら凍えるのに。
春夏秋しかないんだったら、それでいいけどね、あ、そうか、沖縄転勤か。

出演者情報:池田成志 03-6416-9903 吉住モータース所属

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動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸


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山本高史「伝える本。」2月18日発売
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張間純一 2009年10月22日



21時20分のニュース

             
ストーリー 張間純一
出演 池田成志

21時20分のニュースです。

今日未明、香川県高松市女木島に住む数人の鬼が、
岡山県に住む男と男の連れた動物によって襲撃されました。
襲撃を受けた鬼は重軽傷を負い、
一部は今も病院で手当を受けている模様です。
この事件で警察は、岡山県岡山市に住む、
無職、桃太郎容疑者24歳を
傷害の疑いで現行犯逮捕しました。

桃太郎容疑者の連れていた動物は、犬、猿、雉それぞれ1匹ずつで、
いずれも「吉備団子をくれると言ったので、ついてきた」
「鬼に対して個人的恨みはなかったが、吉備団子をもらうために仕方なくやった」
などと供述していることから、
動物については吉備団子欲しさの犯行であり、
主犯はあくまで桃太郎容疑者ひとり、との見方を強めています。

また桃太郎容疑者は警察の調べに対し
「私は桃から生まれた桃太郎。
おじいさんとおばあさんへの恩を返したくて、
鬼退治をするために鬼ヶ島にやってきた。」
などと犯行を全面的に認めており、
始めから鬼に暴行を加えるつもりで女木島を訪れたと見て、
警察ではさらに詳しい犯行の動機などについて調べを進めています。

自称「桃から生まれた」桃太郎容疑者が恩を返したいと
供述した夫婦と容疑者の間には、血縁関係はないものの、
容疑者が生まれたとされる桃を近くの川から拾ってきて
生まれる瞬間に立ち会い、名付けたのが夫婦ということや、
桃太郎容疑者も「おじいさん、おばあさん」と呼んでいることなどから、
容疑者とこの夫婦が密接な関係にあり、
夫婦がなんらかの事情を知っているとの見方を強め、
事情を聞くなどしています。

現場となった女木島は、
高松市の北約4kmの瀬戸内海上に浮かぶ周囲8.9kmの小島で、
多数の鬼が生活をしていることから「鬼ヶ島」の愛称で親しまれており、
近隣の島の住民からもなぜ鬼が襲われたのか、
驚きの声が上がっている一方、
過去に鬼が岡山県を訪れた際、
住民に暴行を加え金品を強奪したとの一部証言もあることから、
警察では事件の原因について慎重に調べを進めています。

続いて海外からスポーツの話題です。
イギリスで行われていた動物マラソン大会で、亀が優勝しました。
2位は兎でした。

おしまいに季節外れの桜の話題です。
今日午後3時ころ、東京都豊島区の路上で
「枯れ木に花を咲かせましょう」などと叫びながら
男が撒いた大量の灰の一部が通りがかった人の目に入り、
現場は一時騒然となりました。
灰を撒いたのは豊島区内に住む60代の男性で、
「灰を撒けば季節外れの桜が咲くと思って撒いた」と
語っているとのことです。

現場は春になると桜が咲き乱れる桜の名所として知られており、
近所の人の話ではこの季節に咲いているのは
ほとんど見たことがないとのことですが、
先週別の60代の男性が同様に灰を撒いたところ
満開の桜が咲いたとの目撃情報も寄せられており、
今回の男性はその男性のマネをしたのではないか、と見られております。
灰を撒いて桜を咲かせた男性によると、
「灰は昔飼っていた犬が死んだときにそのお墓に植えた松の木から
作った臼を焼いて作った灰で、なぜ先週桜が咲いたのかはわからないし、
なぜ今回咲かなかったのかもわからない」
とのことでした。

繰り返します。
今日未明、香川県高松市女木島に住む数人の鬼が、
岡山県に住む男と男の連れた動物によって襲撃されました。
襲撃を受けた鬼は重軽傷を負い、
一部は今も病院で手当を受けている模様です。

21時20分のニュース、池田がお伝えしました。

出演者情報:池田成志 03-5827-0632 吉住モータース

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動画制作:庄司輝秋


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日下慶太 2009年2月20日



    ひび

              
ストーリー 日下慶太
出演 池田成志

「すべてのものは神様からの贈り物なのよ」

ある日妻は大いなる人生の秘密を発見したかのようにそう叫んだ。
最愛の母を亡くしてショックだった妻は、しばらく心神喪失状態が続いた。
8時間ずっと壁のしみをみていたり、1日中タマネギをミキサーにかけていた。
仕事もやめ、家事も放棄した。
数ヶ月後、一握りの生きる力を取り戻した妻は、
精神世界にのめりこんでいった。占星術、インド哲学、マヤ文明、
アメリカ西海岸の怪しげな団体、そういったものの本を読み漁った。
妻には何かすがるものが必要だった。わたしだけでは妻の心を支えきれなかった。
彼女はそこで彼女なりの答えをみつけた。
「すべてのものは神様からの贈り物なのよ」
母の死は、自分を成長させるための神からの試練であり贈り物である。
そういう理論を組み立てないと、母の死を受け容れられなかったのだろう。

すべてのものは神様の贈り物。この真実を実践するために、
妻はまわりのものを贈り物にしていった。
つまり、色々なものにリボンをつけていった。

まず、自分にリボンをつけた。頭の倍ぐらいもある大きなリボンを。
毎日買ってくる食料にリボンをつけた。もやし、キャベツ、肉。
そして、リボンをつけたまま調理をした。
ぼくは焦げたリボンをとりのぞいていつも食べた。
お茶にもリボンをつけた。注いだお茶の上にリボンを浮かべた。

あなたの仕事も贈り物、そう言って仕事関係の書類にすべてリボンがつけられ、
わたしの名刺にすべてリボンのシールが貼られた。
メールの文章の後にもリボンの絵文字をつけるようにと言われた。

「わたしのいちばんのプレゼントはあなただわ」
妻はわたしに大きなリボンをつけた。
もちろん、わたしはリボンなどつけられたくはない。
しかし、今、妻のすることに反対すると、
妻のあやうい均衡がくずれてしまうかもしれない。
わたしは黙ってリボンをつけた。
しかし、リボンをつけたまま会社に行けるわけがない。
つけたまま家を出て、駅にむかう途中にこっそりと外す。
そして帰ってきたらまた家の前でこっそりとつける。
そうしていつもリボンをつけているかのように振る舞った。
しかし、突然テレビ電話をかけてきた妻に
リボンをつけていない姿をみられてしまった。
彼女は怒った。そして一生外せないリボンをつけると言い出した。
リボンを頭皮にぬいつけると。
妻の言うことには反対してこなかったが、さすがにこれだけは反対した。
妻をなだめて、結局リボンの刺青を入れることで決着した。
わたしの右腕に一生リボンがつくことになった。

これで妻のまわりにはリボンをつけるものはなくなった。
しばらく退屈そうにしていた妻はある日こう言った。

「一番の贈り物は地球そのものなのよ。わたしは地球にリボンをつけるわ」

そういって彼女はリボンの布をひきずりながら、地球横断の旅に出た。

今彼女は中央アジアのどこかにいる。
そして、リボンの先端は我が家の玄関にまだある。

出演者情報:池田成志 03-5827-0632吉住モータース

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動画制作:庄司輝秋

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一倉宏 2008年3月7日



春のニュース

                 
ストーリー 一倉宏
   出演 池田成志

春のニュースをお伝えします

目黒区の主婦が 自転車で 買い物からの帰り道に
ふと モーツァルトの「春への憧れ」をくちずさみました
また 練馬区では モンシロチョウが一羽
保育園の室内に迷い込み 園児たちの喚声をあびました
保育園では おひるねの時間 だったとのことです

つづいて
板橋区の公園で 写生に来ていた小学生が
落ちていた100円玉に気づき 近くの交番に届けました
100円玉は タンポポの近くで見つけたそうです

春のニュースをお伝えしています

都内の高校 専門学校 大学などでは 新入生たちを迎え
早くも 恋が芽生えはじめているようです
すでに カップルで下校する姿も見受けられ
例年よりやや早いペースで 恋の花も咲くと思われます

花咲く恋 といえば 散る恋も
入学 就職など 多くの若者たちが移動するこの季節は
出逢いの春 と同時に 別れの春 ともなる世の定めです

思い返せば この私も・・・ 高校時代の彼女と 
その定めを越えることができませんでした なぜなら
彼女は大学に合格して上京 私は地元で浪人することになり
「先に行って待ってるからね」 の約束も
「ごめん 好きなひとができました」と あっさり
ゴールデンウイークを待たず 散り果てたのでありました
お決まりのような どこにもよくある話ですけれど

そんな 春のニュースをお伝えしています

春の恋 といえば ネコたちにとっても
春は 恋のシーズンなんですね
「猫の恋」ということばがあって 俳句の歳時記では
ちゃんと 春の季語として採り上げられています

それと 関連があるのでしょうか
次のニュースは・・・

杉並区の 2才になるメスのトラネコが 
春の陽気に誘われたのか 外にでたまま一晩家に戻らず
飼い主を心配させていましたが 翌朝無事帰りました
とつぜんの無断外泊にも 本人はなにくわぬ顔でした

その他 ネコに関するニュースが増えてきています
スズメをつかまえた ガマガエルをくわえてきた など
困った事態も 各地から報告されていますので
この時期 外出するネコさんには くれぐれも
ご注意ください

以上 春のニュースをお伝えしました

出演者情報:池田成志 03-5827-0632 吉住モータース

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