張間純一 2008年8月29日



ふたつの日記

                     
ストーリー 張間純一
出演 三坂知絵子

アケミの日記 8月22日晴れ

早く夏休みにならないかな。
そう思っていた。
夏休みが来るまでは。
夏休みになったら
Mに会うこともなく
みんなにシカトされることもなく
トイレに落書きをされることもなくなると思っていた。

それはその通りだったけど
掲示板やプロフは学校がある時と
全く同じかそれよかひどいくらい。

見なければいいのに。
そう思うけれどどうしても見てしまう。
一度ケータイの電池を抜いて窓から投げてみたけど
3時間かけて探し出してしまった。

1つの掲示板の書き込みが途絶えると不安になって
Mが私につけそうなアダ名というかコードネームを
検索して別の掲示板を探す。

なんで自分の悪口なんかを
こんなに必死に見てしまうんだろう。
きっと確かめないと不安になるんだ。
そんな性格自分でもイヤになる。
でもそうまでして私は私の悪口を求めている。

夏休みなんて
なかったらよかったのに。

マリの日記 8月22日晴れ

早く夏休みにならないかな。
そう思っていた。
夏休みが来るまでは。

夏休みがすぎたら
このゲームはリセットされて2学期が始まるかも知れない。
それはそうかも知れない。
けどそうじゃないかも知れない。

だから私は夏休みの間もゲームを続ける。
Aには悪いけど
これはみんなが中学をなんとかやり過ごすための
掃除当番みたいなもの。

2年になったとき当番は私にまわってきた。
そのときAはいろんなことを私にした。

でもゴールデンウィークが明けたとき
なぜか立場が逆転した。
なんとなくみんなの空気がそうなったというだけの理由で。

いま、私はAが私にしたことを
そっくりマネしてAにお返ししている。

夏休みがすぎたら
このゲームはリセットされて2学期が始まるかも知れない。
でもリセットされたときに私に役はあるんだろうか。

今の役も当番も何の役もないなんてつらすぎる。

だから私は夏休みの間もゲームを続ける。

夏休みなんて
なかったらよかったのに。

出演者情報:三坂知絵子 http://www.studio-2-neo.com/

*2008年8月はオリンピック中継のため。番組は2回のみになります。

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2008年8月(夏休み)

8月1日 山本渉 & 瀬川亮
8月29日 張間純一 & 三坂知絵子

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山本渉 2008年8月1日



ある夏の日の出来事

                 
ストーリー 山本渉
出演 瀬川亮

それは気が狂いそうになるほど、暑い、暑い夏の日のことだった。

カーステレオから聴こえてくるラジオがCMに入ったとき、
営業車の古いカローラはゆっくりと踏み切りに入った。
前を進む自転車のタイヤが溝にとられるのを
眺めているうちに、遮断機が降り、行く手を遮った。
カンカンカン、というけたたましい音とともに。
ことの重大さに気づいたのは、猛スピードで迫り来る列車が、
助手席側のウインドウの先にはっきりと見えてからだ。
その瞬間、目の前に巨大なザリガニが現れて、遮断機をその真っ赤な
ハサミで二つに切り落とした。

なんとか踏み切りから抜け出した僕に、
そのザリガニは、ゆっくりとした口調で話しはじめた。
「私をお忘れですか?」
呆然とする僕に彼女は続けた。
「あの時、逃がしてくれたザリガニです。20年前ひょうたん池で。」

ひょうたん池。
それは子供のころ夏休みになると、みんなでザリガニ吊りに行った場所。
ひょうたんの形をしたその池の北側に、小川が流れ込むその場所が、
最もザリガニが集まる場所だと子供達は知っていた。
同級生はみんな捕まえた獲物を学校に持ち帰り、大きさ自慢をし合っていた中、
ただ純粋に昆虫と触れ合うのが好きだった僕は、捕まえて、形を確認すると
逃がしていた気がする。

「あなたの側にいて、あの時のお礼がしたいのです」
彼女の言葉とともに、僕達の奇妙な生活が始まった。
僕は彼女をザリエと呼び、一緒に買い物をしたり、誕生日にはレストランで祝ったり、
それは普通のカップルとなんら変わらぬ関係だった。
ザリエは、外ではすましているけど、家では甘えてくる。
いわゆるツンデレというやつだった。
そんな彼女が、僕は、ただただ、いとおしかった。
この生活がいつまでも続けばいいのに、そう思っていた。

二人の再会が突然であったように、
別れも突然やってきた。
ある日家に帰ると、ウォークインクロゼットの横に座り、
一枚の写真を握り締めザリエは泣いていた。

それは、数年前付き合っていた彼女と行った、御宿の伊勢海老祭りの写真。
笑顔で生の伊勢海老を頬張る僕の姿が映っていた。
付き合う前の事だという言い訳を始めたが、僕はそれを途中でやめた。
彼女の前で、それ以上言葉を発することはできなかった。

ザリエが家を出て、もう数年が経つ。
今でも街で、赤いコートの女性を見かけると、
彼女を思い出す。

そんなある日、
大量のダンボールを営業所に運んでいると、
底が抜けて商品が道に崩れ落ちた。
慌てている僕の前に、一匹の巨大メスクワガタが現れ、運ぶのを助けてくれた。
「私のことお忘れですか?」
彼女は、ゆっくりとした口調で話しはじめた。

それは、気が狂いそうになるほど、暑い、暑い夏の日のことだった。

出演:瀬川亮 http://www.y-motors.net/actor/segawa.html吉住モータース 

*2008年8月はオリンピック中継のため。番組は2回のみになります。

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