岩田純平 2011年5月1日



「中山さんごめんなさい」

         ストーリー 岩田純平
            出演 瀬川亮

終電で帰れるよう、
ちゃんとケータイで終電の時間を調べていた。
品川0時3分。
駅に着いたのはまだ56分だったので、
私はトイレに行った。
これから小一時間ほどの電車。
途中で降りるわけにはいかない。
今日はビールを少々飲み過ぎた。
僕は長い小便を終え、
やっぱりトイレに行ってよかったと満足しながら
ホームへの階段をのぼる。
時計が見える。
まだ0時1分。余裕である。
ホームはこの時間には珍しくガラガラであった。
これは座って帰れると喜んだが、
よく見ると人が一人もいない。
不景気とはいえこれは異常だ。
おかしいと思い電光掲示板を見ると、
「節電のため使用を控えております」
の張り紙。
節電。私はハッと気づいて時刻表を見る。
「計画停電の影響のため、休日ダイヤで運行しております」
休日ダイヤを見ると終電は23時56分。
こんなところにも震災の影響が。
私は途方に暮れた。

と、そこまで書いたところで僕は文章を読み返した。
全然面白くないではないか。これも震災の影響か。
僕も途方に暮れた。
このあと主人公はマンガを買い込んでカプセルホテルに泊まり、
これならマンガ喫茶に泊まった方がよかった、
などと苦笑いするのだが、
全く話が全体的に苦笑いである。

中山さんからこの東京コピーライターズストリートの
原稿を頼まれたのは2月の中旬くらいであった。
お題はカプセル。締め切りは4月1日。
つまりカプセルの話を4月1日までに
書かなければならなかったのだが、
締め切りに余裕があったことが災いし、
僕は一文字も書かないまま4月1日を迎えた。
「実はエイプリルフールで原稿を依頼したことも嘘でしたー」
という中山さんのお茶目な電話を期待してみたが、
当然そんな電話はない。

現実を見つめ直した僕は3つ話を考えた。
一つ目は冒頭のカプセルホテルの話。
二つ目は、
酸素カプセルに入って寝ている間に、
地球に謎の隕石が落ちて世界中が毒ガスに包まれてしまい、
酸素カプセルから出るとみんな死んでいた、という話。
なんだか不謹慎な気がしたので自粛した。
三つ目は、
小学生の頃埋めたタイムカプセルを掘り出したら
なぜか中身が宝の地図に変わっていて、
インディジョーンズばりの大活劇ののち辿り着いた宝はなんと・・・!!
という話。
宝の中身をこどもの頃に埋めていたタイムカプセルにするか、
なぜか死体で昔犯した殺人を思い出すという二重人格落ちにするか、
の2方向で迷ったのだが、
そもそもこんな内容でいいのか、
という根本的なところで迷いだし、
書くことを断念した。

現在日付変わって4月2日午前2時33分。
僕は苦し紛れにテレビをつけた。
何かアイデアのきっかけが見つからないだろうかと。
もしくは何かパクれそうな話はないものかと。
やっていた番組は「本当は間違っている医学の常識」
というような番組で、
カプセルや錠剤はお湯で飲まなくても大丈夫、
と医者が解説していた。
カプセル!
こんなに運良くカプセルの話が出るなんて。
これは運命の出会いと思った僕は
集中してその番組を見続け、
ジョギングは朝してはいけないことや、
傷は消毒してはいけないことなどを知るのだが、
残念ながらカプセルの話が
その後いっさい出ることはなかった。
挙句の果てには病気の話ばかり見ていたら
なんだか喉が痛くなってきて、
薬を探してみたけど粉薬しかなくて、
カプセルは消費期限の切れた鼻炎用のものしかなかった。

僕は鼻炎カプセルをゴミ箱に捨てると、
この文章はゴミ箱に捨てず保存してメールに添付し、
中山さんに怒られる覚悟を決め、
送信ボタンを押してしまうのであった。

なんだかきれいに終わらせた感じではあるが、
全部実話である。  

出演者情報:瀬川亮 03-6416-9903 吉住モータース

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岩田純平 2010年6月26日ライブ



妻のお通じ。

ストーリー 岩田純平
出演 大川泰樹

妻はお通じがよい。
特に良かった日は、その形を教えてくれる。
「今日はね、じぇい、っていうのが出たよ。じぇい」
アルファベットのジェイは長い間、
我が家のチャンピオンだった。

しかし、それを超えるモノを、
あろうことか僕が出してしまった。
「はてな、が出た。はてな。クエスチョンマーク」
曲がりが大きい上に、点まで付いている。
明らかにジェイを超えた。

これに妻は奮起した。
「出ました。&でーす」
アンド! それはもはや、
ジェイやはてなとは
次元の違う最終形のように思われた。

しかし、妻は、&をさらに更新する。
「ぬ、ぬ、ぬが出た。ひらがなの“ぬ”」
その日の、妻の満足そうな顔を、
忘れることはないだろう。

妻はいま、ト音記号に挑戦している。

出演者情報:大川泰樹 大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

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岩田純平 2008年11月14日



いいわけ

                  
ストーリー 岩田純平
出演 森田成一

「仕事とわたし、どっちがたいせつなの?」

と、言われるくらいの完全な遅刻だった。
店に電話して遅れることは伝えた。
しかし、彼女の携帯がつながらない。
相当怒ってるのだろう。

僕はタクシーを拾い、
ユキコの待つレストランへ急ぐ。
待っていればの話だけど。

「仕事とわたし、どっちがたいせつなの?」
そう聞かれた時、僕はどう答えればいいのだろう。
僕はちょっと集中して考えはじめる。
「仕事だよ」
これはない。
でも、これをちょっとおしゃれに言ってみたら。
「ごめん、さっきまでは仕事だったんだ。
でも、いまはユキコだよ」
「ふーん、さっきまでは、やっぱり仕事だったんだ」
やっぱりダメだ。

問題をすり替えたらどうだろう。
「じゃあ、仕事しない俺と仕事する俺では、どっちがいいの」
「まずは、私の質問に答えてよ」
ごもっとも。

だったら素直に。
「どっちもたいせつなんだよ」
「私じゃないんだ。わかった。じゃあね」
引き分けは負けだ。

結局、答えはこれしかない。
「もちろん、ユキコだよ」
「じゃあ、何で約束守れないのよ。
 何でわたしよりたいせつじゃない仕事を優先するの?何で?」

「何で」。それは仕事がたいせつだから。
ほとんど誘導尋問だ。
「仕事を優先したんじゃない、
ユキコを優先するために、仕事を途中で切り上げたんだ」
「私を優先するために?じゃあ何で遅刻してるの?
仕事を選んだからでしょ。知らない。帰る」

ダメだ。太刀打ちできない。

あ、そうか、
そもそも、この質問が出る状況を作らなければ…
というか、
そもそも、こういう質問をする人とつきあわなければ…
というか、
そもそも、彼女のどこが好きだったんだっけ?
というか。

シミュレーションもむなしく、
答えは見つからないまま、レストランに着いた。
急いでユキコを探す。
しかし、彼女の姿はなかった。

ユキコは、まだ来てなかったのだ。
「お連れさまも、遅れるとのご連絡をいただいております」

ふう、よかった・・。

あれ?僕は思った。
「仕事と僕、どっちがたいせつなの?」
彼女は何と答えるんだろう。

「そんなのくらべらんないよ」

……ですよね。
で、僕はきっと頭をかいたりしながら、
「変なこと聞いてごめんね」
とか謝ったりするんだ。

男と女は、不公平です。
でも、だから平和なんだろうな。

出演者情報:森田成一 03-3749-1791 青二プロダクション

shoji.jpg  動画制作:庄司輝秋

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