磯島拓矢 2015年11月3日

1511isojima
「地図」

    ストーリー 磯島拓也
       出演 平間美貴

NAVIが当たり前になって、
ドライブはつまらなくなったと思う。
なぜって、迷うことがなくなったから。
あわてて地図を開くことが、なくなったから。

私が20代のころ、デートと言えばドライブだった。
私が望んだわけじゃない。男たちが勝手に決めていた。
クルマのない男はデートをする資格がないと、
勝手に決めていた。
まったく、バブルってやつは。

あのころはNAVIがなかった。
だから男たちは、道に詳しくなければいけなかった。
正確に言うと、男たちが勝手にそう決めていた。
地図に頼らず運転する男がカッコイイと、勝手に信じていた。
まったく、男ってやつは。

あのころ助手席に座らされていた私は
「あ、迷ったな」という瞬間が好きだった。
その時、運転する男の顔を盗み見るのが好きだった。
意地の悪い女と言われれば、確かにそうかもしれない。

迷ったことを私に悟られぬように、平静を装う男。
でも脂汗をかいている男。
ごめんね、ごめんねと繰り返し、地図を取り出す男。
必死にページをめくる男。
どうせ意地の悪い女だと開き直った上で言ってしまえば、
それは、男の度量が試される瞬間だった。
慌ててつけ加えるけれど、
迷った時にオタオタするから度量が小さい、というわけではない。
もっと、そもそもの話だ。
「道に詳しい男が女をエスコートするのだ!」という考え方が
小さいのだ。

デートとは、そんなものではないだろう。
そんなにつまらないものではないだろう。
互いに好意を持った男女が、
または好意を持つ可能性を秘めた男女が、
ともにいる時間を楽しむこと。それがデートだろう。
誓って言うが、私は、
男に楽しませてもらおう!なんて思ったことは一度もない。
いっしょに楽しもうと思っていた。いつだって。

ドライブで迷ったら、迷ったことを楽しみたかった。
いっしょに地図を見て
こっちだ、いやこっちじゃない?と話したかった。
迷わないことに必死になる男より、
迷ったことをいっしょに楽しもうとする男が好きだった。
そして、あのころ、そんな男は驚くほど少なかった。

その数少ない男が今、私の隣で運転をしている。
数年前に新車を買い、すすめられるままにNAVIをつけた。
彼も「便利だね」などと言っている。確かにそうだ。
しかし、何だか物足りない。
上品な女の声に導かれ、迷わず、間違わず、常に正しく到着する。
そうだ。この車にしてから、私は地図を見ていない。

「今日はNAVI使うの、やめない?」
私は夫に言ってみる。彼はきょとんとして私を見つめる。
そしてこう言った。
「そうだな、久しぶりに迷うか」
よかった、この男はまだ大丈夫だ。
私はダッシュボードから地図をとり出し、ひざに置いた。


出演者情報:平間美貴 03-5456-3388 ヘリンボーン所属


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上田浩和 2015年5月3日

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金田

      ストーリー 上田浩和
         出演 平間美貴
             

野球の神様は最低だ。
私の顔を、野球選手の顔に変えてしまった。
5年前。30歳の誕生日に、江川卓の顔にされたのが最初だった。
それ以来、誕生日が来る度に私の顔は更新されている。
31のときには、掛布。掛布雅之。
ここまで言えば、野球好きの方なら察しがつくと思うが、
私の年齢とその選手の背番号は一致している。
32のときには、元ジャイアンツの助っ人外国人だったグラッデン。
そして33のときには、ご存知ミスタープロ野球長嶋茂雄である。
長嶋の背番号と言えば3だが、
監督になってからは33を背負っている。
どの年齢のときも、つまりどの顔になったときも、
最初は鏡を見るのも嫌だったが、
次第に折り合いをつけて楽しめるようになっていった。
長嶋の顔のときの私の人気は凄まじかった。
首から下は普通のOLで中身も30過ぎのそのへんの女と
一緒なのに、顔が長嶋茂雄というだけで、
毎日のように写真と握手とサインを求められた。

だから、去年の3月、34歳の誕生日を迎えた瞬間、
金田正一の顔になってからの周りの反応には正直、
ずいぶんと落胆した。
金田正一。
その背番号34は、読売ジャイアンツの永久欠番となっている。
言わずと知れた400勝投手である。
でも、その400という数字が、
金田の足かせになっていると私は思う。
100勝達成できればたいしたもの。
200勝できれば、あんたはすごい。
ほんとすごいよというわけで名球会入りという誉れをいただける。
どんなに名のある投手でも、
200勝に手が届かないまま引退していった人は数知れない。
そんな現在のプロ野球界において、
400勝はあまりにもかけ離れた数字だ。
そのせいか、みんな変な勘ぐりをする。
金田が活躍した時代のバッティングのレベルが
低かったおかげじゃないのかと。
私の顔を金田だと認めた人たちの半分は、
「すごいねえ」と上辺だけのすごいねえを
残してどこかに立ち去った。
そしてもう半分の人たちは、
400勝の自慢話ばかりする面倒なおじさんと
私のことを思っているようで、
なかなか近寄ってこようとはしなかった。
握手も写真も求められない。
長嶋だったときと比べたら、私の周りには人が少なすぎた。
金田正一のせいにはしたくないが、寂しかった。
つまらなかった。長嶋だった頃に戻りたかった。

そんな心の隙をつかれた。
ある日、久しぶりに「サインください」と言われたのが嬉しくて、
いいよーとか言いながら私はつい、
さらさらさらっと金田正一とサインしてしまったのだった。
そこが連帯保証人の欄だとも気付かずに。
その翌日から、私は家に閉じこもるようになった。
マンションの部屋の玄関を、
二人の若い取り立て屋がひっきりなしにどんどん叩いた。
「金田さん、いるんでしょ。金があるのは名字だけですか」
私は、毎日毎日、寝室のベッドの上で両耳を手でふさぎながら、
彼らが帰るのを待った。ひと月ほどそうしていた。
その日も、彼らはやってきた。
どんどんどんどん。金田さん、いるんでしょ!
私は、ひとつ深呼吸をすると、思いきって玄関を開けた。
そして言った。
「あの、私、松井ですけど」
その時の彼らの驚いた顔は、今でもはっきり覚えている。

2015年3月26日。
35歳の誕生日に、私は松井秀喜の顔になった。
背番号55の印象が強い松井だが、
現役最後に所属していたタンパベイ・レイズでは35をつけていた。
松井選手の大ファンだった私にとって、
それは、最低な野球の神様がしてくれた最高の計らいだった。

東京丸の内で、薄いピンクの女性用の制服を着た小柄な
松井秀喜を見かけたら、それが私です。
雑誌の付録の小さなトートバックを持っていることが多いです。
どうぞ気軽に話しかけてください。
気軽に握手します。写真も好きなだけ撮ってください。
ただし、サインはお断りする場合がございます。


出演者情報:平間美貴 03-5456-3388 ヘリンボーン所属


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小野麻利江 2014年10月19日

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「川まで食べて。」

      ストーリー 小野麻利江
         出演 平間美貴


「川まで食べられます」
って、メールで誤変換した。
皮を剥くほうじゃなくて、
riverの「川」のほう。
先輩が家を建てたお祝いに
ぶどうを持って行って、
「ちなみにそのぶどうは、
皮まで食べられるやつです」って、
帰ったあとメールで
追伸しようとした時のこと。

流れてる川、飲むならともかく、
食べちゃってどーすんだ。
そう独りツッコミを入れながら、
おなじ頭で、多摩川は食べにくそう。
最後のほう、砂利おおそうだし。
って考えてる自分がいた。

利根川は関東ローム層多め。
なんか口のなか、「渋-っ!」てなりそう。
神田川沿い・御茶ノ水あたりの緑色の水って、
子どものころ、本当のお茶だと勘違いしてたけど、
食べたら実際、抹茶だったらいいのに。
隅田川を食べたら、
屋形船をスイカのタネみたく、
ペッ、ペッ、と吐き出さなきゃだね。
上流の荒川は、
土手を残したらダメかしら。

四万十川はところてんみたいに、
すきとおっていそうだね。
安倍川を食べつくしたら、
「安倍川餅」は
ただの「餅」になっちゃうね。
長良川はいちど食べた後、
鵜みたいに吐き出さなきゃかな。
石狩川。シャケも、シャケを捕るクマも、丸呑みだ。

「川の食べ方」なんてハウツー本が出るのも、
時間の問題かもしれない。
「川ソムリエ」を名乗る奴も現れて、
「30年ものの鴨川、置いてます。」
「今年の富士川は、ここ10年で1番の出来」
なんて、きっとドヤ顔で語りだすんだ。
川の養殖も、盛んになるだろうな。
日本じゅうが、何かの川の養殖場。
増えまくった川を宇宙ステーションから見て、
「日本は青かった。」なんてセリフ、
誰かが言いだすね。100%言いだす。
そうこうするうちに、日本最長の信濃川を
ノドにつまらせる事件が多発して、
川をまるごと食べるのは危ない!
みたいな空気になって、
ひと口サイズの川が、店頭に並んだりして。
もはやそれ、川じゃないけどね。


出演者情報:平間美貴 03-5456-3388 ヘリンボーン所属


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平間美貴から「ひと言」

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またまたお呼ばれさせて頂きました
唐揚げのレモンは断固反対(※肉が死ぬため) 
ブタ部名誉会長・平間美貴です

今回は小野麻利江さんの「川まで食べて。」を読ませて頂きました

毎度素敵な作品ばかり 
チーム中山さんとのお時間は どれもうれしたのしだいすきです

先日そーきゅとなダルさんが我が家にやって来たので
ちょっとご紹介させて頂きます

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ホント素敵です この凛とした佇まい
譲れない 揺るがない何かを感じます

だるまと雪見だいふくの季節ですね

赤ワインで呑んだくれて気づいたらば
ダルさんがオカルトなお顔立ちに

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反省 しきり
守ってあげたい そう思いました 切に

皆様にもだるまとの素敵なご縁があります様に。。。

平間美貴:http://www.herringbone.co.jp/talents/name/hiramamiki/

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直川隆久 2014年5月18日



毛のはえた鍵

     ストーリー 直川隆久
        出演 平間美貴


毛のはえた鍵を、拾った。
まさか、表参道で毛のはえた鍵を拾うとは思っていなかった。
拾いたいわけではなかったけど、
目があってしまったのだ。

手の中でそれはほのかなぬくみをもっていて
びち、びち、と動く。
気持ち悪いので捨てようとしたが、
鍵は、同じように毛のはえた錠前のところまで持っていけと、強く迫り、
ぎち、ぎち、と神経にさわる高い音をだす。
錠前?

道行く人にきいてみる。

「もしもし、毛の生えた錠前がどこにあるか知りませんか?」
「あなたのご質問はもっともです。
あなたはこう言いたいのでしょう――錠前はどこだ!」
「悪質な冗談はやめてください」

らちがあかないので、近くのカフェに入ってみる。
でも、毛のはえた鍵を持っている客なんて、ほかに誰もいない。
恥ずかしい。
いたたまれなくなって店を出る。

やっぱり鍵を捨てようと思って、
コンビニの前のゴミ箱に、そっと捨てようとしたら、
ランチパックと缶コーヒーを手にレジに並んでいる警官に
ぎろりと睨まれた。

この先ずっとこんなものを持って歩かないといけないのだろうか?
市役所に相談しようか。
おお、そうだ。

市役所のロビーで案内板を見ていると、中年女性に声をかけられた。
「あなた、その鍵にあう錠前さがしてるんでしょ?」
「え、はい」
「ここにあるよ」
中年女性が、ハンドバッグから毛のはえた錠前を取り出した。

鍵を、錠前にはめてみると、
あまり、きちんとはまらない。
鍵が、ぎち、ぎち、と不服そうな音をたてる。
中年女性は「ぜいたく言うんじゃない」と言いながら、
むりやりその鍵を錠前にねじ込み、わたしのほうを見てにこりと笑った。
「月水金しか持ち歩いていないからね。あんた、ついているよ」
「じゃあ、これ、お渡ししちゃっても大丈夫ですか」
「いいけど、ただというわけにはいかないねえ」
わたしは、なけなしの2万円をとられた。
しかし、この先、毛のはえた鍵を連れて生きていかなければならない
面倒さに比べれば、2万円なら安いものだ。

わたしは、せいせいして大通りに出、
喫茶店に入った。
カフェオレを注文して、汗もかいたのですこしメイクをなおそうと
トイレに向かう。
すると、ハンドバッグの中から、

ざりっ。ざりっ。

と、たくさんのねじをかきまわすような音がする。

不審に思ってバッグを開けると――
内側にびっしりと米粒ほどの大きさの毛のはえた鍵が
張り付いているのが見えた。
驚いて落としたバッグがタイルの床にぶつかると、
その鍵たちが一斉にぎちぎちぎちぎちと不平の声をあげはじめた。


出演者情報:平間美貴 03-5456-3388 ヘリンボーン所属


 

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平間美貴から「ひと言」


この度 またまたまたお世話になりました 
涙のキッスよりシュラバ★ラ★バンバ派 平間美貴です

前回も同じ時期 私が毎年花粉死してる時に
こちらに「ひと言」お話させて頂きました

折角なので個人的な花粉にまつわるエトセトラをひと言


毎年お世話になっている耳鼻咽喉科の先生がいらっしゃいます

その先生は
例えて云うならば 笑いを忘れぶっきらぼうを極めた三谷幸喜氏です

長年通っていますが
先生の笑顔はおろか 口角が上がった所も見たコトがありません

相手がおじいちゃんであろうとちっさいお子さんであろうと
それは変わりません

ただ 云い方や発音は冷たく聞こえても
我々の症状を詳しく分析してきちんと説明してくださり
より良い治療法を考えてくださってるのは凄く伝わるのです

そのツン裏デレぶりが堪らない結果なのか
先生を慕って沢山の人が通院してるのが理解ります

ちなみに今年の出だしはこんな感じでした
挨拶はいつも無く 先生は振り向き様に

先 「まぁ 花粉だよね」

平 「花粉。。。ですね」

世間話の様なものも勿論無いですし
普段は病院でそんなコトは思わないのですが
このツン裏デレ先生に限っては 
先生何か喋っておくれという欲が湧きまして 私は自ら問います

平 「先生どうですか??私の鼻の現状は??」

先 「自分ではどう思うの??」

平 「去年よりは全然楽なので 割と大丈夫かと」

先 「へえ。。。結構酷いもんだけどね」

ツンツンツンだもの
これを無の表情と無の音程で云い放ちますもの

この後は裏デレな説明を
同じく諸々「無」なままでしてくださいます

毎年この時期はホントに地獄ですが
年に1、2回 先生にお会い出来るのは何だか 
地獄の中の唯一のオアシスです

来年は私の問いかけをどんな風にはね返してくださるでしょうか
先生 また来年 宜しくお願い申し上げます

平間美貴:http://www.herringbone.co.jp/talents/name/hiramamiki/

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