安藤たかし 2017年3月5日

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冬の陽炎

    ストーリー 安藤たかし
       出演 村木仁

 その駅の、線路をまたぐ跨線橋の窓には、必ず四、五人の人影があって、
東京とは反対方向の線路の彼方を眺めています。
東京へ向かう電車が姿をみせるのを、見張っているとみせて、
そのじつ人々の目は、さらに遠くの、奥多摩の山並みを眺めているのかもしれません。
そのような、遠くを眺める人の、どこか茫然たる佇まいをしています。

 西新宿の会社に勤める川瀬さんも、そのなかのひとりです。
ただし電車がやってきて、ほかの人たちが寒いホームへ降りたのに、
川瀬さんはひとり残っていました。
すこしして、反対方向へ向かう電車がの真下から頭を覗かせたとき、
あわてて、そっちのホームへ駆け降りてゆきました。

 川瀬さん、じつは二日連続です。
きのう山並みをみているうち、「東京でないほう行き」に乗ってしまったのです。
そんなこと、はじめてでした。
すると、一駅一駅「なにか」から遠去かるのが、心配でなりませんでした。
電車がいったん乗り換えになる「青梅駅」で、もう限界とばかり降りました。
なのに時計をみると、たかだか三十分しかたっていません。
いったいなにから遠去かったというのだろう。
これから出社しても遅刻ですむくらいです。
わかることは、ひどくドキドキしたことだけ。
癖になりそうだと微かに予感しました。
そうして、きょうです。案の定です。二日連続で「青梅駅」です。

 川瀬さんは迷わず、街道の、きのうとおなじレトロな喫茶店に入りました。
店主が、顔を覚えていたらしく、「あ、どうも」とちょっと笑いました。
川瀬さんは「暇なんでアハハハ」と言い訳しました。

 コーヒーを頼むと、リュックからノートパソコンを出して、
いつもの、ドラゴンズファンの集まるサイトを開きました。
そこはブログをまとめたページで、川瀬さんも、じぶんのブログを載せているのです。

 あゝ今月から、沖縄キャンプがはじまっています。
おとといはフリーバッティング、きのうはシートバッティングでした。
川瀬さんは、CS放送を録画してチェックしています。
贔屓にしている二人の選手が、二人とも気掛かりな出来で、
そのことを書こうと思っていました。ピッチャーの伊藤と、ショートの堂上です。
 きょうは準規と直倫について書く、というタイトルにしました。
ファンにはそれだけで通じます。
書き出しは「準規は相変わらずであった」

 「つづけて「ストライクをとる自信が、みるからにない。
私の目には投げることそのものを怯えている、としかみえなかった。
ストライクどころか、球を投げることに汲々としている。
フォアボール、ヒット、フォアボール、ホームランという結果は、
ある意味予想どおりであった。思い出すのは去年のキャンプである。
まったくおなじ成りゆきで、シートバッティング途中で投球を禁止され、
即二軍行きを命じられた。
指令したのは去年のピッチングコーチで今年の新監督、森繁和氏その人である。
準規は去年の経験がトラウマとなり、
突然のイップスを発症したのではないか、と心配している。
きのうはそれほど尋常でないピッチングであった。
意外と評判の良い新監督であり、応援するにやぶさかでないが、
なにか恐ろしいところもあるような男かもしれない」とここまで書いて、
最後の行に「よい意味でも」とつけ加えました。
「よい意味でも、なにか恐ろしいところもあるような男かもしれないてんてん(‥)」

 なんだかいつもより疲れたけど、やめると書けなくなるので、
まずいコーヒーをおかわりして、つづけます。

「直倫も相変わらずであった」書き出しはとおなじにしました。
「直倫は美男である。人の良い美男である。
去年苦労してやっととったレギュラーなのに、
ライバルのルーキー京田や、眠い目をして虎視眈々の阿部とニコニコしている。
その笑顔が、いい人丸出しなのだ。
もちろん、打席にそれが出なければ、いい人でいい。出るから問題なのだ。
ライバルの京田と阿部が、抜け目なくヒットをったのに、直倫は中途半端な三振。
どこかまだ本気でないのである。
森新監督は、を意識して「足の速い選手を使う」と公言している。
阿部については去年、代理監督をやったとき、レギュラーの直倫をなぜか外して、
阿部を起用していた。それらはを評価していない、という新監督のメッセージと考えねばなるまい。
直倫よ、笑っている場合ではないのだ」
と書きました。読み返して、もうひとこと、最後につけ加えました。
「私は 心配です」と。

 勘定のとき、レジで、店主が、お近くですかとちょっと怪しむ目をしました。
「あっ、あっ、近いですアハハハ」川瀬さんは答えました。
 外は冬晴れで、暗い店内から出た川瀬さんは、道の明るさに、一瞬目眩に襲われました。
もうやることはありません。そのことにも目眩がします。
駅前のコンビニで、好物のメロンパンを買いました。
時間があるという言い方は、いまの場合変だよなあと考えながら、
駅の反対側へ行ってみることにしました。
そっちは山の斜面で、急な坂道になっていました。
途中、無人のテニスコートに陽が当たっていました。桜の木がたくさん植わっていて、
春はきれいなのかなと想像しました。

 上まで登ると、グラウンドがひらけていました。
茶色く枯れた、高い樹木たちを背に、野球のネットが立っています。
サッカーのゴールもあって、斜面を利用した観客席が設けられています。
川瀬さんは近くのベンチに座り、コンビニで買ったメロンパンを、袋からごそごそ出して齧りました。
人っ子ひとりいない広いグラウンドに、尖った透明な光があたっています。
明るすぎます。

 川瀬さんは、これからどうしようと思いました。
家へ帰って、きしてきたよと妻に告げようか。それとも‥
ここより先にも‥「きょう」はつづいてるんだよな。
ふいに線路がみえます。山へ延びています。
明るすぎます。
なにかが行方を隠しています。
メラメラと陽炎がたっています。
陽炎が逃げてゆきます。
川瀬さんは追いかけます。


出演者情報:村木仁 劇団新感線所属
          (ヴィレッヂ:http://www.village-artist.jp/


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お久しぶりの村木仁ちゃん(2017年3月の収録記1)

muraki
お久しぶりの村木仁ちゃんです。
Tokyo Copywriters’ Streetに参戦するのは
2012年のライブ以来だと思います。
(私はたまにご飯食べてます)
今回は、安藤隆さんの「冬の陽炎」を読んでいただきました。
http://www.01-radio.com/tcs/archives/29113

安藤さんはドラゴンズファンです。
いままでの原稿にも野球の話題が出てきまして、
そこに書かれている言葉の精緻さに驚いていたわけです。
私はフリーバッティングとシートバッティングの違いもわかりません。
しかし、村木仁ちゃんは元野球部です。
そのへんのところが安心です。
実は「読んで」ってお願いしてから
村木ちゃんが野球部員だったことを思い出したわけですけれども、
やれやれ、よかった。
そういえば親父たちが甲子園を目指すという映画「アゲイン」の
予告編を偶然見たことがあって
なんだか村木ちゃんに似た親父がホームへ向かって走っていましたっけが、
あれは似た親父じゃなくて村木ちゃん本体だったんだな。

そして、作品をお聴きになればわかるのですが
村木ちゃんはとても丁寧に読んでいます。
けっこう長い原稿です。
それを丁寧に読むのはとても体力が必要なことです。
さすが元野球部、というか、さすが劇団新感線でありました。
あ、書き忘れていましたが、村木ちゃんは劇団新感線の役者です。
あそこはね。体力がいる劇団なんですよ。

村木ちゃん、また来てくださいね (なかやま)




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つや姫




「つや姫」

              ストーリー 大越智明(東北芸術工科大学)
                 出演 村木仁

山形を南北に流れる最上川は
やがて東西に流れを変え、庄内平野に至る。
山のブナ林が育む水は日照りの夏でも涸れず
養分を含んで甘い。

その水で米をつくる。

形は、ふっくら、ちょっと大きめ。
そして粒ぞろい。
炊きあがったときの芳醇な香り。
美しい艶ととびぬけた白さ。
適度な粘りと歯ごたえ。
口いっぱいに広がる旨味。
飽きの来ない、程よい甘さ。
そして冷めても美味しいご飯。

そんな特徴を持ったのがつや姫だ。
「山形のお米美味しいね」
「山形のお米最高だね」
「日本の米どころといえば、山形だ!」
そういってもらえる米「つや姫」を
いま山形県は育てている。

山よし。
水よし。
そして、米よし。
人よし。
それが、私の出身地「山形」だ。

東北へ行こう


つや姫.comhttp://www.tsuyahime.com/

つや姫.jphttp://www.tuyahime.jp/

おいしい山形http://www.yamagata.nmai.org/

山形の郷土料理
http://www.city.yamagata.yamagata.jp/hoken/kyoudoryouri/



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中山佐知子 2012年8月19日



麦畑

         ストーリー 中山佐知子
            出演 村木仁

あたり一面の麦畑だったな。
ところどころに背の低い柳の木があった。

その細い一本道を
馬と一緒に行軍しているときだったな。
耳元でバリバリと音がしたかと思ったら
馬とおまえが血を流して倒れていたんだよ。

麦畑なんて
隠れるところもないもんだから
何十頭の馬はみんな撃たれて死んで
兵隊もずいぶん死んで
威張ってた連隊長も死んだけど、おまえも死んだ。

それから
知らない間に戦争が終わって
知らない国に置き去りにされて
それでもなんとか船に乗って帰って来たら
村の麦畑は石ころだらけで土もボロボロになっていた。

これはきっと
知らない国の麦畑で鉄砲を撃ち合って
死んだ馬とおまえを置き去りにした報いだと思ったんだ。

それから
石をどけ、麦をつくり、麦わらを鋤きこんで土を肥やして
三年たったら、麦の穂は重く実り
麦わらはお日さまにつやつやと輝くいい色になった。

その麦わらを水につけると柔らかくなる。
やわらかくなったら帽子が編める。

かぶるとだぶだぶの麦わら帽子。
大きくて、風が吹くとすぐに飛ばされて
狭いところでは邪魔になって
帽子のなかでいちばん戦争に向いていない麦わら帽子。

どこにもいかず
ずっと麦わら帽子をかぶって働いていればよかったな。
戦争になんか行かなきゃよかったな。

麦わら帽子を編んでいると
おまえが死んだ麦畑を思い出す。
踏み荒らされた麦畑、
機関銃の弾や人や馬の死体でいっぱいだった
あの麦畑はいまも麦畑なんだろうか。
誰かが世話をして、いい麦がとれて
残った麦わらで麦わら帽子を編んでいるだろうか。

そうだといいなあ。



出演者情報:村木仁 03-5361-3031 ヴィレッヂ所属



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村木仁から「ひと言」



初めまして、村木仁(47才、男性)です。

昨年、初めてTokyo Copywriters’ Streetのライブを観て、
何とも捉えどころのない魅力を感じました。
同時に、その魅力を自分も読む側になって体感してみたいという
衝動にかられました。
そして先日、配信用の収録で中山佐知子さん作『麦畑』を
読ませていただいたのでが、びっくりしました。
何でしょう?この感覚。
身ぐるみ剥がされた様な感覚とでもいいましょうか。
身ぐるみ剥がされ、醜い中年男の裸体をさらしてしまいました。
醜くてすいません。
あー、もう少し上手くなりたいです。

9月のライブに初めて参加させていただきます。
まず間違いなく無防備な素っ裸な中年男のままでしょうね。
決して露出狂ではありません。
何卒、よろしくお願いします。

村木 仁

* Tokyo Copywriters’ Street ライブ:http://www.01-radio.com/guild/

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