中山佐知子 2010年2月20日ライブ



この宇宙に生まれたすべてのものに 

          ストーリー 中山佐知子
             出演 大川泰樹清水理沙

 この宇宙に生まれたすべてのものに刻まれた
 たったひとつの言葉がある。

 会いたい。会いたい。

 だから、ビッグバンがはじまったとたんに
 素粒子と素粒子は出会って陽子と中性子になり
 陽子と中性子が出会って原子核になった。

 原子核は4000度の熱のなかで電子に出会って
 はじめての原子になり
 その原子からこの世のすべてが生まれた。

  会いたい。会いたい。
  酸素は水素と出会って水になり
  炭素と酸素の出会いで二酸化炭素ができた。

  会いたい、会いたい。
  地球に存在した最初の2種類のバクテリアは
  ある日、不思議な出会いをして
  ひとつの細胞で一緒に暮らしはじめた。

 会いたい、会いたい。おまえを食べるために。
 あまりに多くの命が生まれたカンブリア紀は
 ついに生き物が生き物を食べる世界を生み出した。

  会いたい、会いたい。おまえを愛するために
  植物は風に花粉を運ばせて
  目指す相手にたどりつくすべを覚えた。

 会いたい、会いたい

 おまえを憎むために
 17世紀のヨーロッパでは
 4万人の魔女が曳きずりだされて火あぶりになった。

  会いたい、会いたい
  あなたを殺すために。
  1991年、5つの民族と4つの言語をもつ旧ユーゴスラビアでは
  市民が市民を虐殺しあう戦争がはじまった。

会いたい。会いたい

自分がひとりではないことを知るために。

会いたい、会いたい

 生きるために。
 愛して憎んで殺して
 もう一度ひとりになるために。
 そうしてまた会いたい。
 この世のどこかにいる人に。

会いたい

 この言葉はあらゆるものに刻みこまれ
 すべての物質の法則になって宇宙を支配しつづけた。

 だから、会いたい
 この言葉がある限り
僕はおまえを求めずにはいられない

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/
      清水理沙 http://ashley-r-senzatempo.seesaa.net/

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中山佐知子 2010年2月20日ライブ


できれば土に
                
           ストーリー 中山佐知子
              出演 清水理沙

できれば土に埋もれたいと思っている。
壁になりたいと思っている。
できれば息もしたくないけれど
小さな女の子だからどうしてもため息はでてしまう。

なれるものなら透明人間になりたいと思っている。
でも、小さな女の子だから
もとにもどる方法がわからない。

本当は何もしゃべりたくない。
石だから、壁だから、土なのだから。
しゃべろうとすると泣いてしまうから。

心が重くなって固くなって
びしょ濡れになって寒くなって
笑えなくなって、しゃべれなくなって
臆病になって
自分がここにいてもいいのかいけないのか。

みんなの視線と言葉がきっと針のように痛いけど
泣きそうな自分を隠しておくために
凍りついた目を大きく開いている。

どうしてそうなってしまったのか
どうして自分がいまそうなのか
きっかけは5分前でも、
原因は100億光年も彼方にあるから。
どうしてもわからない、わかりたくない。

泣かない小さな女の子はいつもそうして震えている。

年を取った大人はそれを見て
拗ねているとひと言で片付けてしまうけれど
そういう自分の心のなかにも
きっと泣かない小さな女の子がいて
誰にも気づいてもらえないまま凍っている。

誰の心のなかにも泣かない小さな女の子はきっといる。

僕は、そんな小さな女の子の手を取って
あたたかい場所へ連れ出すことのできる
小さな男の子になりたいと思う。

出演者情報:清水理沙 http://ashley-r-senzatempo.seesaa.net/

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細川美和子 2010年2月20日ライブ



世界で一番長い日

            ストーリー 細川美和子
               出演 清水理沙
                 
世界で一番長い日、
それはいつだと思う?

世界で一番、顔もみたくないようなケンカをした日?
世界で一番、あっけないくらいカンタンに仲直りできた日?
世界で一番、鳴ってほしい電話が鳴った日?
世界で一番、鳴ってほしい電話が鳴らなかった日?

世界で一番、生きていてよかったと思った日?
世界で一番、消えてなくなりたいと思った日?
世界で一番、願っていた願いが叶った日?
世界で一番、願っていた願いが叶わなかった日?

世界で一番長い日 
それは、いつだって今日なんだ
地球の自転は100年に0.002秒ずつ
遅くなっているらしいから

今日がそう
いつだって世界で一番長い日
だから毎日
わたしたちは終わりから遠ざかっているんだ
太陽のまわりをぐるぐるとまわりながら

だとしたら
あんなふうにあせることはなかったのかもしれない

終わりの予感に追いかけられて
あんなふうに不安になることも
さびしくなることも、問いつめることも
くらべることも

あんなことばで
傷つけることも、傷つけられることも

だとしたら
世界で一番長いその日に
もう一度わたしはあなたに会いたい

そしていつか
ずっとずっとずっと未来に
夕陽がずっと沈まない日がくるとき
わたしはきっと過去から自由になって
ずっとずっとずっと未来に

夜がずっと
終わらない日がくるとき
わたしはきっと未来から自由になって
ずっとずっとずっと未来に

朝がずっとこない日がくるとき
わたしはきっと
わたしから自由になって

世界で一番長いその日に
だれよりわたしは
あなたに会いたい

出演者情報:清水理沙

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細田高広 2010年2月20日ライブ (ショート)



想像通り                    

        ストーリー 細田高広
           出演 清水理沙

手塚治虫は、
人とロボットが一緒に暮らす
未来を描いた。

画家の小松崎茂は、空飛ぶクルマや
宇宙船のような建築を、未来に描いた。

キューブリックは、
宇宙人と出会う未来を描いた。

子どもたちの頭は
待ちきれない未来で一杯だった。

子どもたちは大人たちとなり、
未来を「都市」に変え、
「建築」に変え、「商品」に変えた。

だが、気付いてしまったのだ。

美しい田園や、青々繁る森や、子どもの公園や。
憧れの未来には
大切なものが描かれていなかったと。

恐ろしいことだが、未来は、
全く人の想像通りになる。

描こう。次の未来を。

出演者情報:清水理沙 フリー

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古田彰一 2010年2月20日ライブ


VOICE LOVE.
             ストーリー 古田彰一
                出演 清水理沙

そう。私はいつもそう。
声で、人を好きになる。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつも間違い電話をかけてくる男の人。
タイプの声だった。
白馬の王子様の声って、こんな声なんだと思った。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつのまにか、間違い電話を心待ちにしている私がいた。
そう、私は、恋に落ちていた。
ていうか、声に墜ちていた。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつもの短い台詞。もっと彼の声が聴きたいのに。
違う言葉を聞いてみたいのに。

チャンスは、相手のミスで訪れた。
今日に限って、彼は発信者表示を残した。
彼の電話番号。ここに折り返すだけでいい。

でも、なんて言えばいいの?
彼と同じく「あ、ごめんなさい。間違えました。」とか?
それじゃ話が広がらないし、
下手したらこれきりになっちゃうし。

ケータイを握りしめたまま固まっていると、
とつぜん着信音が鳴った。彼からだった。

「あ、ごめんなさい。いつも間違えてごめんなさい。
でも、どうしてもあなたの声が聴きたくて…」

波長ぴったりの、
声人(こえびと)ができました。

出演者情報:清水理沙 フリー

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三井明子 2009年12月24日



流れ星
          
ストーリー 三井明子
出演 清水理沙

気づいた時には、毎晩、
私の家で井上と食事をとるようになっていた。
その井上という男は、魚と野菜が好きで、酒もよく飲んだ。
私は井上のために、仕事帰りに新鮮な魚を買い、
野菜の煮物をつくった。
井上はおいしいおいしい、と言ってもりもり食べた。
私はそんな井上を見るのがうれしくて、
毎日がおだやかにすぎていった。

井上のことは、何も知らなかった。
どんな仕事をしているのか、
小奇麗な洋服はどこで買っているのか、
年齢も同世代ということしかわからない。
でも、特に知らなくてもいいと感じていた。
井上はギターが上手で、酒に酔うとよく弾いてくれた。
旅がすきで、若いころは気に入った町を見つけては、
転々としていたことを話してくれたことがあった。
「まるで渡り鳥みたいね」と私が言うと、
「渡り鳥なんかじゃないよ」と言った。

ある冬の日、夜空をながめながら、星座の話をした。
まぶしいくらい美しい冬の星座を、
2人でながめながら酒を飲んだ。
とても幸福な時間だった。

井上と過ごすことが、当たり前だと感じはじめていたある日、
井上は静かにいなくなった。
帰宅すると、井上の持ち物がぜんぶなくなっていたのだ。
といっても、井上の持ち物といえば、
ボストンバックひとつに収まる程度だったのかもしれない。

井上がいなくなった。
それを静かに受けとめると、
私は生きる意味を失ったように感じた。
食べることも、寝ることも、息をすることも無意味に感じて、
ただただ放心するばかりだった。
次第に、井上との日々は現実ではなかったように、感じるようになった。
井上との日々は、長い長い夢を見ていたのかもしれないと、
自分でもわからなくなった。

それから数日後、数人の男たちが私の部屋を訪ねてきた。
警察だった。
男の写真を見せられ、「見覚えはないか」と聞かれた。
髪型も雰囲気も違ったが、井上だった。
警察は「男の行き先に心当たりはないか」と、私に尋ねた。
私は「それを知りたいのは私の方だ、
何か分かったら教えてほしい」と聞き返した。

警察は、「その男は、井上ではなくイチハラという名前だ。
何か手がかりを思い出したら教えてほしい」と連絡先を残し、出て行った。
ドアの向こうで、彼らが話しているのが聞こえた。
「ホシはどこに流れていったんでしょう」と言っている。

そうか、井上は、渡り鳥じゃなくて、流れ星だったんだ。
と私は気づいた。
井上は、いつか流れて、ここに戻ってくるかもしれない。
だから、それまで引っ越しはやめよう。
井上のために毎日新鮮な魚を買って帰ろう。
そうとっさに、私は思った。

出演者情報:清水理沙

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸


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