水下きよし 「ちいさな旅人」



ちいさな旅人 (水下きよし七回忌特集)
                      

ストーリー 一倉宏
出演 水下きよし

その旅は私のささやかな そして曖昧な 自慢話だ

小学5年生になる春休みに はじめて長距離のひとり旅をした
電車を乗り継いで 関東のある街から 関西のある街まで
乗り換えは 上野 東京 そして京都 の3回
新幹線を京都で降りて 無事 叔母の住む街に向かうローカル線に乗った

平日の午後 乗客はまばらとはいえ 無人のボックスはなかったのだろう
私は車内を見渡し 窓際に白髪のそのひとのいる席の向かいに座った
おそらくは ちいさな会釈をして

いま知っていることばでいえば 「気品のある老紳士」
当時に知っていることばでいえば 「ちょっとかっこいいおじいさん」は
こころよく 小学生の私を迎え入れてくれた
なんだか・・・ どこかで見たような 頭のよさそうなおじいさん

2駅めも過ぎた頃だったと思う なにかの本を読んでいた私は 
向かいの そのひとに話しかけられたのだった
「本は 好きですか?」
決して口数が多いというタイプには思えない そのひとは
線路沿いの踏切が通り過ぎるあいだに ぽつりぽつりと私に話しかけた

「学校は 楽しいですか?」

いまでは 多くの悪口をいわれる「戦後民主主義教育」だけれど
すくなくとも 私の受けた学校教育はそんなものではなかった
それは 「希望」とか「理想」とか まっすぐに語るものだったから 
私はそれを 「大好きだ」と答えたと思う

そのひとはよろこんだ そして
「どの科目が好きですか?」 と 尋ねた

私はすこし考えて そして 2つに絞った
「国語 と 理科」
そう答えたら そのひとの眼が きらりと光ったことを忘れない

「そうですか・・・
 私もこどものころから 両方好きでした
 私は ずっと理科の勉強を専門にしてきましたが・・・
 どちらも すばらしい・・・
 そして はてしない
 ・・・宇宙も ・・・ことばも」

誰だったと思う?
その 向かいの老紳士は 誰だったと思う?

「どちらに進むにせよ
 ぼっちゃん がんばって勉強なさい」

そういって そのひとは 私の頭をなで 次の駅で降りた
そのひとは・・・ もしかして・・・

湯川秀樹博士 だったのではないか と思うのだ

その旅は私のささやかな そして曖昧な記憶の 自慢話だ
私の憧れが 勝手につくった思い出話でない限り

そのひとは素敵だった まっすぐに「未来」を語った

あの頃のこどもたちが みんな好きだった
「湯川博士」よ そして 「希望」よ 「理想」よ 「平和」よ
いつのまにか この時代のローカル線は・・・

どこへゆく?

*出演者情報 水下きよし 03-3709-9430 花組芝居所属

 

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一倉宏 2020年1月5日「僕はおみくじ」

僕はおみくじ

    ストーリー 一倉宏
       出演 地曵豪

ためらいがちに 手を伸ばし
君は僕を 引き寄せる
それは 偶然が必然になる瞬間
君は すこし驚く 
あっと ちいさな声をあげて

君が望んでいたのは
どんな 僕だっただろう 
ほんとうは
世界でいちばんの 大きな幸運
でなくても
中くらいの幸運 人並みでいいから
あるいは 
ささやかな幸運を 神に祈って
君は 両手を合わせたのだったか

けれども いうまでもないことに

ひとは 思いもよらぬ不運を
引き当ててしまう こともある
それもまた この世の習い
悲しみに出会うことのない人生は
この世には ないから

君を喜ばせる 僕もいれば
心配させ 不安にさせる僕もいる 
それでも わかってほしい
ただ喜ばせるために 僕はいない
そして ただ不安にさせるためだけの
僕もいない ということも

旅行には 行くといい
くれぐれも 盗難には気をつけて

転居も 考えていいだろう
そうすべき理由が あるとすれば

商売は そこそこ 欲を出さずに
相場は リスクを忘れずに

方角は 気分の明るくなる方へ
縁談は 焦らずに待って

ひとつひとつは 君への想い
せいいっぱいの メッセージ

僕は君の 勇気になりたい
僕は君の おみくじだから

そして 待ち人は まだ来ない
それが誰のことかもわからないまま
ずっと待ち続ける 君のために

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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一倉宏 2019年1月6日「愛について」

愛について

    ストーリー 一倉宏
       出演 大川泰樹

NHK Eテレの特集で それを見た
釜ヶ崎 ドヤ街の おっちゃんたちが
詩を書き 絵を描いている

家族と生き別れてしまった おっちゃんが
とうに 大人になっているだろう
娘たちの 幼い頃の思い出を
そこにあったはずの幸せを 書いている
それは 回想なのか それとも 幻想なのか
いずれにしても 書いている

思えば 詩を書くことも
ラインやメール 電話をすることも 
嫁さんをもらうことも 離婚することも
喧嘩することも 焼酎を飲むことも
みんな 同じかもしれない

笑うことも 泣くことも 怒ることも
同じこと だったかもしれない

それらはぜんぶ 愛について

おっちゃんのノートには
こんな言葉も 書いてある

テレビのニュースを見た
5才の女の子のノートが流れた

ママ もうパパとママにいわれなくても
しっかりとじぶんから きょうよりかもっと
あしたはもっとできるようにするから
もうおねがいゆるして ゆるしてください
おねがいします

おっちゃんのノートに 
書き写された 女の子のノート それは

なんて哀しい ラブレターだろう
なんて胸えぐる ラブソングだろう

おっちゃんはいう
だって僕みたいな しょうもない人間

なんで この子は こんな 
誰も助けて あげること 
できひんかったやろかなあ・・・ と

そういって おっちゃんは泣いた 
なんていうか ごく 自然に

僕はテレビを消して 自分の部屋に行く
いつものように 眠くなるまで
お酒を飲んで 音楽を聴く

その音楽は すてきな歌で
あまいメロディに わるくない歌詞

一人称が 二人称を どれほど愛しているか
一人称が どれほどいま 幸せを感じているか

その歌は その歌詞は なかなかいいと
感じていたのだけれど いつもは

でも そんなことなど 
どうでもいいじゃないかと
思えてしかたなかったのだ その夜は

そして 亡くなった母の夢を
ひさしぶりに見た 
夢の中の 母と話した
母もまた 泣いていた

そうだよね 泣くよね 
誰だって

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

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一倉宏 2019年1月1日「夢を追いかけて」

夢を追いかけて

   ストーリー 一倉宏
     出演 清水理沙

最近 夢 が足りないと感じている あなた
毎日を 明るく 前向きに過ごすために
いまなら 30日分の夢 を 
お試し価格でお届けします 
しかも 送料無料!

確かにね 年齢とともに失われるのが
夢 だからね なんて ついつい
思ってしまった あなた

そんなに簡単に 手に入るものじゃない
ってこと わかってるはずなのに
そんな 夢みたいな話
あるわけないのに  

ほら 年末の ジャンボなドリームだって
はかなく消えちゃったのに いつものように

それでも 夢を見る 
もしかして という夢を
そんなのは 夢でしかないのに 

夢は 夢として
それでも 夢を語るとしたら

いくらでもあったはず 
子供の頃の夢 学生時代の夢

夢のマイホーム 夢の世界一周旅行
宇宙旅行だって 夢じゃない 

なんて お金で買えるものばかり
そんな夢じゃなくて

夢から覚めたように
夢を見失ってしまったのは いつからか

 夢のある
 夢のような
 夢はあきらめても

 夢はかなう 
いつかかならず
 とは 
ゆめゆめ 思わないけれど

今夜も おでんと缶ビールを買って帰る
デイドリーム・ビリーバーを
口ずさみながら コンビニで

それでも やってくる
明日のために

おやすみなさい
よい夢を



出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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一倉宏 2018年9月2日「ことばになりたい(2018)」

ことばになりたい
                  
   ストーリー 一倉宏
     出演 清水理沙

できるなら 三角定規よりも 鉛筆になりたい
筆箱よりも 教科書よりも コンパスよりも
前の席の藤原くんが 隣の白川さんに消しゴムを借りた
透き通った緑色の ブドウ畑の甘い匂いのする消しゴム
3回目に藤原くんが手を延ばしたとき 白川さんは 
消しゴムをカッターナイフで半分に切って渡した あの夏
カッターナイフよりも その消しゴムよりも
やっぱり私は 鉛筆になりたい

できるなら テニスのラケットより ボールになりたい
鉄棒より ハードルより ストップウオッチよりも
そろそろガットを張り替えたほうがいいよ と
コーチに言われた私のラケットは 姉からのおさがりだった
3年生になっても 校内大会の1回戦で負けてしまった
大原さんと私のペア ごめんね 大原さん
それでも私は テニスと仲間が好きだったから
やっぱり私は テニスのボールになりたい

できるなら 座布団よりも コタツになりたい
ふかふかのベッドより バスルームより クロゼットよりも
はじめてデートした吉岡くんは そうとうの寒がりで
映画館を出たらまだ7時なのに もう帰ろうと言った
それから吉岡くんちに上がって コタツに入ってテレビを観た
案の定 ミカンがあって 熱いお茶があって
「日曜洋画劇場」がはじまった 「はっきり言って
きょう観たロードショーより面白いじゃん」 と笑った
そんな私の人生だから 
映画館より ホテルのロビーより
やっぱり私は コタツになりたい
立派なコンサートホールより 大きなスタジアムより 
ライブハウスになってみたい
交響曲第何番より 弾き語りの歌になりたい
ズワイガニやタラバガニの 無口な美味しさよりも
やっぱり私は お好み焼になりたい
喫茶店のテーブル ローカル列車のボックス席
真夜中にかかってくる電話に 私はなりたい

ビジネス街のエグゼクティヴな英会話にはなれないから
勤め帰りの商店街で ばったり逢った同級生との
おしゃべりに 私はなりたい
できるなら 私はなりたい
だれかに届く 手紙になりたい
カワイイとか ムカツクとかの 評判よりも
成功したとか しないとか 風の噂よりも
「お元気ですか?」の 手紙になりたい
届いて2週間 3週間
返事を書きたくなる 手紙になりたい
「うれしかった!」の 手紙になりたい

そうだ 私は ことばになりたい
都会で 男たちが振り返るスタイルよりも
手帳に びっしりのスケジュールよりも
あなたに届く ことばになりたい
たとえ 上手なことばではなくたって
枯葉をサクサク踏みながら 公園でポツリポツリ
あなたと通える ことばになりたい
やっぱり私は ことばになりたい



出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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一倉宏さんの東京コピーライターズクラブ大学

東京コピーライターズクラブ大学 vol.8

講師:一倉宏さん/(1982年TCC入会)

《コピーの「国語」と「音楽」の話》
コピーについて「ことば」「日本語」という視点から考えたり、
また「音」や「音楽」の働きについても話してみたいと思います。

日時:2018年7月22日(日)15:00-17:00
 ※17:00から懇親会あり(希望者)

参加費:1,000円
 ※非会員の方は2,000円となります。
 ※懇親会参加費 別途1,000円(当日支払い)
 ※参加費はTCCCの運営に使わせていただきます。

会場:TCCクラブハウス
   東京都渋谷区神宮前5-7-15     
定員:35名(先着順)

お申し込み方法:6/22(金)12時頃にお申し込み用peatixページを
facebookにてお知らせいたします。

申込締切:先着順で定員が埋まり次第、受付を終了。
※参加者は連絡なく欠席された場合は次回以降の申込を
 ご遠慮いただく場合がございます。やむを得ない事情で
 欠席される場合は、必ず下記に連絡をお願いいたします。
 office@tcc.gr.jp 

必須項目:申し込みの際に下記項目の入力が必須となります。
名前/年齢/コピーライター歴/所属会社

講師プロフィール:
一倉宏さん/(1982年TCC入会)
サントリーの宣伝部、制作セクションに、コピーライターとして
30代前半まで勤務。その後、仲畑広告制作所を経て、事務所を設立。
モルツ「うまいんだな、これがっ」、松下電工「きれいなおねえさんは
好きですか」、SONY ウォークマン「哲学するサル」編、学生援護会サリダ
「憲法第22条の歌/職業選択の自由」、NTTデータ「ホーキング博士」編、
JR東日本「愛に雪、恋を白」「MY FIRST AOMORI」、ファミリーマート
「あなたと、コンビに」、リクルート「まだ、ここにない、出会い」などの
コピーのほか、CMソングにはじまり多くの作詞も手がけられています。
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ご参加、お待ちしております!

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東京コピーライターズクラブ
tel.03-5774-5400
fax.03-3406-7433
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-7-15

東京コピーライターズクラブ

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