山形へ行きたいと言われたら

山形へ行きたいと言われたら

              ストーリー 南慧(東北芸術工科大学)
                 出演 清水理沙

山形に行きたいと言われたら
何もないよ、と言ってしまうけど。

ここは空がとても広くて
夜になると星が綺麗なところ。
星座が本当に
本で見る星座と同じ形をしているって知ったのは
ここに来れてからだよ。

ここは沢山の色があるところ。
夕方になると空が綺麗なグラデーションになる。
毎日少しずつ違う色で、夕暮れがこんなに表情があるなんて
ここに来るまでは知らなかったよ。

ここは歩くと花や虫や石ころがとても目に付くところ。
目的がなければ歩かなくなって
道端の花に目を留めることがなくなっていたんだなって
それに気付いたのも、ここに来てから。

どこにでもあって、ここにしかない。
私はここで生きている。東北で生きている。

東北へ来てください。

やまがた最上の達人http://ameblo.jp/maemori03/entrylist.html

やまがたへの旅http://yamagatakanko.com/

南東北のプラネタリウム
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清水理沙ちゃんの事務所が近い(収録記2012.04.28-5)

清水理沙ちゃんが所属する事務所は
ランダムハウスから近い。
まだ行ったことはないが、歩いて数分だそうだ。
事務所に用事のあるとき、理沙ちゃんはランダムハウスの前を通る。
私がいるかどうか、ときどき見上げることがあるらしい。

それならいっそ、と思う。
マネージャーも連れて夕方から遊びに来れば酒もあるし。

理沙ちゃんは小学校の頃から知っているので
もう大学も卒業して酒まで飲むようになったのが不思議だが
しかし、理沙ちゃんはあなどれないほど酒が強い。

今回、清水理沙ちゃんは古居利康さんの原稿を読んでいる。
「スメタニ」というその原稿のタイトルに関して
ふたりでいろいろ想像してみたが
どうも正体がわからなかった(なかやま)

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古居利康 2012年5月20日

スメタニ  

           ストーリー 古居利康
              出演 清水理沙

そのことについて
かあさんととうさんが話すとき、
かならずふたりの声はささやき声になって、
表情がどんよりしてくる。
漫画で言えば、背景と人物にタテの線が
何本も重なって、あたりが重くなる感じ。
わたしはいつだってそんなふうに感じていて、
こどもには事情がわからないだろう、
ふたりがそう思っていることも感じていて、
わたしは何もわからない、
ばかなこどものふりをするのだった。

そのことがじっさい、何のことなのか、
わたしにはかいもく理解不能なのだけれど、
ふたりが交わす会話のひそやかな怪しさ、
かあさんの険しい顔と、
とうさんの困惑ぎみの顔を、
ちらりと盗み見たりしてるくせに、
聞いていないふうをよそおうじぶんに、
後ろめたさを感じている

 スメタニ。

それが、そのことについて
かあさんととうさんが話すとき、
決まってひんぱんにに登場する
暗号みたいなことばだった。というか、
ふたりは、おもに、スメタニうんぬん、
という何ものかについて、ひそひそと
顔寄せ合って、どよーんとしているのだった。

 こんどスメタニが、

 スメタニときたらもう、

 またスメタニに、

そんなふうにささやくのは、
かあさんの方。どこかめいわくそうで、
こわい眼をしたかあさん。
とうさんは、スメタニのこと、ほんとは
それほどいやでもないのに、
かあさんの表情がきつくなるのを見て
こまっている、といったふぜい。

スメタニというのは、
まちがいなくよからぬもので、
かあさんと、とうさん。
とりわけかあさんに災難をもたらす
何かなのだ、とわたしは考える。
とうさんはいかにも苦りきった顔つきで、
だいたい黙ってしまう。
スメタニのなんたるかもわからぬまま、
スメタニに反発をおぼえるわたしは、
知らないうちにかあさんの味方を
しているのかもしれなかった。

 スメタニってなぁに?

聞いてはいけないと思っていた。
聞いたところで、かあさんはあいまいに
笑うか、やりすごすだけだっただろう。
ましてや、とうさんになんか、
聞けっこない。眉間にシワ寄せて、
にらまれてジエンドだ。

 そうだ、ススムさんに聞けばいい。

わたしはそう思っていた。
ススムさんというのは、わたしのおじさん。
かあさんのいちばん下の弟だ。
いつもとつぜんうちにいて、
わたしが学校から帰ると、にやにやして、
おっきなリュックのなかから
おみやげを取り出してくれたりする。

あるとき、リュックのなかから
ラムネの瓶を取りだして、わたしに言う。
「世界でいちばんおいしいのみものだよ」
よく見たら、ラムネじゃなかった。
瓶は透明で、なかみは見たこともない
青い液体だったので、いっけん、
ラムネの瓶に見えたのだ。
「のんでごらん。ただし、はんぶんだけ」
世界でいちばんおいしい、って、ほんと?
はんぶんだけ、ってなんで?
そう思ったけど、ススムさんはもう
ふたをくるくるあけている。
「ぜんぶのまないように、ね」

青いのみものをほんの少しのむ。
ほんとにおいしかった。
気がつけば、ごくごくのんでいた。
ススムさんがあわてて瓶を取りあげる。
「ぜんぶは、まだだめなんだって」
「世界でいちばんおいしいかどうか、
 もうちょっとのまなきゃわかんない」
ススムさんは、
もうふたをくるくるしめている。
「ねえさんにはないしょだよ」
そう言って、ウィンクなんかしてる。
なにこのおじさん。
たしかにすごくおいしい気がするけど、
これが世界でいちばんだったら、人生、
このさきまだ長いのに、ちょっとさびしいよ。

「この青いの、なにでできてるの?」
「遠い国の奇妙な果実」
「遠い国ってどこ? きみょうってなぁに?」

ススムさんには、いつも質問ぜめになる。
漫画で言えば、瞳のなかにキラキラ、
星がふたつみっつある感じで。
じぃっと見つめる。ススムさんは、
ちゃんと答えてくれる。
むずかしいことでも、こども向けに
へんにやさしくしたりしないで、
むずかしいままわかるように、
まっすぐ答えてくれるからすき。
だから、ススムさんなら聞けると思った。
知らなかったら知らなかったで、
かえって気楽だ。

 スメタニって、なぁに?

「スメタニ?」って言ったきり、
ススムさんは真顔で黙ってしまった。
考えこむ、というより、
時間が、かたまっちゃったみたいに。
眼玉だけ忙しく動いている。
といって、かあさんみたいな
しかめっつらではなく、
とうさんみたいにこまったふうでもなく。
いっしょけんめい思い出そうとしてるけど、
やっぱりほんとに知らないみたいで、
じぶんの知らないことを、なぜこの子は訊く、
といった顔に、ゆっくり変わっていった。

そのあと、うちでごはんを食べて、
ススムさんは帰っていった。

夜、歯みがきのとき、わたしの口もとを見て
かあさんが声をあげた。

「なに、その青いの・・」

鏡を見たら、口のまわりが青かった。
ハミガキ粉の白と混じって、
空色がかった青になっている。
ぶくぶくして口をあけたら、
舌べらが、まだみっちり青かった。

「もう。なにこの青いの」

かあさんがプンプンしている。
そのとき、いまだ、スメタニのこと、
聞いてみよう! って、とつぜん思って
スメタニ、って言おうとしたら、
口のなかにヘラみたいなものを突っこまれた。
わたしの舌べらを、かあさんが
ワシワシワシ、と、こすっている。

「なにこれ。青いの、とれない」
かあさんがためいきをついた。
舌べらがじーんとしびれていて、
スメタニ、なんてちょっと言えそうもない。
今晩はやめとこ。

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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井田万樹子 2012年3月4日

「午後の山陰本線出雲市駅〜益田駅」

         ストーリー 井田万樹子
            出演 清水理沙

ガッタンゴットン がったんごっとん
おばあさん2人 ゆっくり揺れる
ジャージ姿の中学生 
作業服のおじいさん
日焼けしたおばさんも
ガッタンゴットン ゆっくり揺れる

いつのまにか 起きているのは わたしだけ
みんなみんな がったんごっとん
上を向いて 横になって 
もたれかかって 崩れ落ちて
ガッタンゴットン 眠ってる
親子でぽっかり開けた口 
けわしい顔のおばあさん

ガッタンゴットン がったんごっとん
列車は 小さな駅についたけど
人の気配も 何もいない
きっとこの町も 眠っているんだ
駅のベンチも 電柱も 郵便局も 犬も毛虫も
世界は 昼寝の時間なのだ

ガッタンゴットン がったんごっとん
新聞を手に持ちながら
扇子を握りしめたまま
ガッタンゴットン ゆっくり揺れる

みんなが眠っているうちに
わたしはこっそりあだ名をつける
ひげもじゃキュウリ
ハイソックス少年
バーテンみよちゃん
ペンタごん

ガッタンゴットン がったんごっとん
眠っている人たちは
幸せそうに見えるけど 不孝にだって見えるのだ

深いしわの おばあさん
リクルートスーツの大学生
赤ん坊を抱いたお母さん

窓の外を眺めながら わたしは思う
わたしは 誰かのためを思うふりをして
結局 自分のことを思ってるんじゃないかしら
ガッタンゴットン がったんごっとん
わたしの感情はいつもどこか 
小さな罪につながっている

どこまでも続く このトンネルを抜けたら
窓のむこうに 海がひろがってるといいな
ずっと遠くに 小さな船をみつけられるといいな
山の斜面に 段々畑が並んでいるといいな
稲穂がいっせいに風に揺れる瞬間を みれるといいな
太陽が沈む直前の 世界が黄金色に輝く瞬間を みれるといいな
 
みんなが眠っているうちに
消えてしまう一瞬を みつけられるといいな

どこからか みかんの香りがしてくる
誰かが 目をさましてしまった

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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清水理沙から「ひと言」

こんにちは、清水理沙です。
ここでの登場は、初めてです。
2年ぶりに出演させて頂きました。
なので、ランダムハウスでの収録も初めてでした。

初めて読ませて頂いたのはいつ頃だったのだろうと
HPを辿っていたら、
高校生のときで、もう6年前。
(ちなみに中山さんとの出会いは、小学生のときです笑)
それから何本か出演し、ライブにも参加しました。
その都度、たくさんのことを勉強させて頂き、
わたしにとってはありがたくて大切な場所です。

今回、少しは成長しているでしょうか…?
わたしは井田真樹子さんの作品
山陰本線の出雲市駅~益田駅」を読みました(3月4日公開)
収録中は幸せな気持ちでいっぱいでした。
近いうちに、ひとり旅でもしたいものです…。

ところで、収録当日に中山さんに頂いたパン。
とっても美味しくて、
帰宅してからもパクパク食べてしまいました。
以前にも頂いたような気もするのですが、
今度どこで売っているのか教えてください!

写真ですが、来月開通予定の新東名高速道路です。
静岡の友達の家へ遊びに行ったとき、この場所へ連れてってくれました。
真っさらな道路、とっても気持ちが良くて思わず写真を撮りました。
それにしても、車や電車とかって、わくわくさせてくれます。
今年の目標は、思いっきりひとり旅をする!に決めました。

清水理沙:http://ashley-r-senzatempo.seesaa.net/

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岩崎俊一 2010年3月11日



     ストーリー 岩崎俊一
        出演 清水理沙

やっぱり犬にはかなわない、とヒトミは思った。

朝、学校に行く途中で、うしろ足が一本ない犬に出会った。
道の端を、人に連れられ歩いていた。
歩くたび、からだが上下に揺れる。他の犬に比べれば、
あきらかに歩みは遅く、歩調もなめらかではない。
しかし、犬に卑屈の影は見えない。
自分ののろのろとした歩みに焦れるでもなく、気おくれするでもない。
顔に憂いもなく、目にはおびえもない。
自分ならどうだろう、とヒトミは思った。
とてもあんなふうにはふるまえない。
泣きわめき、物を投げ、親にあたるだろう。
あるいは心を折り、ふさぎこみ、死ぬことも考えるだろう。
だが、犬は悲運を嘆くことはない。
身の不幸を言い募ることも、自暴自棄に陥ることもない。
そうか、とヒトミは思う。
犬は絶望しないのだ。
犬はもともと、「人生に」望外な期待など抱かないのだ。
犬は、ただ生きている。
目の前のものを食べ、与えられた足で歩き、
眠くなれば目を閉じ、一日に二回外の空気を吸い、
うれしければ尾をふり、解き放たれれば走る。
飼ってくれる人を選ばず、
飼ってくれている人が嫌いになって逃げ出すこともない。
あるがままの運命を受け入れ、ただ淡々と生きている。
犬は先生だ、とヒトミは思った。

ヒトミはもともと、じっとしていることが平気な、犬という生きものに
敬意を抱いていた。
近所にずっと、庭につながれている柴犬がいる。
通学の行き帰りに顔をあわせれば、「やあ」と声をかける。
犬は寝そべったまま、ピクリと耳を動かし、一瞥をくれる。
朝も、夕方戻ってきた時も、同じ場所、同じ恰好で寝そべっている。
ずっと何時間もそのままなのだろうか。もし私がそうなら、気が狂ってしまう。
なぜ犬は平気なんだろう、といつも考えてしまう。
一度だけ散歩途中の「動く彼」に会って、なんだかほっとしたことを覚えている。

ヒトミは、一年前、犬に死なれた。
自分より少しあとに生まれたサクラというメスの柴は、15歳で亡くなった。
最後の一年は病気勝ちで、もう長くはないと医者に言われた時、
ヒトミは涙がとまらなかった。なんて短い一生だろうと思った。
私と同じ時に生まれ、私が大人になる前に死ぬ。
これっぽっちの時間しか生きられないなんておかしいよ。
そう言って、ヒトミは泣きじゃくった。
その時、父が言った言葉が忘れられない。
「ヒトミ、人間のいのちが長過ぎるんだよ。」
犬のいのちは、人間の目から見れば短いだろうが、
なあに、犬はそのことに不満は感じていない。
これくらいでちょうどいいと思ってるよ、きっと。
バイバイ。さよなら。お先です。かわいそうなのは、あなたたちだよ。
つらい思いばかりして、
私たちの何倍もの長い人生を送らなければならない人間たちだよ。
父の話を聞いて、そう言えば人間も大変だ、と
ヒトミはちょっと泣き笑いになった。

静かに散歩する三本足の犬に出会った日、
ヒトミは学校の帰りに花屋に寄った。
サクラが死んで初めて、居間のサクラの肖像画の前に飾る花を買った。

出演者情報:清水理沙

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動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸


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